異世界治癒術師(ヒーラー)は、こっちの世界で医者になる

卯月 みつび

文字の大きさ
48 / 51
カルテNo.4 百数十歳、女性。魔族、紫髪。強制入院。先生の言うことは聞きなさい。

しおりを挟む
「あれ? なんかピンと来てないみたいだな。しょうがない。一から説明するとだな――」

 悠馬が語るのはこういうことだ。
 
 そもそもなぜ魔王と勇者がずっと争ってきたのか、ということが悠馬には疑問だった。自分がヴォルフと戦ったときは信念の違いのみが争う理由であった。しかし、サラの話を聞いていると、どうにも自分達のそれとは違う様に思えた。単なる種族間の抗争とも呼べる規模でもなくなっていた。
 そうまでして争う理由はなんなのか。
 そこで、悠馬が思いついたのは『人の悪感情を増進させるウイルスのようなもの』の存在だ。
 もし仮に、最初は互いの信念のぶつかり合いで争っていたとする。しかし、だんだんとその争いの本質は見失われ形骸化されていったのではないか。それでも争いを続けるのは、どちらか、もしくは両方に、相手方に憎しみを生み続けるような要素があるに違いない、そう考えた。
 その正体は差別であったり、上に立ちたいという虚栄心だったり、見下すことで生まれる優越感だったのかもしれない。ただ、本当にそれだけだろうか。

 異世界はファンタジー世界である。だが、いくら魔族だからといって変身までできるのはおかしいだろう。話を聞いてみれば元は同じ人間たるヴォルフの子孫であるはずなのだから。では、なぜこうまでして魔族と言う種族が変わったのか。
 そこには、もしかしたらなんらかの介入があると考えた。

 人の身体の作りを変容させ、精神的な面にまでも影響を及ぼすウイルス。悠馬がその存在を懸念し始めたのは、ミロルと語ったエルフに対する認識の相違だ。

 ミロルは語った。森に一人きりだったと。悠馬の記憶では、集落が存在していたのだ。それも世界各地に。
 二人がいた時代は確かに離れているのだろうが、悠馬が知るかつての異世界では、エルフは少数であるが存在していたのだ。そして、その存在は容認されていた。
 ヴォルフが懸念していたエルフの奴隷化も、外に出てきたエルフを人間が捕えたものだった。エルフの領域である森に入り込み、わざわざ奴隷にしようなどと考える輩は存在しなかった。それは、損得で言えば、あきらかに割に合わない話だったからだ。
 エルフの領域である森での戦闘など、人間がエルフに敵うはずもない。
 だから、はぐれのエルフだけが捕まえられ奴隷化させられていた。

 サラの存在も悠馬には疑問だった。
 自分は確かに、後世で真魔王とよばれるヴォルフを殺した。そして勇者と崇められた。だが、繰り返し生まれる魔王とそれに相対する勇者。その構図のなんたる不自然なことか。
 ヴォルフは魔王と呼ばれていたとしても、元は人間だ。先導していたものが死んだとしても、想いはつながる。
 そうして相対していたとしても、それは人間と人間の争い。決して、魔族と人間との争いにはなりようがない。そして、変身する能力を持ちようがない。

 ならば、『悪感情増進ウイルス』のようなものが悪さをして、必要以上に敵愾心を煽り、変身する能力まで身につけさせたのではないか。エルフが絶滅に追い込まれようとしていたのも、その影響がなかったとは言い切れない。


「だから、その悪感情増進ウイルス(仮)がどこにあるかをリファエルに調べさせたんだ。予測はしていたが……案の定、魔力の構成が俺達とは違うことが分かった」
「ユーマ様が戦っている間に、なんとかウイルスに抗う力を持つ魔力を作り出しました。それが、これなんです」

 サラは頭から煙を出しており、ミロルは思わず手で頭を抱えている。すでに話についていけていないサラをスルーし、大人ミロルがやっとのことで口を開いた。

「魔族そのものの存在を否定しようというのか?」
「ああ」
「はい」

 明るい返事にため息をつく大人ミロル。かつて、魔族にも人間にも虐げられてきた記憶を持つミロルは、目の前の規格外の二人を前にしてどこかやりきれない感情を抱いていた。

「これが伝説の勇者と大天使リファエルの力か……。我など遠く及ばぬものじゃな」
「心配するなって。ミロルには大仕事が残ってるんだからな」

 悠馬のその言葉に訝しげな表情を浮かべる大人ミロルだったが、それに構うことなく悠馬は横になっているイルマを見据えた。

「さぁ、始めるか。異世界すべてを巻き込んだ、感染症の治療をな」
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

第2の人生は、『男』が希少種の世界で

赤金武蔵
ファンタジー
 日本の高校生、久我一颯(くがいぶき)は、気が付くと見知らぬ土地で、女山賊たちから貞操を奪われる危機に直面していた。  あと一歩で襲われかけた、その時。白銀の鎧を纏った女騎士・ミューレンに救われる。  ミューレンの話から、この世界は地球ではなく、別の世界だということを知る。  しかも──『男』という存在が、超希少な世界だった。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...