赤い赤い町

林田ゆう

文字の大きさ
1 / 1

赤い赤い町

しおりを挟む
ある小さな小さな町のまん中に大きな大きな木が一本立っていました。
枝を四方にいっぱい広げ、とてもとても背が高く、それはそれは大きな大きな木でした。
この大きな大きな木は小さな小さな町の人達を見守るようにずっとずっと昔からそこに立っていました。
町の人達はこの大きな大きな木をとり囲むようにして家をたて、そして住んでいました。
 いつものように南から暖かい風がふいてきました。すると大きな大きな木にたくさんついていたかたいつぼみが、だんだんふくらみはじめました。そしてポカポカと暖かい日が続くと大きな大きな木にパッと白い花がいっせいに開きました。
まるで大きな大きな木にぼっかりと雪がつもったようです。雪がつもったように咲いた花からとてもよいかおりがただよってきました。
この花のよいかおりが町中にただようと、町の人達はこの花のかおりにさそわれて大人も子供も大きな大きな木のまわりに集まってきました。
「こんにちは、または春がきましたね。」「こんにちは、花がきれいですね。」「こんにちは、よいかおりがしますね。」といいながら、町の人達は、また暖かい春がやってきたことを喜ぶのでした。
そして大人も子供も、雪がつもったように咲いている花をながめなぬまがら楽しくおしゃべりをするのでした。
 春がすぎ夏が近づいてきました。たくさん咲いていた花が、みな散ってしまいました。
でもよく見るとあおくてかわいらしい小さな実がたくさんついています。まるで大きな大きな木にたくさん鈴をかけたようでした。
 太陽がギラギラ照りつける暑い夏がやってきました。たくさんなっている実が大きくなってきました。
葉があおあおとしげりました。まるで小さな小さな町のまん中に森ができたようです。
森のような大きな大きな木の下はオアシスのようでした。オアシスのような大きな大きな木の下はとても涼しくて、とても気持ちがよいのでした。
小さな小さな町の人達は大人も子供もオアシスのような大きな大きな木の下によくやってきました。
そしておしゃべりをしたり、本を読んだり、寝ころんだり、昼寝をしたりして暑い夏をすごすのでした。
 やがて夏が終わり秋になりました。大きな大きな木にいっぱいしげっている葉がまっ赤になりました。
大きな大きな木は、こんどは赤い森になりました。たくさんなっている実がおいしそうにじゅくしました。
そしてたくさん下に落ちてきました。町の人達は大人も子供も大きなかごを持って大きな大きな木の下にやってきました。
そしてみんなにこにこして「こんにちは。」「こんにちは。」といいながらおいしそうにじゅくした実を、いっぱいかごに入れて持って帰るのでした。
 町の人達は、持って帰った実を木づちでコンコンとたたいて穴をあけ、中の甘い汁をすうのでした。甘い汁はあごがおちそうなほどおいしいのでした。
町の人達はまたこの甘い汁で粉をこね焼きがしをつくりました。この焼きがしは町の人達
のじまんのおかしでした。大人も子供もこの焼きがしが大好きでした。
小さな町のどの家からもじまんの焼きがしを焼くにおいがしてきました。
そして小さな小さな町が焼きがしを焼くにおいにつつまれるのでした。
 冬がやってきました。冷たい北風がヒューヒューとふいてきました。赤い葉っぱがみな
散ってしまいました。大きな大きな木の下は赤いじゅうたんをしきつめたようです。
小さな小さな町の人達は、「おーさむい!」「おーさむい!」といいながら大人も子供も大きなふくろを持って大きな大きな木の下にやってきました。
「さむいですね!」「また、冬がやってきましたね。」といいながら赤い葉っぱをぎゅうぎゅうとふくろにつめました。
子供たちもほっぺたを真っ赤にしながら、いっしょうけんめいぎゅうぎゅうとつめるのでした。
 町の人達は持って帰った赤い葉っぱをかまどでもやし、ごはんをたきました。
赤い葉っぱを一枚入れてたきました。
赤い葉っぱを入れてたいたごはんは、ほんのり赤い葉っぱのかおりがし、ふっくらしてとてもおいしいのです。ほんのり赤い葉っぱのかおりがするおこげは町の人達の大好物でした。子供達は、「おこげをちょうだい。」「おこげをちょうだい。」というのでした。
甘い汁の入っていた実は、冬、まきのかわりにストーブでもやしました。
甘いかおりが家中にただよいました。
町の人達は、この甘いかおりをかぎながら暖かいへやできびしい冬をすごすのでした。
そして暖かい春がまたやってくるのを待つのでした。
こうして小さな小さな町の人達は、大きな大きな木からたくさんの幸せをもらって暮らしていました。
 大きな大きな木は冬がきらいでした。
葉っぱが全部散ってしまうと寒くてたまりません。いつも冬の間、ブルブルとふるえていました。でも町の人達は大きな大きな木が、冬寒くてブルブルふるえてことなど知りませんでした。大きな大きな木は、小さな小さな町の人達が大好きでした。
子供達が元気に遊ぶのを見るのが楽しいのでした。町の人達のおしゃべりを聞くのが大好きでした。だから冬になるとみんなが自分のまわりにやってこないのがさみしいのでした。
大きな大きな木は、町の人達のことをよく知っていました。
町の人達が大きな大きな木の下でよくおしゃべりをしましたから…。
それに大きな大きな木は背がとても高かったので、小さな小さな町のようすがたいへんよく見えましたから…。
大きな大きな木は、町の人達からうれしい話を聞くと、とてもうれしいのでした。
うれしくて、うれしくて鼻歌をうたいました。
でも大きな大きな木の鼻歌は、風に消されて町の人達にはきこえません。
大きな大きな木は、おもしろい話を聞くと、思わず大きな大きなお腹をかかえて
大笑いしました。
大きな大きな木が、大きな大きなお腹をかかえて大笑いすると、大きな大きな木のたくさんの葉っぱがいっせいにカサカサと音をたててゆれました。
でも町の人達は、風もないのに大きな大きな木のたくさんの葉っぱが、とつぜんカサカサと音をたててゆれても少しも気にしないのでした。
大きな大きな木は、とても心配でたまらない話を聞くと、心配で夜ねむれなくなるのでした。大きな大きな木が夜ねむれなくなると、大きな大きな木は、すっかり元気がなくなり、たくさんの葉っぱが少ししおれて、少し下を向きました。
でも町の人達は、大きな大きな木が元気がなく、たくさんの葉っぱが少ししおれて、少し
下を向いても、少しも気がつきませんでした。
大きな大きな木は、悲しい話を聞くと、とても悲しいのでした。悲しくて町の人達にわからないように夜こっそり泣きました。
大きな大きな木が泣くと、大きな大きな木のたくさんの葉っぱの先からポロポロと涙がこぼれました。大きな大きな木のたくさんの葉っぱの先からポロポロと涙がこぼれると、大きな大きな木の下は雨でぬれたようです。
でも町の人達は大きな大きな木の下が、時々雨がふったようにぬれていても、少しも不思議には思いませんでした。
小さな小さな町の人達は、大きな大きな木が、冬、寒くてブルブルふるえていることも、町の人達のことで、泣いたり、笑ったり、喜んだり、悲しんだり、心配したりして、いつもみんなを見守っていることも何も知りません。
 また小さな小さな町に暖かい春がやってきました。そして夏がすぎ、秋が近づいてきました。たくさんなっている実がじゅくしかけていました。いっぱいしげっている葉が少し赤くなりかけていました。町の人達は、いつものように実がじゅくして落ちてくるのを待っていました。ところが今まできたこともないような大きな大きな台風が小さな小さな町をおそいました。ものすごい風がヒューヒューと不気味にうなりながら吹き荒れました。
たたきつけるように大粒のはげしい雨も降ってきました。
ゴロ!ゴロゴロ!と不気味な音をたてて雷も鳴りはじめました。
町の人達は少しも気づいてはいませんでしたが、大きな大きな木は、もうすっかり年をとっていました。台風のものすごい風にたえきれないほど年をとっていました。
でもこの大きな大きな木は、小さな小さな町を守るようにしっかり根をふんばり、ヒューヒューと不気味に吹き荒れる風をいっしょうけんめい受けとめてがんばっていました。
ところが、この大きな大きな木をめがけて、ゴロゴロ!バシッ!とものすごい音とともに雷が落ちてきました。
もう大きな大きな木は、たえきれませんでした。
まん中から真っぷたつにさけて、ドシーン!と、ものすごい地ひびきをたてて倒れてしまいました。
 台風が過ぎ去りました。町の人達が大きな大きな木のまわりに集まってきました。
そして、真っぷたつさけて倒れている大きな大きな木を見て、もう胸がはりさけそうでした。町の人達は倒れてしまった大きな大きな木をとり囲んで泣きました。
何日も大きな大きな木のそばに来ては、泣いていました。
泣きながら、小さな小さな町の人達は気づいたのでした。
自分達がこの大きな大きな木に大きく大きくつつまれて暮らしてきたことを―。
町の人達は、今までたくさんの幸せをありがとうと大きな大きな木に感謝しながら、
大きな大きな木をかたづけはじめました。
じゅくしかけていた実は、大きな大きな木の小枝でかごをあみ、それに入れて持ってかえりました。枝や幹も町の人達はみな持って帰りました。
あとには、大きな大きな切り株だけが残りました。
町の人達は持って帰った木で、おわんを作りました。お皿やコップを作りました。イスやテーブルも作りました。そして作ったおわんやコップをテーブルにならべ、イスにすわって食事をするのでした。そうして大きな大きな木のことを忘れないのでした。
町の人達は、大きな大きな木があった場所によく出かけていきました。
そして大きな大きな切り株に座って広い空き地をながめるのでした。
そのうち、町の人達が空き地に花を植えはじめました。空き地はいつのまにかお花畑になりました。大きな大きな木が立っていた場所は、広いお花畑になりました。
春も、夏も、秋も、冬もいつもお花がいっぱい咲きました。大きな大きな切り株は、広いお花畑のベンチになりました。町の人達は、よくこのお花畑にやってきました。
そして大きな大きな切り株のベンチにすわってお花をながめながらおしゃべりをしました。
 小さな小さな町にまた春がやってきました。町の人達は、また同じように春がやってきたと思っていました。春の暖かい日が何日かすぎていきました。
ふと見ると、棚の上でほこりをかぶってねむっていた大きな大きな木の実にかわいらしい芽がでています。町の人達は、びっくりしました。そして芽の出ている大きな大きな木の実を庭に植えました。そして大事に育てるのでした。小さな芽は、元気に育っていきました。
何年かすぎました。小さかった芽は今では見上げるほど大きくなっていました。
また暖かい春が小さな小さな町にもやってきました。見ると大きくなった木にかわいらしいつぼみがたくさんついています。町の人達は、それを見て大喜びしました。
そして胸をドキドキさせて白い花が咲くのを待つのでした。
ポカポカと暖かい日が続きました。花のつぼみがふくらみをましてゆきました。
そしてある日、いっせいに白い花が雪がつもったように咲きました。
また昔のように花のよいかおりが町じゅうにただよいました。
夏がやってきました。実がおおきくなりました。葉があおあおとしげりました。
あおあおとしげった葉が、町の人達にやさしい木かげをつくりました。
秋がやってきました。実がおいしそうにじゅくしました。そして下にたくさん落ちてきました。葉が真っ赤になりました。まるで小さな小さな町が真っ赤な夕日に赤く赤くそまったようでした。
赤く赤くそまった小さな小さな町を見て、町のまわりの人達がいつしか小さな小さな町のことを「赤い赤い町」というようになりました。
赤い赤い町の人達は、昔、大きな大きな木からたくさんの幸せをもらっていたように、こんどは、こんどは大きな大きな木の子供から、またたくさんの幸せをもらうのでした。
赤い赤い町の人達は、赤い赤い町で暮らせることをとても幸せだと思うのでした。
そして、いつも心の中で大きな大きな木に、そっと「ありがとう」といって暮らすのでした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...