13 / 51
カルテNo.1 約四百歳、女性、エルフ、金髪。全身擦過傷、栄養失調
⑬
しおりを挟む
そうして、悠馬は思考の中に没入していった。
医療の枠組みでは考えられない何か。それなら、何が原因であるというのだろうか。
ここで、原因を特定できなければミロルの命はない。心タンポナーデはそれだけ重篤な疾患だ。徐々に症状は悪化しており、このままだと心不全を引き起こしてしまう。
それを防ぐために。
悠馬は多くの引き出しを開けていった。
研修医時代、学生時代、幼少期、そのいずれの引き出しにも悠馬の答えは入っていない。今から医学書を読み返しても、はたしてこのような症例がのっているかどうか。
――こいつは異世界の住人なんだぞ? 悠馬。
自分自身にそう語りかける。現世界の悠馬に語りかける。そう、異世界のユーマが――。
俯いていた悠馬が突然顔を上げ立ち上がる。
そう、現世界の常識ではわからないこと。医学書には決してのっていない事実。それは――。
「リファエル……。エルフの膨大な魔力って何が源になってるんだっけか?」
「エルフの、ですか? それは、当然魔力……――っ!? 魔力核!」
その考えを察したリファエルは、すぐさま目に魔力を集中させミロルの胸元を凝視した。すると、強い魔力の塊とそこから漏れ出る濃度の高い魔力がつまっているように見えたのだ。
「ユーマ様! 魔力です。心タンポの原因は魔力ですよ!」
「どう見える!?」
「この丸いのがきっと魔力核ですね。すさまじい魔力が迸るほどです。その周囲に強い魔力の溜まりができていて、それがきっと心臓の動きを阻害してるのだと思います!」
「でもなぜだ? 普通は、魔力は空気中に拡散されていくはずだろ!?」
その悠馬の疑問に答えたのは、やはりリファエルだ。リファエルは、真剣なまなざしで悠馬を見つめる。
「それは、この魔力核のせいかもしれません」
悠馬は続きを促すようにリファエルを見上げる。
「私たち天使族やユーマ様のような人間族であるならば、魔力核はありません。生み出された魔力の余剰分は自然と拡散されていきます。でも、魔力核は元々、魔力を蓄えるための器管です。しかし、こちらの世界は魔力が薄い……。ですから、生存本能を働かせた魔力核は魔力を拡散することなく、できるだけ蓄えようと働いてしまった。それで、このような状態になったのではないでしょうか……」
「そうか」
悠馬はエコーの機械を置くと、すぐさまミロルに話しかける。ゆっくりと開く瞳をじっとみつめ、大きな声で話しかける。
「もしかしたら、かもしれないけど、おそらく今こうなっている原因は魔力核だ。だから、今、ミロルの魔力核を摘出すればこの状況は打破できるかもしれない。しなければ、おそらく命を落としてしまう……でも……」
「う……なんじゃ? 今更なにも驚か、んよ」
ミロルの返答に悠馬はゆっくり頷いた。
「ああ……エルフの魔力の源である魔力核を摘出すると、魔力はほとんどなくなってしまう。それはおそらく間違いがない。加えてなんだが、魔力核を摘出したエルフを俺はしらない。だから、魔力核をとったエルフが――ミロルがどうなるかわからない。もしかしたら――」
「まかせるよ」
ミロルの無防備な言葉に、悠馬は背筋に電気が走ったような衝撃を受けた。
「悠馬が我を治したいと思っている気持ちは伝わっておる。ならば、我はその想いを信じるだけじゃ」
そうやって笑うミロルを、悠馬は強いと思った。心から、泣きそうなほどに。
全身に走る寒気と重圧を払うのけるかのように両手足に力を込めた。そして歯を食いしばり立ち上がる。これでもかと、ミロルの目を見つめた。
ミロルの瞳は揺るがなかった。
それは信頼か、あきらめか。
悠馬にはどちらでもよかった。ただ、自分にまかせてくれたその事実がどうしようもなくうれしかったのだ。
誰かの役に立てる。誰かを救える。
それだけで、悠馬の存在自体が奮い立たされる想いだった。
「わかったよ……」
そして、踵を返しミロルに背を向けて大きな声を上げた。
「リファエル! 今からミロルの魔力核摘出術を行う。手術の準備、頼むぞ」
「はい。すぐに」
そうして、秦野診療所で手術が行われることとなった。
下町の小さな診療所で、開胸手術、つまりは胸骨正中切開が執り行われる。
医療の枠組みでは考えられない何か。それなら、何が原因であるというのだろうか。
ここで、原因を特定できなければミロルの命はない。心タンポナーデはそれだけ重篤な疾患だ。徐々に症状は悪化しており、このままだと心不全を引き起こしてしまう。
それを防ぐために。
悠馬は多くの引き出しを開けていった。
研修医時代、学生時代、幼少期、そのいずれの引き出しにも悠馬の答えは入っていない。今から医学書を読み返しても、はたしてこのような症例がのっているかどうか。
――こいつは異世界の住人なんだぞ? 悠馬。
自分自身にそう語りかける。現世界の悠馬に語りかける。そう、異世界のユーマが――。
俯いていた悠馬が突然顔を上げ立ち上がる。
そう、現世界の常識ではわからないこと。医学書には決してのっていない事実。それは――。
「リファエル……。エルフの膨大な魔力って何が源になってるんだっけか?」
「エルフの、ですか? それは、当然魔力……――っ!? 魔力核!」
その考えを察したリファエルは、すぐさま目に魔力を集中させミロルの胸元を凝視した。すると、強い魔力の塊とそこから漏れ出る濃度の高い魔力がつまっているように見えたのだ。
「ユーマ様! 魔力です。心タンポの原因は魔力ですよ!」
「どう見える!?」
「この丸いのがきっと魔力核ですね。すさまじい魔力が迸るほどです。その周囲に強い魔力の溜まりができていて、それがきっと心臓の動きを阻害してるのだと思います!」
「でもなぜだ? 普通は、魔力は空気中に拡散されていくはずだろ!?」
その悠馬の疑問に答えたのは、やはりリファエルだ。リファエルは、真剣なまなざしで悠馬を見つめる。
「それは、この魔力核のせいかもしれません」
悠馬は続きを促すようにリファエルを見上げる。
「私たち天使族やユーマ様のような人間族であるならば、魔力核はありません。生み出された魔力の余剰分は自然と拡散されていきます。でも、魔力核は元々、魔力を蓄えるための器管です。しかし、こちらの世界は魔力が薄い……。ですから、生存本能を働かせた魔力核は魔力を拡散することなく、できるだけ蓄えようと働いてしまった。それで、このような状態になったのではないでしょうか……」
「そうか」
悠馬はエコーの機械を置くと、すぐさまミロルに話しかける。ゆっくりと開く瞳をじっとみつめ、大きな声で話しかける。
「もしかしたら、かもしれないけど、おそらく今こうなっている原因は魔力核だ。だから、今、ミロルの魔力核を摘出すればこの状況は打破できるかもしれない。しなければ、おそらく命を落としてしまう……でも……」
「う……なんじゃ? 今更なにも驚か、んよ」
ミロルの返答に悠馬はゆっくり頷いた。
「ああ……エルフの魔力の源である魔力核を摘出すると、魔力はほとんどなくなってしまう。それはおそらく間違いがない。加えてなんだが、魔力核を摘出したエルフを俺はしらない。だから、魔力核をとったエルフが――ミロルがどうなるかわからない。もしかしたら――」
「まかせるよ」
ミロルの無防備な言葉に、悠馬は背筋に電気が走ったような衝撃を受けた。
「悠馬が我を治したいと思っている気持ちは伝わっておる。ならば、我はその想いを信じるだけじゃ」
そうやって笑うミロルを、悠馬は強いと思った。心から、泣きそうなほどに。
全身に走る寒気と重圧を払うのけるかのように両手足に力を込めた。そして歯を食いしばり立ち上がる。これでもかと、ミロルの目を見つめた。
ミロルの瞳は揺るがなかった。
それは信頼か、あきらめか。
悠馬にはどちらでもよかった。ただ、自分にまかせてくれたその事実がどうしようもなくうれしかったのだ。
誰かの役に立てる。誰かを救える。
それだけで、悠馬の存在自体が奮い立たされる想いだった。
「わかったよ……」
そして、踵を返しミロルに背を向けて大きな声を上げた。
「リファエル! 今からミロルの魔力核摘出術を行う。手術の準備、頼むぞ」
「はい。すぐに」
そうして、秦野診療所で手術が行われることとなった。
下町の小さな診療所で、開胸手術、つまりは胸骨正中切開が執り行われる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
第2の人生は、『男』が希少種の世界で
赤金武蔵
ファンタジー
日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。
あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。
ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。
しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
勇者の隣に住んでいただけの村人の話。
カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。
だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。
その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。
だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…?
才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる