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カルテNo.4 百数十歳、女性。魔族、紫髪。強制入院。先生の言うことは聞きなさい。
⑫
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「あれ? なんかピンと来てないみたいだな。しょうがない。一から説明するとだな――」
悠馬が語るのはこういうことだ。
そもそもなぜ魔王と勇者がずっと争ってきたのか、ということが悠馬には疑問だった。自分がヴォルフと戦ったときは信念の違いのみが争う理由であった。しかし、サラの話を聞いていると、どうにも自分達のそれとは違う様に思えた。単なる種族間の抗争とも呼べる規模でもなくなっていた。
そうまでして争う理由はなんなのか。
そこで、悠馬が思いついたのは『人の悪感情を増進させるウイルスのようなもの』の存在だ。
もし仮に、最初は互いの信念のぶつかり合いで争っていたとする。しかし、だんだんとその争いの本質は見失われ形骸化されていったのではないか。それでも争いを続けるのは、どちらか、もしくは両方に、相手方に憎しみを生み続けるような要素があるに違いない、そう考えた。
その正体は差別であったり、上に立ちたいという虚栄心だったり、見下すことで生まれる優越感だったのかもしれない。ただ、本当にそれだけだろうか。
異世界はファンタジー世界である。だが、いくら魔族だからといって変身までできるのはおかしいだろう。話を聞いてみれば元は同じ人間たるヴォルフの子孫であるはずなのだから。では、なぜこうまでして魔族と言う種族が変わったのか。
そこには、もしかしたらなんらかの介入があると考えた。
人の身体の作りを変容させ、精神的な面にまでも影響を及ぼすウイルス。悠馬がその存在を懸念し始めたのは、ミロルと語ったエルフに対する認識の相違だ。
ミロルは語った。森に一人きりだったと。悠馬の記憶では、集落が存在していたのだ。それも世界各地に。
二人がいた時代は確かに離れているのだろうが、悠馬が知るかつての異世界では、エルフは少数であるが存在していたのだ。そして、その存在は容認されていた。
ヴォルフが懸念していたエルフの奴隷化も、外に出てきたエルフを人間が捕えたものだった。エルフの領域である森に入り込み、わざわざ奴隷にしようなどと考える輩は存在しなかった。それは、損得で言えば、あきらかに割に合わない話だったからだ。
エルフの領域である森での戦闘など、人間がエルフに敵うはずもない。
だから、はぐれのエルフだけが捕まえられ奴隷化させられていた。
サラの存在も悠馬には疑問だった。
自分は確かに、後世で真魔王とよばれるヴォルフを殺した。そして勇者と崇められた。だが、繰り返し生まれる魔王とそれに相対する勇者。その構図のなんたる不自然なことか。
ヴォルフは魔王と呼ばれていたとしても、元は人間だ。先導していたものが死んだとしても、想いはつながる。
そうして相対していたとしても、それは人間と人間の争い。決して、魔族と人間との争いにはなりようがない。そして、変身する能力を持ちようがない。
ならば、『悪感情増進ウイルス』のようなものが悪さをして、必要以上に敵愾心を煽り、変身する能力まで身につけさせたのではないか。エルフが絶滅に追い込まれようとしていたのも、その影響がなかったとは言い切れない。
「だから、その悪感情増進ウイルス(仮)がどこにあるかをリファエルに調べさせたんだ。予測はしていたが……案の定、魔力の構成が俺達とは違うことが分かった」
「ユーマ様が戦っている間に、なんとかウイルスに抗う力を持つ魔力を作り出しました。それが、これなんです」
サラは頭から煙を出しており、ミロルは思わず手で頭を抱えている。すでに話についていけていないサラをスルーし、大人ミロルがやっとのことで口を開いた。
「魔族そのものの存在を否定しようというのか?」
「ああ」
「はい」
明るい返事にため息をつく大人ミロル。かつて、魔族にも人間にも虐げられてきた記憶を持つミロルは、目の前の規格外の二人を前にしてどこかやりきれない感情を抱いていた。
「これが伝説の勇者と大天使リファエルの力か……。我など遠く及ばぬものじゃな」
「心配するなって。ミロルには大仕事が残ってるんだからな」
悠馬のその言葉に訝しげな表情を浮かべる大人ミロルだったが、それに構うことなく悠馬は横になっているイルマを見据えた。
「さぁ、始めるか。異世界すべてを巻き込んだ、感染症の治療をな」
悠馬が語るのはこういうことだ。
そもそもなぜ魔王と勇者がずっと争ってきたのか、ということが悠馬には疑問だった。自分がヴォルフと戦ったときは信念の違いのみが争う理由であった。しかし、サラの話を聞いていると、どうにも自分達のそれとは違う様に思えた。単なる種族間の抗争とも呼べる規模でもなくなっていた。
そうまでして争う理由はなんなのか。
そこで、悠馬が思いついたのは『人の悪感情を増進させるウイルスのようなもの』の存在だ。
もし仮に、最初は互いの信念のぶつかり合いで争っていたとする。しかし、だんだんとその争いの本質は見失われ形骸化されていったのではないか。それでも争いを続けるのは、どちらか、もしくは両方に、相手方に憎しみを生み続けるような要素があるに違いない、そう考えた。
その正体は差別であったり、上に立ちたいという虚栄心だったり、見下すことで生まれる優越感だったのかもしれない。ただ、本当にそれだけだろうか。
異世界はファンタジー世界である。だが、いくら魔族だからといって変身までできるのはおかしいだろう。話を聞いてみれば元は同じ人間たるヴォルフの子孫であるはずなのだから。では、なぜこうまでして魔族と言う種族が変わったのか。
そこには、もしかしたらなんらかの介入があると考えた。
人の身体の作りを変容させ、精神的な面にまでも影響を及ぼすウイルス。悠馬がその存在を懸念し始めたのは、ミロルと語ったエルフに対する認識の相違だ。
ミロルは語った。森に一人きりだったと。悠馬の記憶では、集落が存在していたのだ。それも世界各地に。
二人がいた時代は確かに離れているのだろうが、悠馬が知るかつての異世界では、エルフは少数であるが存在していたのだ。そして、その存在は容認されていた。
ヴォルフが懸念していたエルフの奴隷化も、外に出てきたエルフを人間が捕えたものだった。エルフの領域である森に入り込み、わざわざ奴隷にしようなどと考える輩は存在しなかった。それは、損得で言えば、あきらかに割に合わない話だったからだ。
エルフの領域である森での戦闘など、人間がエルフに敵うはずもない。
だから、はぐれのエルフだけが捕まえられ奴隷化させられていた。
サラの存在も悠馬には疑問だった。
自分は確かに、後世で真魔王とよばれるヴォルフを殺した。そして勇者と崇められた。だが、繰り返し生まれる魔王とそれに相対する勇者。その構図のなんたる不自然なことか。
ヴォルフは魔王と呼ばれていたとしても、元は人間だ。先導していたものが死んだとしても、想いはつながる。
そうして相対していたとしても、それは人間と人間の争い。決して、魔族と人間との争いにはなりようがない。そして、変身する能力を持ちようがない。
ならば、『悪感情増進ウイルス』のようなものが悪さをして、必要以上に敵愾心を煽り、変身する能力まで身につけさせたのではないか。エルフが絶滅に追い込まれようとしていたのも、その影響がなかったとは言い切れない。
「だから、その悪感情増進ウイルス(仮)がどこにあるかをリファエルに調べさせたんだ。予測はしていたが……案の定、魔力の構成が俺達とは違うことが分かった」
「ユーマ様が戦っている間に、なんとかウイルスに抗う力を持つ魔力を作り出しました。それが、これなんです」
サラは頭から煙を出しており、ミロルは思わず手で頭を抱えている。すでに話についていけていないサラをスルーし、大人ミロルがやっとのことで口を開いた。
「魔族そのものの存在を否定しようというのか?」
「ああ」
「はい」
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「これが伝説の勇者と大天使リファエルの力か……。我など遠く及ばぬものじゃな」
「心配するなって。ミロルには大仕事が残ってるんだからな」
悠馬のその言葉に訝しげな表情を浮かべる大人ミロルだったが、それに構うことなく悠馬は横になっているイルマを見据えた。
「さぁ、始めるか。異世界すべてを巻き込んだ、感染症の治療をな」
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