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25 代償
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王宮に来た魔女の継承者であるミルキー。
彼女は魔女から与えられた魅了の力でみんなを虜にしていきました。
そうしてミルキーは、王宮で幸せに暮らしましたとさ。
チャンチャン
「―――で終われないのが現実なんだよね……」
庭園でピクニックをしている王宮の渦中にいるミルキーを眺める。
数時間程度、王宮の一室から彼女を見ていたが、わかったことと言えば彼女の承認欲求くらいだ。
「みんなに見られ続けるの、苦しいって感じないのかな」
彼女はいつでもどこでも、誰かに見てもらわないと気が済まなかった。
話題の中心は常に自分、視線の先も常に自分に向けられてないと許せない。
最近では、とうとう国の上層部をも魅了し始めたらしい。
この国は、彼女をどうするつもりだろうか。
魔女の継承者は、民衆にとっては憧れの的だ。
民衆たちは魔女を愛している。理由は様々だが、一番は特出した能力をもっているからだろう。
そんな愛すべき魔女様と接点をもっている継承者たちが敬われるのは至極当然のこと。
そして、愛されている魔女の継承者を排除するのは、すさまじく至難の業。
「大きな問題が起こってないのも、厄介な点なんだろうなぁ」
のんびりと彼女の観察、もとい監視をする。
同じ魔女の継承者として監視役に抜擢されてはいるが、役に立つことを期待されてはいないため、こうして怠惰な生活を送っている。ただ、問題は一個だけある。
「ミルキーを好き過ぎる人が多すぎる……」
彼女のことを話そうものなら、どんな内容であれ凄まじい非難にあう。
これが会う人会う人そうなのだから、おちおち彼女の居場所を聞くこともできない。
そうこうして過ごしていると、とうとう彼女が王座の間に呼び出されることになった。
私はそこで、変わり果てた知人たちを見ることになる。
「ねぇキリル~、のどかわいちゃったぁ」
「はい、ミルキー様」
「ディアクロスぅ、わたしぃ、つかれちゃった~」
「………」
ここが王座の間だと思えないほど、彼女の独壇場だった。
加えて、テディさんとキリルさんの変わりようだ。
キリルさんは召使いのようになっているし、テディさんは無言ではあるけど彼女のために椅子を用意している。
衝撃的な光景ではあるが、魅了の力のことを考えれば無理もない。
それほどに、彼女に付与された魔女の力は強大なのだ。
「ゴホンッ……、よろしいかね?」
王座に座って沈黙していた王様は、とうとう話をし始めることにしたようだ。
よかった。これ以上、知人たちの痛々しい様子を見なくて済む。
「貴殿はこの城で問題を起こして」「うわぁ~、あの鎧すご~い!」
「………」
まさかの王様の言葉をぶった切り案件。
驚きのあまり、王様が固まっている。
ついでに、隣にいる王妃様の額には薄っすらと青筋のようなものが……。
自分に十分に注目が集まったとわかったのだろう。
彼女は満足げな表情を浮かべ、両手を胸の前で握った。
(あの動作は……)
そう思った瞬間、彼女からキラキラとしたエフェクトが激しく放出された。
今までの比ではない魅了の力だ。
彼女はとうとうこの国の王までも掌握することを決めてしまったようだ。
王様はなすすべもなく、玉座の上で虚ろな顔になってしまった。
その隣に座っている王妃様も同様に。
「アハハ!これでみぃ~んな、わたしのも・の!」
ボーッとする人々の間をクルクルと踊るように通りすぎる。
玉座までたどり着いた彼女は、王をどかせ自分が玉座に座った。
無論、その隣にいた王妃様も他の兵士によって引きずり降ろされた。
一連の流れを確認した私は、行くところまで行ってしまった彼女に頭を抱える。
目の前で繰り広げられた光景から、彼女がこの城を掌握したことがはっきりと分かった。
そして、己の役割を果たさなければならないことも。
「彼らはあなたのものではありませんよ」
そう言って歩み寄ってくる私に、一瞬だけ驚いた彼女はすぐに余裕の表情を浮かべる。
「なぁに?羨ましいの?嫉妬ってみにくぅ~い」
優越感に浸った表情をしながら、彼女はそばに侍らせたテディさんにしな垂れる。
私は困った表情をしながら、彼女の目の前に立つ。
「ちょっと、邪魔なんだけど」
嫌そうな顔の彼女に微笑む。
「すみません」
いろいろな意味を込めた謝罪をした。
そして私は彼女に向かって手を伸ばし、周囲に舞う結晶を砕いた。
パリーンッ
「は?」
状況が理解できていない彼女をそのままに、私は次々と結晶を砕く。
無数にある結晶を砕くたび、周囲の人たちの意識がうっすらともどる。
そのことに気づいた彼女は、すぐさま私の行動をやめさせようと飛びかかってきた。
「あんたッ!なにしてんの!?」
「おっと、そうはいかないよ」
私に向かってきていた彼女の手が、キリルさんによって阻まれる。
周囲を見渡してみると、もうほとんどの人の魅了がとけていた。
一部、虚ろな顔をしている人たちもいるが時間が解決してくれる。
「なんでッ!どうしてッ!!」
取り乱す彼女を抑え込み、キリルさんは彼女を玉座の前に傅かせた。
意識を取り戻した王様は、いそいそと玉座に座り直している。
王妃様は自分の服についた埃を払っている。心なしか顔がこわい。
「ミルキーさん、私は言いましたよ」
「なにをッ」
「私も魔女の継承者だと」
こちらを睨みつけてくる彼女に、私は事の顛末を説明した。
まあ簡単に言えば、彼女の能力は私の能力と相性が悪かったということに尽きた。
私は『愛』に関するものを結晶として捉えることができる。だから、魅了の力も『愛』の一種とみなせば、それを結晶として砕くことが可能になる。
「じゃあなに?わたしはただ掌で踊らされていたの……!?」
淡いピンクの髪をふり乱し、ミルキーは叫んだ。
ボロボロになった彼女の姿を見て、私は目を伏せた。
「いえ、私は最後までこの劇に参加するつもりはありませんでした」
「………はあ?」
侮蔑の表情を浮かべる彼女に、真っ直ぐな視線を向ける。
今の彼女は、良くも悪くもありのままの姿のようだ。
「あなたがこの王宮を掌握しようがしまいが、私にとっては関係ありません。ただ、魔女の力が絡めば話は違います」
眉を寄せている彼女は、自分の姿がわかっていないのだろう。
近くにいたキリルさんに、そっとある事を頼む。
彼は静かに頷き、玉座の間を去った。
「魔女の力には代償が伴います。それは使う力が強ければ強いほど、使う回数が多ければ多いほど、大きな代償を支払わなければなりません」
訝し気な顔をしている彼女の前に、帰ってきたキリルさんが鏡を置く。
訳が分からないという顔をしていた彼女の顔が驚愕に染まり、そして絶望に染まった。
「イ、イヤァァァアーーー!!!」
彼女の美しかった桃色の髪は白く染まり、張りのあった肌は皺だらけになり、蜂蜜色のだった瞳も白く濁ってしまっていた。
「……力を使いすぎたんです」
「いやッ!こんなの嘘よッ!!」
正気を失った彼女は、騎士たちに外へ連れていかれた。
引きずり出されている間も、彼女の悲鳴が途絶えることはなかった。
きっと承認を渇望していた彼女にとって、容姿の欠落は大きなショックだったのだろう。
「………代償」
いなくなった彼女を思い浮かべ、いずれくる己の清算の日を胸に刻む。
魔女の力をもつ限り、代償は避けられない。
そう、例外はないのだ。
「いやはや、おぬしのおかげで助かったのう」
ミルキーが捕まり、王宮も落ち着いた頃。
王宮に平和を取り戻した功労者として、私は玉座の間に呼ばれていた。
「ディアクロスとキリルもご苦労だった」
「「はっ」」
凛々しく返事をしている二人には悪いが、「私は来なくてもよかったんじゃないか」という思いが目の前に浮遊している。もう帰ってもいいですか?私には睡眠という大きな使命が――。
「まさか国に福音をもたらす魔女の継承者に、国を乗っ取られかけるとはのう」
ホッホッホッ
(いや、笑い事じゃないような……)
呑気な王様の隣では、王妃様が凄まじく黒いオーラを放っている。
あのオーラは果たして、この能天気な王様に対してなのか、それとも国の緊急事態をそれなりに放置していた私に対するものなのか……。
「シロさん」
「はいっ!」
微笑む王妃様が、こちらに話しかけてきた。
優雅に扇で口元を隠しているが、それが一層恐ろしさを増している。
「あの状況を知っていらした?」
「………はい」
王宮が魅了の力によって屈服していったことは知っていた。
知っていた上で、静観していた。
「………王妃様、言い訳を聞いていただけますか」
そう言った私はよほど哀れな顔をしていたのか、王妃様はゆっくりと頷いてくれた。
私は王妃様と、今までのやり取りを静かに見守っていた王様とテディさんたちに向かって話し始めた。
ある所に紅の魔女がいた。
その魔女は自分の力が一番優れていると思っていた。
ある日、そんな彼女のもとに蒼の魔女が訪れてきた。
彼女も自分が一番優れていると思っている魔女だった。
この二人の魔女は対となる力をもっており、互いの力を打ち消しあう関係にあった。
自分が一番だと互いに思っていた二人の魔女は、次第に憎み合い争うようになった。
しかし、この魔女たちの力は対であった。
ゆえにこの争いに終止符が打たれることはなかった。
二人の魔女から始まった争いは世界に広がり、大陸は焦土と化した。
その後、他の魔女たちがなんとかその争いを止め、大陸には平和がもどった。
「この訓戒から、魔女は自分の能力と対になる魔女とは争わないようにしているんです」
「つまり、君の力が例の継承者と対になっていたから対応が難しかった……ということだね?」
王様の応答に頷く。
魔女の訓戒は継承者も受け継いでいる。
力を受け入れるときに、脳に直接刷り込まれるから。
「魔女もその継承者も、この訓戒を破ることは禁忌に当たります。だから、今回の事態には軽率に手を出すことはできませんでした」
言い訳を全て言い切り、深く頭を下げる。
魔女の訓戒なんて、人間には関係ない。
事実を見れば、私は同じ継承者の悪行を黙認していたのだ。
魔女になり切れず魔女の継承者だと偽っている自分が、魔女の訓戒に縛られる。
「魔女」という言葉から逃げているのに、それに縛られざるを得ない自分に嫌気が差す。
「よいよい、そちらにも事情があるのだからのう」
「ええ、終わり良ければすべて良しですわ」
「……!あ、ありがとうございます」
罵られる覚悟をしていたけれど、思わぬ返答に戸惑いを覚える。
王様と王妃様はこちらに優しく微笑んでいる。
そんな風にしてもらう資格なんて、私にはないのに……。
「シロちゃんは俺たちの救世主だな!」
「ああ、そうだな」
(ちがう……)
きっと彼らは私がいなくても、魅了の力をどうにかしていただろう。
実際に、この二人は魅了にかかったフリをしていたのだから。
「………」
王宮があれほど荒れても、どうして対策を取らなかったのか。
彼らだけでも解決できたはずなのに、動かなかったのはなぜなのか。
その答えはきっと――。
「信じていた」
テディさんの真っ直ぐな言葉が胸を刺す。
心臓が鋭い痛みに悲鳴を上げる。
それを誤魔化し、私は彼らに笑いかけた。
本当に、嬉しそうな顔をして。
「ありがとうございます!信じてくれて」
彼女は魔女から与えられた魅了の力でみんなを虜にしていきました。
そうしてミルキーは、王宮で幸せに暮らしましたとさ。
チャンチャン
「―――で終われないのが現実なんだよね……」
庭園でピクニックをしている王宮の渦中にいるミルキーを眺める。
数時間程度、王宮の一室から彼女を見ていたが、わかったことと言えば彼女の承認欲求くらいだ。
「みんなに見られ続けるの、苦しいって感じないのかな」
彼女はいつでもどこでも、誰かに見てもらわないと気が済まなかった。
話題の中心は常に自分、視線の先も常に自分に向けられてないと許せない。
最近では、とうとう国の上層部をも魅了し始めたらしい。
この国は、彼女をどうするつもりだろうか。
魔女の継承者は、民衆にとっては憧れの的だ。
民衆たちは魔女を愛している。理由は様々だが、一番は特出した能力をもっているからだろう。
そんな愛すべき魔女様と接点をもっている継承者たちが敬われるのは至極当然のこと。
そして、愛されている魔女の継承者を排除するのは、すさまじく至難の業。
「大きな問題が起こってないのも、厄介な点なんだろうなぁ」
のんびりと彼女の観察、もとい監視をする。
同じ魔女の継承者として監視役に抜擢されてはいるが、役に立つことを期待されてはいないため、こうして怠惰な生活を送っている。ただ、問題は一個だけある。
「ミルキーを好き過ぎる人が多すぎる……」
彼女のことを話そうものなら、どんな内容であれ凄まじい非難にあう。
これが会う人会う人そうなのだから、おちおち彼女の居場所を聞くこともできない。
そうこうして過ごしていると、とうとう彼女が王座の間に呼び出されることになった。
私はそこで、変わり果てた知人たちを見ることになる。
「ねぇキリル~、のどかわいちゃったぁ」
「はい、ミルキー様」
「ディアクロスぅ、わたしぃ、つかれちゃった~」
「………」
ここが王座の間だと思えないほど、彼女の独壇場だった。
加えて、テディさんとキリルさんの変わりようだ。
キリルさんは召使いのようになっているし、テディさんは無言ではあるけど彼女のために椅子を用意している。
衝撃的な光景ではあるが、魅了の力のことを考えれば無理もない。
それほどに、彼女に付与された魔女の力は強大なのだ。
「ゴホンッ……、よろしいかね?」
王座に座って沈黙していた王様は、とうとう話をし始めることにしたようだ。
よかった。これ以上、知人たちの痛々しい様子を見なくて済む。
「貴殿はこの城で問題を起こして」「うわぁ~、あの鎧すご~い!」
「………」
まさかの王様の言葉をぶった切り案件。
驚きのあまり、王様が固まっている。
ついでに、隣にいる王妃様の額には薄っすらと青筋のようなものが……。
自分に十分に注目が集まったとわかったのだろう。
彼女は満足げな表情を浮かべ、両手を胸の前で握った。
(あの動作は……)
そう思った瞬間、彼女からキラキラとしたエフェクトが激しく放出された。
今までの比ではない魅了の力だ。
彼女はとうとうこの国の王までも掌握することを決めてしまったようだ。
王様はなすすべもなく、玉座の上で虚ろな顔になってしまった。
その隣に座っている王妃様も同様に。
「アハハ!これでみぃ~んな、わたしのも・の!」
ボーッとする人々の間をクルクルと踊るように通りすぎる。
玉座までたどり着いた彼女は、王をどかせ自分が玉座に座った。
無論、その隣にいた王妃様も他の兵士によって引きずり降ろされた。
一連の流れを確認した私は、行くところまで行ってしまった彼女に頭を抱える。
目の前で繰り広げられた光景から、彼女がこの城を掌握したことがはっきりと分かった。
そして、己の役割を果たさなければならないことも。
「彼らはあなたのものではありませんよ」
そう言って歩み寄ってくる私に、一瞬だけ驚いた彼女はすぐに余裕の表情を浮かべる。
「なぁに?羨ましいの?嫉妬ってみにくぅ~い」
優越感に浸った表情をしながら、彼女はそばに侍らせたテディさんにしな垂れる。
私は困った表情をしながら、彼女の目の前に立つ。
「ちょっと、邪魔なんだけど」
嫌そうな顔の彼女に微笑む。
「すみません」
いろいろな意味を込めた謝罪をした。
そして私は彼女に向かって手を伸ばし、周囲に舞う結晶を砕いた。
パリーンッ
「は?」
状況が理解できていない彼女をそのままに、私は次々と結晶を砕く。
無数にある結晶を砕くたび、周囲の人たちの意識がうっすらともどる。
そのことに気づいた彼女は、すぐさま私の行動をやめさせようと飛びかかってきた。
「あんたッ!なにしてんの!?」
「おっと、そうはいかないよ」
私に向かってきていた彼女の手が、キリルさんによって阻まれる。
周囲を見渡してみると、もうほとんどの人の魅了がとけていた。
一部、虚ろな顔をしている人たちもいるが時間が解決してくれる。
「なんでッ!どうしてッ!!」
取り乱す彼女を抑え込み、キリルさんは彼女を玉座の前に傅かせた。
意識を取り戻した王様は、いそいそと玉座に座り直している。
王妃様は自分の服についた埃を払っている。心なしか顔がこわい。
「ミルキーさん、私は言いましたよ」
「なにをッ」
「私も魔女の継承者だと」
こちらを睨みつけてくる彼女に、私は事の顛末を説明した。
まあ簡単に言えば、彼女の能力は私の能力と相性が悪かったということに尽きた。
私は『愛』に関するものを結晶として捉えることができる。だから、魅了の力も『愛』の一種とみなせば、それを結晶として砕くことが可能になる。
「じゃあなに?わたしはただ掌で踊らされていたの……!?」
淡いピンクの髪をふり乱し、ミルキーは叫んだ。
ボロボロになった彼女の姿を見て、私は目を伏せた。
「いえ、私は最後までこの劇に参加するつもりはありませんでした」
「………はあ?」
侮蔑の表情を浮かべる彼女に、真っ直ぐな視線を向ける。
今の彼女は、良くも悪くもありのままの姿のようだ。
「あなたがこの王宮を掌握しようがしまいが、私にとっては関係ありません。ただ、魔女の力が絡めば話は違います」
眉を寄せている彼女は、自分の姿がわかっていないのだろう。
近くにいたキリルさんに、そっとある事を頼む。
彼は静かに頷き、玉座の間を去った。
「魔女の力には代償が伴います。それは使う力が強ければ強いほど、使う回数が多ければ多いほど、大きな代償を支払わなければなりません」
訝し気な顔をしている彼女の前に、帰ってきたキリルさんが鏡を置く。
訳が分からないという顔をしていた彼女の顔が驚愕に染まり、そして絶望に染まった。
「イ、イヤァァァアーーー!!!」
彼女の美しかった桃色の髪は白く染まり、張りのあった肌は皺だらけになり、蜂蜜色のだった瞳も白く濁ってしまっていた。
「……力を使いすぎたんです」
「いやッ!こんなの嘘よッ!!」
正気を失った彼女は、騎士たちに外へ連れていかれた。
引きずり出されている間も、彼女の悲鳴が途絶えることはなかった。
きっと承認を渇望していた彼女にとって、容姿の欠落は大きなショックだったのだろう。
「………代償」
いなくなった彼女を思い浮かべ、いずれくる己の清算の日を胸に刻む。
魔女の力をもつ限り、代償は避けられない。
そう、例外はないのだ。
「いやはや、おぬしのおかげで助かったのう」
ミルキーが捕まり、王宮も落ち着いた頃。
王宮に平和を取り戻した功労者として、私は玉座の間に呼ばれていた。
「ディアクロスとキリルもご苦労だった」
「「はっ」」
凛々しく返事をしている二人には悪いが、「私は来なくてもよかったんじゃないか」という思いが目の前に浮遊している。もう帰ってもいいですか?私には睡眠という大きな使命が――。
「まさか国に福音をもたらす魔女の継承者に、国を乗っ取られかけるとはのう」
ホッホッホッ
(いや、笑い事じゃないような……)
呑気な王様の隣では、王妃様が凄まじく黒いオーラを放っている。
あのオーラは果たして、この能天気な王様に対してなのか、それとも国の緊急事態をそれなりに放置していた私に対するものなのか……。
「シロさん」
「はいっ!」
微笑む王妃様が、こちらに話しかけてきた。
優雅に扇で口元を隠しているが、それが一層恐ろしさを増している。
「あの状況を知っていらした?」
「………はい」
王宮が魅了の力によって屈服していったことは知っていた。
知っていた上で、静観していた。
「………王妃様、言い訳を聞いていただけますか」
そう言った私はよほど哀れな顔をしていたのか、王妃様はゆっくりと頷いてくれた。
私は王妃様と、今までのやり取りを静かに見守っていた王様とテディさんたちに向かって話し始めた。
ある所に紅の魔女がいた。
その魔女は自分の力が一番優れていると思っていた。
ある日、そんな彼女のもとに蒼の魔女が訪れてきた。
彼女も自分が一番優れていると思っている魔女だった。
この二人の魔女は対となる力をもっており、互いの力を打ち消しあう関係にあった。
自分が一番だと互いに思っていた二人の魔女は、次第に憎み合い争うようになった。
しかし、この魔女たちの力は対であった。
ゆえにこの争いに終止符が打たれることはなかった。
二人の魔女から始まった争いは世界に広がり、大陸は焦土と化した。
その後、他の魔女たちがなんとかその争いを止め、大陸には平和がもどった。
「この訓戒から、魔女は自分の能力と対になる魔女とは争わないようにしているんです」
「つまり、君の力が例の継承者と対になっていたから対応が難しかった……ということだね?」
王様の応答に頷く。
魔女の訓戒は継承者も受け継いでいる。
力を受け入れるときに、脳に直接刷り込まれるから。
「魔女もその継承者も、この訓戒を破ることは禁忌に当たります。だから、今回の事態には軽率に手を出すことはできませんでした」
言い訳を全て言い切り、深く頭を下げる。
魔女の訓戒なんて、人間には関係ない。
事実を見れば、私は同じ継承者の悪行を黙認していたのだ。
魔女になり切れず魔女の継承者だと偽っている自分が、魔女の訓戒に縛られる。
「魔女」という言葉から逃げているのに、それに縛られざるを得ない自分に嫌気が差す。
「よいよい、そちらにも事情があるのだからのう」
「ええ、終わり良ければすべて良しですわ」
「……!あ、ありがとうございます」
罵られる覚悟をしていたけれど、思わぬ返答に戸惑いを覚える。
王様と王妃様はこちらに優しく微笑んでいる。
そんな風にしてもらう資格なんて、私にはないのに……。
「シロちゃんは俺たちの救世主だな!」
「ああ、そうだな」
(ちがう……)
きっと彼らは私がいなくても、魅了の力をどうにかしていただろう。
実際に、この二人は魅了にかかったフリをしていたのだから。
「………」
王宮があれほど荒れても、どうして対策を取らなかったのか。
彼らだけでも解決できたはずなのに、動かなかったのはなぜなのか。
その答えはきっと――。
「信じていた」
テディさんの真っ直ぐな言葉が胸を刺す。
心臓が鋭い痛みに悲鳴を上げる。
それを誤魔化し、私は彼らに笑いかけた。
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