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第一章 死神と呼ばれた男
聖女の願い⑯
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ルクスは茫然と空を見上げていた。
空中に浮かんでいるそれは、魔法なのか翼の力なのか。空にただ浮かんだまま、悪魔は地上を見下ろしている。大きさは、自分たちをそれほど変わりはないが、黒い翼と尻尾は、たしかに人間達とは姿形が異なっていた。
それだけならまだいい。遠目に感じる魔力が桁違いなことに、ルクスは血の気が引く思いだった。
思わず、悪魔に視線を奪われていたルクスだったが、手の中にいる少女の存在を思い出し、慌てて意識を向ける。すると、そこには静かな寝息を立てているカレラがいた。ちいさく肩をなでおろすと、ルクスは再び空を見上げた。
「総員! すぐさま、散開せよ! まとまっていては、悪魔の思うつぼだ!」
茫然とするルクスとは裏腹に、サジャはすぐさま部下達に指示をとばしていた。サジャの目的はあくまで悪魔の討伐だ。復活してしまった今、ルクスやカレラなどに注意を割いている暇などなかった。
「魔法を放てる者はすぐに準備をするんだ! 出し惜しみはするな! 相手は、あの伝説の悪魔なのだからな!」
その言葉に、神聖騎士団は、すぐさま呼応する。
それぞれに呟かれる詠唱と集中する魔力。その密度に、空気が揺れるようにうごめいた。
その光景をみながら、ルクスは混乱の極致にあった。
ルクス達はカレラの命を守るためにこの場所にきた。
悪魔が封じられている封印を強化し、封印の乗せ換えによるカレラの命の喪失を防ぐためにこの場所にきた。
そして、封印の強化がなされ、ルクス達の目的は達成されるはずだったのだ。
だが今、カレラは確かに生きている。そして、この先、カレラは封印に悩まされることがない状況だ。カレラ個人としての結果としてはこの上ないものだろう。しかし、その一方で悪魔の封印がとかれ、いま宙に浮いている。
自分がカレラの命を優先したゆえに巻き起こった、世界の危機だったのだ。
ルクスの心は、カレラの一人の命を世界の何もしらないたくさんの人々の命を天秤に乗せるのをよしとしていない。それはカレラも同じだろう。だからこそ、極大魔石を用いた封印の強化という道を選んだのだ。
そんな自分の選択は、多くの命を奪うことになる。
そのことが頭の中を占め、ルクスの思考を妨げていた。
「ちょっと! 早く逃げないの!? 目的は達成されたんじゃないの!?」
ルクスの横からフェリカが叫ぶ。だが、ルクスは視線をフェリカに向けるだけで、何も返せない。
「何、呆けてるのよ! あんなのがいるんだからさっさと逃げるわよ!」
フェリカは、カレラの片腕を肩にかけると、立ち上がろうと力を籠める。だが、ルクスは一向に動かない。その行動にフェリカは眉を吊り上げ詰め寄った。
「早く担いでよ! 私一人じゃ連れていけない!」
「だめだ」
「は?」
「だめだ……。このままじゃいけない」
その言葉を聞いて、フェリカはおもわずルクスの胸元をつかんだ。
「何言ってんのよ、あんた」
「だめなんだ。俺は、カレラの役に立ちたいって、カレラを助けたいって思ったんだ。それは、命だけじゃない」
――カレラの心もだ。
焦点の合わない視線のまま、ルクスはそうつぶやいた。
「カレラは、封印が解けたことにきっと心を痛める。もし俺達がこのまま逃げたら、カレラに一生いやせない傷を負わせることになるかもしれない。そんなのはだめだ。そんなことはできない」
「じゃあどうするっていうのよ! 逃げないっていうなら、あんなのとやり合うの!? ふざけんじゃないわよ! あんたも魔法が使えるならわかるでしょ? あれば化け物よ。およそ人間じゃ太刀打ちできない、そんな存在よ。逃げるしかないのよ。逃げないと、助けるもなにもないじゃない」
「命を守り、カレラの心も守るんだ。そうしないと、俺はだめなんだよ」
空中をいつめながら、どこかぼんやりしているルクス。その様子をみて、フェリカは恐怖を背筋を凍らせた。
あのような化け物と相対して、それでもまだこんなことが言えるルクスに戦慄していたのだ。それと同時に、心に痛みを感じる。その痛みがなんなのかフェリカには理解できなかったが、あまり心地のよいものではなかった。
ルクスはそのまま立ち上がる。そして、空を見上げる。
周囲で騒がしく指示を飛ばし合う神聖騎士団を後目に、ルクスは手の中に水球を作り出した。だが、今までとは違い、両手に一つずつだ。
その水球に、等しく圧力を加えていく。
手の中で震える水球。その球は、まるで意志があるかのように飛び出す瞬間を待ちわびているようだった。
空中に浮かんでいるそれは、魔法なのか翼の力なのか。空にただ浮かんだまま、悪魔は地上を見下ろしている。大きさは、自分たちをそれほど変わりはないが、黒い翼と尻尾は、たしかに人間達とは姿形が異なっていた。
それだけならまだいい。遠目に感じる魔力が桁違いなことに、ルクスは血の気が引く思いだった。
思わず、悪魔に視線を奪われていたルクスだったが、手の中にいる少女の存在を思い出し、慌てて意識を向ける。すると、そこには静かな寝息を立てているカレラがいた。ちいさく肩をなでおろすと、ルクスは再び空を見上げた。
「総員! すぐさま、散開せよ! まとまっていては、悪魔の思うつぼだ!」
茫然とするルクスとは裏腹に、サジャはすぐさま部下達に指示をとばしていた。サジャの目的はあくまで悪魔の討伐だ。復活してしまった今、ルクスやカレラなどに注意を割いている暇などなかった。
「魔法を放てる者はすぐに準備をするんだ! 出し惜しみはするな! 相手は、あの伝説の悪魔なのだからな!」
その言葉に、神聖騎士団は、すぐさま呼応する。
それぞれに呟かれる詠唱と集中する魔力。その密度に、空気が揺れるようにうごめいた。
その光景をみながら、ルクスは混乱の極致にあった。
ルクス達はカレラの命を守るためにこの場所にきた。
悪魔が封じられている封印を強化し、封印の乗せ換えによるカレラの命の喪失を防ぐためにこの場所にきた。
そして、封印の強化がなされ、ルクス達の目的は達成されるはずだったのだ。
だが今、カレラは確かに生きている。そして、この先、カレラは封印に悩まされることがない状況だ。カレラ個人としての結果としてはこの上ないものだろう。しかし、その一方で悪魔の封印がとかれ、いま宙に浮いている。
自分がカレラの命を優先したゆえに巻き起こった、世界の危機だったのだ。
ルクスの心は、カレラの一人の命を世界の何もしらないたくさんの人々の命を天秤に乗せるのをよしとしていない。それはカレラも同じだろう。だからこそ、極大魔石を用いた封印の強化という道を選んだのだ。
そんな自分の選択は、多くの命を奪うことになる。
そのことが頭の中を占め、ルクスの思考を妨げていた。
「ちょっと! 早く逃げないの!? 目的は達成されたんじゃないの!?」
ルクスの横からフェリカが叫ぶ。だが、ルクスは視線をフェリカに向けるだけで、何も返せない。
「何、呆けてるのよ! あんなのがいるんだからさっさと逃げるわよ!」
フェリカは、カレラの片腕を肩にかけると、立ち上がろうと力を籠める。だが、ルクスは一向に動かない。その行動にフェリカは眉を吊り上げ詰め寄った。
「早く担いでよ! 私一人じゃ連れていけない!」
「だめだ」
「は?」
「だめだ……。このままじゃいけない」
その言葉を聞いて、フェリカはおもわずルクスの胸元をつかんだ。
「何言ってんのよ、あんた」
「だめなんだ。俺は、カレラの役に立ちたいって、カレラを助けたいって思ったんだ。それは、命だけじゃない」
――カレラの心もだ。
焦点の合わない視線のまま、ルクスはそうつぶやいた。
「カレラは、封印が解けたことにきっと心を痛める。もし俺達がこのまま逃げたら、カレラに一生いやせない傷を負わせることになるかもしれない。そんなのはだめだ。そんなことはできない」
「じゃあどうするっていうのよ! 逃げないっていうなら、あんなのとやり合うの!? ふざけんじゃないわよ! あんたも魔法が使えるならわかるでしょ? あれば化け物よ。およそ人間じゃ太刀打ちできない、そんな存在よ。逃げるしかないのよ。逃げないと、助けるもなにもないじゃない」
「命を守り、カレラの心も守るんだ。そうしないと、俺はだめなんだよ」
空中をいつめながら、どこかぼんやりしているルクス。その様子をみて、フェリカは恐怖を背筋を凍らせた。
あのような化け物と相対して、それでもまだこんなことが言えるルクスに戦慄していたのだ。それと同時に、心に痛みを感じる。その痛みがなんなのかフェリカには理解できなかったが、あまり心地のよいものではなかった。
ルクスはそのまま立ち上がる。そして、空を見上げる。
周囲で騒がしく指示を飛ばし合う神聖騎士団を後目に、ルクスは手の中に水球を作り出した。だが、今までとは違い、両手に一つずつだ。
その水球に、等しく圧力を加えていく。
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