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カルテNo.2 十七歳、女性、勇者、赤髪。主訴、封印をしてほしい
⑥
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「サラ、一つ聞きたいんだがいいか?」
「なんだ」
「サラが魔王を自分に封印したのもわかったし、封印せざるを得なかったこともわかった。だが、なぜ自分の身体に封印したんだ? 俺達は封印魔法のことがよくわからないから少し疑問に思ってな」
悠馬の問いかけにサラはすっと顎に手をやった。そして少しだけ考え込むと、顔を上げて悠馬を見る。
「簡単に言うとな、私の魔力が必要だったからだ」
「サラの魔力?」
「ああ。というよりも、封印を施す場所に宿る魔力が必要だったんだ。つまりは、何もないところに封印することもできるが、結局は最初にこめた魔力と魔石に込められた魔力しか力を持たない封印になってしまう。封印をより強固に維持するためには、封印する場所に常に魔力を供給する必要がある。そのために、私の身体なのだ」
「戦いの後、封印魔法の使い手を探せなかったのですが?」
リファエルが当然の疑問を口にしたが、それを受けたサラは少しだけ顔を歪めた。
「当然、そうするつもりだったさ。だが、魔王を封印するために、魔力のすべてを解放したら……もう私は見覚えのない場所にたたずんでいた。魔力の高いお前達の元に向かってきたところ、あの老婆に話しかけられたのだよ」
「そりゃ探せないわな」
悠馬はため息をつきながら頭をぐしゃぐしゃとかきむしる。
「なら、たとえば、その封印を一度解除して、そして三人でもう一回別の場所に封印するっていうのはできないか? もちろん術者はサラだけど、俺もリファエルも魔力の補助はできると思うんだが」
「それも難しいと言わざるを得ない。この封印を解いたら魔王がどうなるかわからん。危険を野放しにする可能性がある以上、それを看過することはできない。結局は、封印する場所をどうするか、という問題点は消えないのだから、あまり意味もないだろう」
まっすぐな目で悠馬をつらぬくサラの目は澄んでいた。そんなサラを見ながら、悠馬は考える。そして、いわゆる外科医的な目線で物事を考えると、意外にも抜け道があるような気がしていた。
「なぁ、サラ。その封印がお腹の中に埋め込まれてるのって、サラの魔力を供給し続けるためなのか?」
「そうだが?」
あたりまえの質問に、サラはどこか訝しげに悠馬を見た。
「ならさ、変な話、その禍々しい変なのを腹から取り除いても封印は解けないんだよな?」
「ん……? まあ、そんなことができればそうなるが……さっきもいったが魔力の供給源がなくなるわけだからいつか封印が解けてしまう」
「つまり、問題点は魔力の供給ってことだよな。ふむふむ」
腕を組みながら立ち上がった悠馬は、うろうろと部屋の中を歩きはじめる。そして、最後に大きくうなづくとリファエルを見据えて口を開いた。
「俺達の魔力がなくなっても回復してるってことは、この世界にも魔力はある。そうだよな、リファエル?」
「はい、魔力は確かに存在しますが、あちらの世界よりも密度は薄いですよ?」
「うん。それはそれでいいんだけど、俺達と同じように、ミロルの魔力核もミロルに魔力を供給しつつも尽きないってことは、あの石みたいのには魔力を取り込む性質があるってことだよな」
「そうだと思いますが……」
「なら、まずはサラに封印された魔王を取り出す。そしてその後、魔力核から魔力を供給するようなシステムを構築する。もし、急ぎで作れないなら、とりあえずミロルの魔力核から魔力を分けてもらえばいい。そうすれば、サラのお腹からは、封印が取り除けるんじゃないのか?」
「――っ!? ちょっと待ってくださいね……」
にこやかに話す悠馬と考えむリファエル。そんな二人を見ながら、もしかしたらという気持ちがぬぐえないサラは、座っていた椅子から少しだけ腰を浮かせて、リファエルの言葉をこれでもかと待っていた。
わずかな時間。だが、サラにとって、リファエルが口を開くまでの時間は、文字通り永遠にも近いものだった。胸の中をさまざまな想いが駆けぬけ、そして、期待と疑惑とあきらめがないまぜになったかのようにぐるぐると心は揺れる。
そして、リファエルはおもむろに口を開いた。
「おそらくは、可能かと思います」
「本当かっ!?」
勢いよく立ち上がったサラ。その後ろでは椅子が派手に転がっていた。ガランガランと跳ねる椅子の音の余韻を感じながら、サラは悠馬とリファエル、交互に目線を送っていた。
「やりますか」
「ええ、ユーマ様ならできますよ」
買い物を引き受けるかのような軽い様子で頷く二人。そんな二人を見たサラは、思わず力がぬけ膝をついた。
「ありがとう……」
サラの輝く瞳から零れ落ちるのは二筋の涙。その涙は、静かに、それでいて止まることなく床へと滴り落ちていた。
「なんだ」
「サラが魔王を自分に封印したのもわかったし、封印せざるを得なかったこともわかった。だが、なぜ自分の身体に封印したんだ? 俺達は封印魔法のことがよくわからないから少し疑問に思ってな」
悠馬の問いかけにサラはすっと顎に手をやった。そして少しだけ考え込むと、顔を上げて悠馬を見る。
「簡単に言うとな、私の魔力が必要だったからだ」
「サラの魔力?」
「ああ。というよりも、封印を施す場所に宿る魔力が必要だったんだ。つまりは、何もないところに封印することもできるが、結局は最初にこめた魔力と魔石に込められた魔力しか力を持たない封印になってしまう。封印をより強固に維持するためには、封印する場所に常に魔力を供給する必要がある。そのために、私の身体なのだ」
「戦いの後、封印魔法の使い手を探せなかったのですが?」
リファエルが当然の疑問を口にしたが、それを受けたサラは少しだけ顔を歪めた。
「当然、そうするつもりだったさ。だが、魔王を封印するために、魔力のすべてを解放したら……もう私は見覚えのない場所にたたずんでいた。魔力の高いお前達の元に向かってきたところ、あの老婆に話しかけられたのだよ」
「そりゃ探せないわな」
悠馬はため息をつきながら頭をぐしゃぐしゃとかきむしる。
「なら、たとえば、その封印を一度解除して、そして三人でもう一回別の場所に封印するっていうのはできないか? もちろん術者はサラだけど、俺もリファエルも魔力の補助はできると思うんだが」
「それも難しいと言わざるを得ない。この封印を解いたら魔王がどうなるかわからん。危険を野放しにする可能性がある以上、それを看過することはできない。結局は、封印する場所をどうするか、という問題点は消えないのだから、あまり意味もないだろう」
まっすぐな目で悠馬をつらぬくサラの目は澄んでいた。そんなサラを見ながら、悠馬は考える。そして、いわゆる外科医的な目線で物事を考えると、意外にも抜け道があるような気がしていた。
「なぁ、サラ。その封印がお腹の中に埋め込まれてるのって、サラの魔力を供給し続けるためなのか?」
「そうだが?」
あたりまえの質問に、サラはどこか訝しげに悠馬を見た。
「ならさ、変な話、その禍々しい変なのを腹から取り除いても封印は解けないんだよな?」
「ん……? まあ、そんなことができればそうなるが……さっきもいったが魔力の供給源がなくなるわけだからいつか封印が解けてしまう」
「つまり、問題点は魔力の供給ってことだよな。ふむふむ」
腕を組みながら立ち上がった悠馬は、うろうろと部屋の中を歩きはじめる。そして、最後に大きくうなづくとリファエルを見据えて口を開いた。
「俺達の魔力がなくなっても回復してるってことは、この世界にも魔力はある。そうだよな、リファエル?」
「はい、魔力は確かに存在しますが、あちらの世界よりも密度は薄いですよ?」
「うん。それはそれでいいんだけど、俺達と同じように、ミロルの魔力核もミロルに魔力を供給しつつも尽きないってことは、あの石みたいのには魔力を取り込む性質があるってことだよな」
「そうだと思いますが……」
「なら、まずはサラに封印された魔王を取り出す。そしてその後、魔力核から魔力を供給するようなシステムを構築する。もし、急ぎで作れないなら、とりあえずミロルの魔力核から魔力を分けてもらえばいい。そうすれば、サラのお腹からは、封印が取り除けるんじゃないのか?」
「――っ!? ちょっと待ってくださいね……」
にこやかに話す悠馬と考えむリファエル。そんな二人を見ながら、もしかしたらという気持ちがぬぐえないサラは、座っていた椅子から少しだけ腰を浮かせて、リファエルの言葉をこれでもかと待っていた。
わずかな時間。だが、サラにとって、リファエルが口を開くまでの時間は、文字通り永遠にも近いものだった。胸の中をさまざまな想いが駆けぬけ、そして、期待と疑惑とあきらめがないまぜになったかのようにぐるぐると心は揺れる。
そして、リファエルはおもむろに口を開いた。
「おそらくは、可能かと思います」
「本当かっ!?」
勢いよく立ち上がったサラ。その後ろでは椅子が派手に転がっていた。ガランガランと跳ねる椅子の音の余韻を感じながら、サラは悠馬とリファエル、交互に目線を送っていた。
「やりますか」
「ええ、ユーマ様ならできますよ」
買い物を引き受けるかのような軽い様子で頷く二人。そんな二人を見たサラは、思わず力がぬけ膝をついた。
「ありがとう……」
サラの輝く瞳から零れ落ちるのは二筋の涙。その涙は、静かに、それでいて止まることなく床へと滴り落ちていた。
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