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赤い赤い町
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ある小さな小さな町のまん中に大きな大きな木が一本立っていました。
枝を四方にいっぱい広げ、とてもとても背が高く、それはそれは大きな大きな木でした。
この大きな大きな木は小さな小さな町の人達を見守るようにずっとずっと昔からそこに立っていました。
町の人達はこの大きな大きな木をとり囲むようにして家をたて、そして住んでいました。
いつものように南から暖かい風がふいてきました。すると大きな大きな木にたくさんついていたかたいつぼみが、だんだんふくらみはじめました。そしてポカポカと暖かい日が続くと大きな大きな木にパッと白い花がいっせいに開きました。
まるで大きな大きな木にぼっかりと雪がつもったようです。雪がつもったように咲いた花からとてもよいかおりがただよってきました。
この花のよいかおりが町中にただようと、町の人達はこの花のかおりにさそわれて大人も子供も大きな大きな木のまわりに集まってきました。
「こんにちは、または春がきましたね。」「こんにちは、花がきれいですね。」「こんにちは、よいかおりがしますね。」といいながら、町の人達は、また暖かい春がやってきたことを喜ぶのでした。
そして大人も子供も、雪がつもったように咲いている花をながめなぬまがら楽しくおしゃべりをするのでした。
春がすぎ夏が近づいてきました。たくさん咲いていた花が、みな散ってしまいました。
でもよく見るとあおくてかわいらしい小さな実がたくさんついています。まるで大きな大きな木にたくさん鈴をかけたようでした。
太陽がギラギラ照りつける暑い夏がやってきました。たくさんなっている実が大きくなってきました。
葉があおあおとしげりました。まるで小さな小さな町のまん中に森ができたようです。
森のような大きな大きな木の下はオアシスのようでした。オアシスのような大きな大きな木の下はとても涼しくて、とても気持ちがよいのでした。
小さな小さな町の人達は大人も子供もオアシスのような大きな大きな木の下によくやってきました。
そしておしゃべりをしたり、本を読んだり、寝ころんだり、昼寝をしたりして暑い夏をすごすのでした。
やがて夏が終わり秋になりました。大きな大きな木にいっぱいしげっている葉がまっ赤になりました。
大きな大きな木は、こんどは赤い森になりました。たくさんなっている実がおいしそうにじゅくしました。
そしてたくさん下に落ちてきました。町の人達は大人も子供も大きなかごを持って大きな大きな木の下にやってきました。
そしてみんなにこにこして「こんにちは。」「こんにちは。」といいながらおいしそうにじゅくした実を、いっぱいかごに入れて持って帰るのでした。
町の人達は、持って帰った実を木づちでコンコンとたたいて穴をあけ、中の甘い汁をすうのでした。甘い汁はあごがおちそうなほどおいしいのでした。
町の人達はまたこの甘い汁で粉をこね焼きがしをつくりました。この焼きがしは町の人達
のじまんのおかしでした。大人も子供もこの焼きがしが大好きでした。
小さな町のどの家からもじまんの焼きがしを焼くにおいがしてきました。
そして小さな小さな町が焼きがしを焼くにおいにつつまれるのでした。
冬がやってきました。冷たい北風がヒューヒューとふいてきました。赤い葉っぱがみな
散ってしまいました。大きな大きな木の下は赤いじゅうたんをしきつめたようです。
小さな小さな町の人達は、「おーさむい!」「おーさむい!」といいながら大人も子供も大きなふくろを持って大きな大きな木の下にやってきました。
「さむいですね!」「また、冬がやってきましたね。」といいながら赤い葉っぱをぎゅうぎゅうとふくろにつめました。
子供たちもほっぺたを真っ赤にしながら、いっしょうけんめいぎゅうぎゅうとつめるのでした。
町の人達は持って帰った赤い葉っぱをかまどでもやし、ごはんをたきました。
赤い葉っぱを一枚入れてたきました。
赤い葉っぱを入れてたいたごはんは、ほんのり赤い葉っぱのかおりがし、ふっくらしてとてもおいしいのです。ほんのり赤い葉っぱのかおりがするおこげは町の人達の大好物でした。子供達は、「おこげをちょうだい。」「おこげをちょうだい。」というのでした。
甘い汁の入っていた実は、冬、まきのかわりにストーブでもやしました。
甘いかおりが家中にただよいました。
町の人達は、この甘いかおりをかぎながら暖かいへやできびしい冬をすごすのでした。
そして暖かい春がまたやってくるのを待つのでした。
こうして小さな小さな町の人達は、大きな大きな木からたくさんの幸せをもらって暮らしていました。
大きな大きな木は冬がきらいでした。
葉っぱが全部散ってしまうと寒くてたまりません。いつも冬の間、ブルブルとふるえていました。でも町の人達は大きな大きな木が、冬寒くてブルブルふるえてことなど知りませんでした。大きな大きな木は、小さな小さな町の人達が大好きでした。
子供達が元気に遊ぶのを見るのが楽しいのでした。町の人達のおしゃべりを聞くのが大好きでした。だから冬になるとみんなが自分のまわりにやってこないのがさみしいのでした。
大きな大きな木は、町の人達のことをよく知っていました。
町の人達が大きな大きな木の下でよくおしゃべりをしましたから…。
それに大きな大きな木は背がとても高かったので、小さな小さな町のようすがたいへんよく見えましたから…。
大きな大きな木は、町の人達からうれしい話を聞くと、とてもうれしいのでした。
うれしくて、うれしくて鼻歌をうたいました。
でも大きな大きな木の鼻歌は、風に消されて町の人達にはきこえません。
大きな大きな木は、おもしろい話を聞くと、思わず大きな大きなお腹をかかえて
大笑いしました。
大きな大きな木が、大きな大きなお腹をかかえて大笑いすると、大きな大きな木のたくさんの葉っぱがいっせいにカサカサと音をたててゆれました。
でも町の人達は、風もないのに大きな大きな木のたくさんの葉っぱが、とつぜんカサカサと音をたててゆれても少しも気にしないのでした。
大きな大きな木は、とても心配でたまらない話を聞くと、心配で夜ねむれなくなるのでした。大きな大きな木が夜ねむれなくなると、大きな大きな木は、すっかり元気がなくなり、たくさんの葉っぱが少ししおれて、少し下を向きました。
でも町の人達は、大きな大きな木が元気がなく、たくさんの葉っぱが少ししおれて、少し
下を向いても、少しも気がつきませんでした。
大きな大きな木は、悲しい話を聞くと、とても悲しいのでした。悲しくて町の人達にわからないように夜こっそり泣きました。
大きな大きな木が泣くと、大きな大きな木のたくさんの葉っぱの先からポロポロと涙がこぼれました。大きな大きな木のたくさんの葉っぱの先からポロポロと涙がこぼれると、大きな大きな木の下は雨でぬれたようです。
でも町の人達は大きな大きな木の下が、時々雨がふったようにぬれていても、少しも不思議には思いませんでした。
小さな小さな町の人達は、大きな大きな木が、冬、寒くてブルブルふるえていることも、町の人達のことで、泣いたり、笑ったり、喜んだり、悲しんだり、心配したりして、いつもみんなを見守っていることも何も知りません。
また小さな小さな町に暖かい春がやってきました。そして夏がすぎ、秋が近づいてきました。たくさんなっている実がじゅくしかけていました。いっぱいしげっている葉が少し赤くなりかけていました。町の人達は、いつものように実がじゅくして落ちてくるのを待っていました。ところが今まできたこともないような大きな大きな台風が小さな小さな町をおそいました。ものすごい風がヒューヒューと不気味にうなりながら吹き荒れました。
たたきつけるように大粒のはげしい雨も降ってきました。
ゴロ!ゴロゴロ!と不気味な音をたてて雷も鳴りはじめました。
町の人達は少しも気づいてはいませんでしたが、大きな大きな木は、もうすっかり年をとっていました。台風のものすごい風にたえきれないほど年をとっていました。
でもこの大きな大きな木は、小さな小さな町を守るようにしっかり根をふんばり、ヒューヒューと不気味に吹き荒れる風をいっしょうけんめい受けとめてがんばっていました。
ところが、この大きな大きな木をめがけて、ゴロゴロ!バシッ!とものすごい音とともに雷が落ちてきました。
もう大きな大きな木は、たえきれませんでした。
まん中から真っぷたつにさけて、ドシーン!と、ものすごい地ひびきをたてて倒れてしまいました。
台風が過ぎ去りました。町の人達が大きな大きな木のまわりに集まってきました。
そして、真っぷたつさけて倒れている大きな大きな木を見て、もう胸がはりさけそうでした。町の人達は倒れてしまった大きな大きな木をとり囲んで泣きました。
何日も大きな大きな木のそばに来ては、泣いていました。
泣きながら、小さな小さな町の人達は気づいたのでした。
自分達がこの大きな大きな木に大きく大きくつつまれて暮らしてきたことを―。
町の人達は、今までたくさんの幸せをありがとうと大きな大きな木に感謝しながら、
大きな大きな木をかたづけはじめました。
じゅくしかけていた実は、大きな大きな木の小枝でかごをあみ、それに入れて持ってかえりました。枝や幹も町の人達はみな持って帰りました。
あとには、大きな大きな切り株だけが残りました。
町の人達は持って帰った木で、おわんを作りました。お皿やコップを作りました。イスやテーブルも作りました。そして作ったおわんやコップをテーブルにならべ、イスにすわって食事をするのでした。そうして大きな大きな木のことを忘れないのでした。
町の人達は、大きな大きな木があった場所によく出かけていきました。
そして大きな大きな切り株に座って広い空き地をながめるのでした。
そのうち、町の人達が空き地に花を植えはじめました。空き地はいつのまにかお花畑になりました。大きな大きな木が立っていた場所は、広いお花畑になりました。
春も、夏も、秋も、冬もいつもお花がいっぱい咲きました。大きな大きな切り株は、広いお花畑のベンチになりました。町の人達は、よくこのお花畑にやってきました。
そして大きな大きな切り株のベンチにすわってお花をながめながらおしゃべりをしました。
小さな小さな町にまた春がやってきました。町の人達は、また同じように春がやってきたと思っていました。春の暖かい日が何日かすぎていきました。
ふと見ると、棚の上でほこりをかぶってねむっていた大きな大きな木の実にかわいらしい芽がでています。町の人達は、びっくりしました。そして芽の出ている大きな大きな木の実を庭に植えました。そして大事に育てるのでした。小さな芽は、元気に育っていきました。
何年かすぎました。小さかった芽は今では見上げるほど大きくなっていました。
また暖かい春が小さな小さな町にもやってきました。見ると大きくなった木にかわいらしいつぼみがたくさんついています。町の人達は、それを見て大喜びしました。
そして胸をドキドキさせて白い花が咲くのを待つのでした。
ポカポカと暖かい日が続きました。花のつぼみがふくらみをましてゆきました。
そしてある日、いっせいに白い花が雪がつもったように咲きました。
また昔のように花のよいかおりが町じゅうにただよいました。
夏がやってきました。実がおおきくなりました。葉があおあおとしげりました。
あおあおとしげった葉が、町の人達にやさしい木かげをつくりました。
秋がやってきました。実がおいしそうにじゅくしました。そして下にたくさん落ちてきました。葉が真っ赤になりました。まるで小さな小さな町が真っ赤な夕日に赤く赤くそまったようでした。
赤く赤くそまった小さな小さな町を見て、町のまわりの人達がいつしか小さな小さな町のことを「赤い赤い町」というようになりました。
赤い赤い町の人達は、昔、大きな大きな木からたくさんの幸せをもらっていたように、こんどは、こんどは大きな大きな木の子供から、またたくさんの幸せをもらうのでした。
赤い赤い町の人達は、赤い赤い町で暮らせることをとても幸せだと思うのでした。
そして、いつも心の中で大きな大きな木に、そっと「ありがとう」といって暮らすのでした。
枝を四方にいっぱい広げ、とてもとても背が高く、それはそれは大きな大きな木でした。
この大きな大きな木は小さな小さな町の人達を見守るようにずっとずっと昔からそこに立っていました。
町の人達はこの大きな大きな木をとり囲むようにして家をたて、そして住んでいました。
いつものように南から暖かい風がふいてきました。すると大きな大きな木にたくさんついていたかたいつぼみが、だんだんふくらみはじめました。そしてポカポカと暖かい日が続くと大きな大きな木にパッと白い花がいっせいに開きました。
まるで大きな大きな木にぼっかりと雪がつもったようです。雪がつもったように咲いた花からとてもよいかおりがただよってきました。
この花のよいかおりが町中にただようと、町の人達はこの花のかおりにさそわれて大人も子供も大きな大きな木のまわりに集まってきました。
「こんにちは、または春がきましたね。」「こんにちは、花がきれいですね。」「こんにちは、よいかおりがしますね。」といいながら、町の人達は、また暖かい春がやってきたことを喜ぶのでした。
そして大人も子供も、雪がつもったように咲いている花をながめなぬまがら楽しくおしゃべりをするのでした。
春がすぎ夏が近づいてきました。たくさん咲いていた花が、みな散ってしまいました。
でもよく見るとあおくてかわいらしい小さな実がたくさんついています。まるで大きな大きな木にたくさん鈴をかけたようでした。
太陽がギラギラ照りつける暑い夏がやってきました。たくさんなっている実が大きくなってきました。
葉があおあおとしげりました。まるで小さな小さな町のまん中に森ができたようです。
森のような大きな大きな木の下はオアシスのようでした。オアシスのような大きな大きな木の下はとても涼しくて、とても気持ちがよいのでした。
小さな小さな町の人達は大人も子供もオアシスのような大きな大きな木の下によくやってきました。
そしておしゃべりをしたり、本を読んだり、寝ころんだり、昼寝をしたりして暑い夏をすごすのでした。
やがて夏が終わり秋になりました。大きな大きな木にいっぱいしげっている葉がまっ赤になりました。
大きな大きな木は、こんどは赤い森になりました。たくさんなっている実がおいしそうにじゅくしました。
そしてたくさん下に落ちてきました。町の人達は大人も子供も大きなかごを持って大きな大きな木の下にやってきました。
そしてみんなにこにこして「こんにちは。」「こんにちは。」といいながらおいしそうにじゅくした実を、いっぱいかごに入れて持って帰るのでした。
町の人達は、持って帰った実を木づちでコンコンとたたいて穴をあけ、中の甘い汁をすうのでした。甘い汁はあごがおちそうなほどおいしいのでした。
町の人達はまたこの甘い汁で粉をこね焼きがしをつくりました。この焼きがしは町の人達
のじまんのおかしでした。大人も子供もこの焼きがしが大好きでした。
小さな町のどの家からもじまんの焼きがしを焼くにおいがしてきました。
そして小さな小さな町が焼きがしを焼くにおいにつつまれるのでした。
冬がやってきました。冷たい北風がヒューヒューとふいてきました。赤い葉っぱがみな
散ってしまいました。大きな大きな木の下は赤いじゅうたんをしきつめたようです。
小さな小さな町の人達は、「おーさむい!」「おーさむい!」といいながら大人も子供も大きなふくろを持って大きな大きな木の下にやってきました。
「さむいですね!」「また、冬がやってきましたね。」といいながら赤い葉っぱをぎゅうぎゅうとふくろにつめました。
子供たちもほっぺたを真っ赤にしながら、いっしょうけんめいぎゅうぎゅうとつめるのでした。
町の人達は持って帰った赤い葉っぱをかまどでもやし、ごはんをたきました。
赤い葉っぱを一枚入れてたきました。
赤い葉っぱを入れてたいたごはんは、ほんのり赤い葉っぱのかおりがし、ふっくらしてとてもおいしいのです。ほんのり赤い葉っぱのかおりがするおこげは町の人達の大好物でした。子供達は、「おこげをちょうだい。」「おこげをちょうだい。」というのでした。
甘い汁の入っていた実は、冬、まきのかわりにストーブでもやしました。
甘いかおりが家中にただよいました。
町の人達は、この甘いかおりをかぎながら暖かいへやできびしい冬をすごすのでした。
そして暖かい春がまたやってくるのを待つのでした。
こうして小さな小さな町の人達は、大きな大きな木からたくさんの幸せをもらって暮らしていました。
大きな大きな木は冬がきらいでした。
葉っぱが全部散ってしまうと寒くてたまりません。いつも冬の間、ブルブルとふるえていました。でも町の人達は大きな大きな木が、冬寒くてブルブルふるえてことなど知りませんでした。大きな大きな木は、小さな小さな町の人達が大好きでした。
子供達が元気に遊ぶのを見るのが楽しいのでした。町の人達のおしゃべりを聞くのが大好きでした。だから冬になるとみんなが自分のまわりにやってこないのがさみしいのでした。
大きな大きな木は、町の人達のことをよく知っていました。
町の人達が大きな大きな木の下でよくおしゃべりをしましたから…。
それに大きな大きな木は背がとても高かったので、小さな小さな町のようすがたいへんよく見えましたから…。
大きな大きな木は、町の人達からうれしい話を聞くと、とてもうれしいのでした。
うれしくて、うれしくて鼻歌をうたいました。
でも大きな大きな木の鼻歌は、風に消されて町の人達にはきこえません。
大きな大きな木は、おもしろい話を聞くと、思わず大きな大きなお腹をかかえて
大笑いしました。
大きな大きな木が、大きな大きなお腹をかかえて大笑いすると、大きな大きな木のたくさんの葉っぱがいっせいにカサカサと音をたててゆれました。
でも町の人達は、風もないのに大きな大きな木のたくさんの葉っぱが、とつぜんカサカサと音をたててゆれても少しも気にしないのでした。
大きな大きな木は、とても心配でたまらない話を聞くと、心配で夜ねむれなくなるのでした。大きな大きな木が夜ねむれなくなると、大きな大きな木は、すっかり元気がなくなり、たくさんの葉っぱが少ししおれて、少し下を向きました。
でも町の人達は、大きな大きな木が元気がなく、たくさんの葉っぱが少ししおれて、少し
下を向いても、少しも気がつきませんでした。
大きな大きな木は、悲しい話を聞くと、とても悲しいのでした。悲しくて町の人達にわからないように夜こっそり泣きました。
大きな大きな木が泣くと、大きな大きな木のたくさんの葉っぱの先からポロポロと涙がこぼれました。大きな大きな木のたくさんの葉っぱの先からポロポロと涙がこぼれると、大きな大きな木の下は雨でぬれたようです。
でも町の人達は大きな大きな木の下が、時々雨がふったようにぬれていても、少しも不思議には思いませんでした。
小さな小さな町の人達は、大きな大きな木が、冬、寒くてブルブルふるえていることも、町の人達のことで、泣いたり、笑ったり、喜んだり、悲しんだり、心配したりして、いつもみんなを見守っていることも何も知りません。
また小さな小さな町に暖かい春がやってきました。そして夏がすぎ、秋が近づいてきました。たくさんなっている実がじゅくしかけていました。いっぱいしげっている葉が少し赤くなりかけていました。町の人達は、いつものように実がじゅくして落ちてくるのを待っていました。ところが今まできたこともないような大きな大きな台風が小さな小さな町をおそいました。ものすごい風がヒューヒューと不気味にうなりながら吹き荒れました。
たたきつけるように大粒のはげしい雨も降ってきました。
ゴロ!ゴロゴロ!と不気味な音をたてて雷も鳴りはじめました。
町の人達は少しも気づいてはいませんでしたが、大きな大きな木は、もうすっかり年をとっていました。台風のものすごい風にたえきれないほど年をとっていました。
でもこの大きな大きな木は、小さな小さな町を守るようにしっかり根をふんばり、ヒューヒューと不気味に吹き荒れる風をいっしょうけんめい受けとめてがんばっていました。
ところが、この大きな大きな木をめがけて、ゴロゴロ!バシッ!とものすごい音とともに雷が落ちてきました。
もう大きな大きな木は、たえきれませんでした。
まん中から真っぷたつにさけて、ドシーン!と、ものすごい地ひびきをたてて倒れてしまいました。
台風が過ぎ去りました。町の人達が大きな大きな木のまわりに集まってきました。
そして、真っぷたつさけて倒れている大きな大きな木を見て、もう胸がはりさけそうでした。町の人達は倒れてしまった大きな大きな木をとり囲んで泣きました。
何日も大きな大きな木のそばに来ては、泣いていました。
泣きながら、小さな小さな町の人達は気づいたのでした。
自分達がこの大きな大きな木に大きく大きくつつまれて暮らしてきたことを―。
町の人達は、今までたくさんの幸せをありがとうと大きな大きな木に感謝しながら、
大きな大きな木をかたづけはじめました。
じゅくしかけていた実は、大きな大きな木の小枝でかごをあみ、それに入れて持ってかえりました。枝や幹も町の人達はみな持って帰りました。
あとには、大きな大きな切り株だけが残りました。
町の人達は持って帰った木で、おわんを作りました。お皿やコップを作りました。イスやテーブルも作りました。そして作ったおわんやコップをテーブルにならべ、イスにすわって食事をするのでした。そうして大きな大きな木のことを忘れないのでした。
町の人達は、大きな大きな木があった場所によく出かけていきました。
そして大きな大きな切り株に座って広い空き地をながめるのでした。
そのうち、町の人達が空き地に花を植えはじめました。空き地はいつのまにかお花畑になりました。大きな大きな木が立っていた場所は、広いお花畑になりました。
春も、夏も、秋も、冬もいつもお花がいっぱい咲きました。大きな大きな切り株は、広いお花畑のベンチになりました。町の人達は、よくこのお花畑にやってきました。
そして大きな大きな切り株のベンチにすわってお花をながめながらおしゃべりをしました。
小さな小さな町にまた春がやってきました。町の人達は、また同じように春がやってきたと思っていました。春の暖かい日が何日かすぎていきました。
ふと見ると、棚の上でほこりをかぶってねむっていた大きな大きな木の実にかわいらしい芽がでています。町の人達は、びっくりしました。そして芽の出ている大きな大きな木の実を庭に植えました。そして大事に育てるのでした。小さな芽は、元気に育っていきました。
何年かすぎました。小さかった芽は今では見上げるほど大きくなっていました。
また暖かい春が小さな小さな町にもやってきました。見ると大きくなった木にかわいらしいつぼみがたくさんついています。町の人達は、それを見て大喜びしました。
そして胸をドキドキさせて白い花が咲くのを待つのでした。
ポカポカと暖かい日が続きました。花のつぼみがふくらみをましてゆきました。
そしてある日、いっせいに白い花が雪がつもったように咲きました。
また昔のように花のよいかおりが町じゅうにただよいました。
夏がやってきました。実がおおきくなりました。葉があおあおとしげりました。
あおあおとしげった葉が、町の人達にやさしい木かげをつくりました。
秋がやってきました。実がおいしそうにじゅくしました。そして下にたくさん落ちてきました。葉が真っ赤になりました。まるで小さな小さな町が真っ赤な夕日に赤く赤くそまったようでした。
赤く赤くそまった小さな小さな町を見て、町のまわりの人達がいつしか小さな小さな町のことを「赤い赤い町」というようになりました。
赤い赤い町の人達は、昔、大きな大きな木からたくさんの幸せをもらっていたように、こんどは、こんどは大きな大きな木の子供から、またたくさんの幸せをもらうのでした。
赤い赤い町の人達は、赤い赤い町で暮らせることをとても幸せだと思うのでした。
そして、いつも心の中で大きな大きな木に、そっと「ありがとう」といって暮らすのでした。
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