俺、きのこです。

禎祥

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きのことくしゃみ

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朝起きたらきのこでした。
何だかんだ色々あって、俺は今マスコットのようなエリンギの姿にアンバランスな人間の腕が生えたキモい物体。
一晩経っても元の姿に戻ることはなく、この夢のような現実をまだ受け入れられていない。

俺を再び狙ってきた雀の大群から逃げてきたのは良いのだが、間違えて森に入ってしまった。
夜明け前ということもあり、森の中はまだ真っ暗だ。怖い。

「森の中から山に向かう手もあるが、方角見失いそうなんだよなー。」
右も左も木ばっかりだもの。俺の方向音痴を嘗めるな。地図を見てても迷子になるんだぞ。確実に迷う。うん。

今ならまだ、焚き火が見えるから夜営地に引き返せる。そうすれば山めがけてまっすぐ進むだけ。
「でも、絶対まだあいつらいるよなー。」
大群の雀に啄まれる恐怖と言ったら…。

ぶるり。

思い出すだけでも体が震える。

「てか、寒い…?」

夜明け前の森の中は、ヒンヤリとした霧が立ち込めてきている。湖が近いからだろうか、どんどん濃くなる霧と夜の暗さで視界は非常に悪い。汗だく(汁だく?)になったせいもあるのだろう、寒気を感じる。
きのこ本体は暑さ寒さにも鈍いようだが、腕は生身。寒さで蒼白くなり鳥肌が立っている。

「ぶえっくしょーいっ!」
ボフッ

親父のようなくしゃみが出た。
え?ボフ?
疑問に思うと同時に鼻がムズムズ。

「ぶえっくしょーい!」
ボフッ

「ぶえっくしょーい!」
ボフボフボフッ

あ、わかった。これ胞子だ。

「ぶえっくしょーい!」
ボフボフボフッ
やばい、止まらん!

「~っ!」
堪らず鼻と口を押さえて胞子が入るのを防ぐ。摘まんだ鼻の奥でクチッとくしゃみが出たけど、それきり何とか治まった。

「…ふぅ。やっと治まったよ。ん?待てよ、胞子ってことは…。」

にゅっ

目を開けた俺は、と目が合った。

「「あ、俺がいる…。」」

俺が増えた。
目の前には、小さい俺。視覚を共有している不思議な感覚。腕は人間の物ではない。マスコットのようなフォルム。

小さい俺は自分の腕を見て、俺の腕を見て、頷くと一言。

「パパ。」

「ふざけんな俺!」

にゅっ
にゅにゅっ

どんどん生える俺。


「「「「パパー。」」」」
「やめて!パパじゃないからっ!」

「「「「じゃあ、ママ?」」」」
「生んでねぇよ!」

「「「「じゃあ、あ~にき~!」」」」
「誰が悪の軍団のボスだ!貴様らなどアカ●レッドのア●ギオロシで駆逐されてしまえ!!」
つか地元民にすら伝わらないローカルヒーローネタ持ってくんな!


ボケるのも俺、ツッコむのも俺。何だこのカオス。



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