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0章-非日常な放課後-0日目の月曜日-

2話 彼は人災の意味を調べるべきだろう

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「じゃあ、罰ゲーム決めるか……」

 友残念とざねがそう口にした瞬間、周囲に緊張が広がった。

 こういう状況を嵐の前の静けさと言うのだろうか?

 そして、3人の話し合いが始まった。

 初めに提案したのは友残念とざねだ。

「どんな罰ゲームにするんだ? ……あっ! 先に言っとくけど、俺が提案するなら命令権なっ!!」

「「もちろん却下な?」」

「普通に考えてみても変な命令してきそうじゃねぇか……いや、別にそういう事ボーイズラブでは無いからな?」

 いや、命令するとしても俺等がBL要素になる訳がねぇだろ、誰得だよ、腐得か。

 それに、命令といってもよくある大人のR18漫画とかの『なんでもやるよ』ってやつも断ればいいだけだしな、だって強制される訳じゃねぇんだし、『約束を守らない』っていう風評が広まるだけだしな、うん。

 まぁ、でも、俺が拒否するのは別の理由だけど……

「普通に考えてみても、罰ゲームなら範囲が広すぎるから絞って固定の罰にした方がいいだろ」

 ……と、いう理由である。

 次に提案したのは友介だ。

「じゃあ今度は俺な……? うーん、まぁ、秘密をバラす…とか?」

「「もちろん却下」」

「そんなの、軽いやつ言われたら反応に困るだろうが……どうするんだ? 授業中にノートに絵を描いてサボってるとか言われたら……?」

 確かに反応に困るやつだな。

 ……でも、逆に重い秘密を明かされても困るけどな……マジで、親が初恋とか言われたら空気が死ぬ自信があるからな。

 まぁ…俺は別の理由で拒否したんだけどな。

「一般的に考えてみても、罰ゲームなら範囲が広すぎるから範囲を縮めて決まった罰にした方がいいだろ」

 俺は主張が終わると共に、『決まった……ッ!!』といった感じのドヤ顔を披露した。

 何故なら、俺のうまく完璧な理論をうまく完璧に主張し終える事ができたからである、そうッ!! だからドヤっているのだッ!!

 ……一応ここに記しておくが、翔也くんはさっきから『範囲が広すぎる』としか言っていないぞ~♪

「……そしてッ!! 聞きたまえッ!! 俺の案はッ!! 好きな女子に告白する……というものだッ!!」

「「……微妙だな……」」

「あぁ゛? なんでだよ? 楽しそうじゃんか? 俺は友残念とざねが無様にフラれる様子を見てみたいぞ」

 翔也の目的は、まさに〝それ〟である。

 俺の心を惑わし弄び辱めた奴等にも羞恥を味合わせてやりたい……無様に崩れ落ちる様を見てやりたい……という事だ。

 翔也は、『やられたらやり返すッ!! やり返しだぁッ!!』を実行しようとしているらしい。

「怖えな、そんなヤクザみたいな怖い凶相でそんな低い脅すような声出すなよ……ほら、俺と友残念とざねって好きな女子いないからさ…な?」

「あぁ、お前だけに適用するような罰ゲームになっちまうが……良いのか? 別にお前が良いなら良いんだけど……流石にそれは…な? まぁ、それはいいとしても俺へのそのヘイトはなんなん?」

 友介の指摘は……まぁ許そう、ん? 友介って十文字の事を好きとか言ってなかったか? 好きな人いるんじゃねぇかよ……フッ…勝った……ッ!!

 あぁ゛? 友残念とざねの奴はなんか癪に障るから潰すッ!!

 友介の指摘に対しては謎の優越感で勝利を確信したらしい翔也だが、友残念とざねの指摘には流石にイラッときた様で、今度は罅割れるような音では無く、何かが歪むような音で罅が入るようにビィキキキィキッキキィと音を鳴らした。

 おや? 翔也の額に地層が浮かび上がっている……?

 ……翔也達は上手く無視スルーしていたが、翔也が『好きな女子に告白する』と言った時も、先程と同じような罅割れるようなピキッという音が何処か教室内から聞こえてきた気がした事は、霊的な何かだと怖いので、気にしないでおくべきだろう。

 そして翔也は、別にアリサの事は好きな訳じゃないと思うけど……友介達を騙したいし……まぁいっか……と思い、気にしない事にした。

 しかしそれとは別に、翔也自身も自身の額にビィキキキィキッキキィと鳴らしてはならない音を鳴らして青筋地層が浮かんだ事を理解しており、これは俺も怒るべき場面だよな……? などと考えていたりする、翔也は並行思考が可能なのだ。

「…よし、じゃあ少しは妥協しようじゃないか……俺はアリサさんに、友介は琴音さんに? 友残念とざねは……まあ、学校のトップを争う美少女達全員って事で? 友介にも全員に告白させるつもりだったのを1人に絞ってやったぞ、これならいいだろ?」

「いやいやいやいや、俺がよくn───」

「───そんなの賛成しかねぇだろッ!!!! 負けなきゃいいんだからよッ!!」

 俺の提案に、友残念とざねは迷わず反対しようとし、心の親友である友介に賛成の声で掻き消されていた、その平凡な容貌に似合った瞳は少し恨めしげに友介を睨んでいた。

 だがしかし、友介も友残念とざねを睨みつけている、その瞳はギラギラと輝いていて、その輝きは、まるで、『日頃の恨みを晴らしてやるぜぇッ!! ガッハッハッ!!』と宣っているかの様だ。

 それを見つめる翔也はどこか楽しそうな様子だ、男子馬鹿達はいつになったら罰ゲームを決められるのだろうか?

 閑話休題。

 それから数分が経過し、罰ゲームが決まった。

「───……じゃあ、まぁ多数決で賛成の方が多いから罰ゲームは『憧れの人に告白』という事で……」

「それでいいぜ!!」

「おぉおぉ、やってやんよ! 負けなきゃ良いんだろ? 負けなきゃよぉ!」

「じゃあ、友介シャッフルしてくれぇい」

 そう言って翔也が友介にトランプを渡し、友介がシャッフルを始め───

「この俺が……負けた…だとッ!?」

「翔也、お前、ポーカーフェイスって知ってるか?」

「そうそう翔也くぅん、ぽぉかぁふぇいすって分かりゅぅ?」

「友介、知ってるのと出来るのは別なんだよッ!! 友残念とざね、一先ずお前は殺すッ!!!」

 最初の1回目は翔也達も拮抗しながらゲームとして出来ていたのだが、翔也が全力で頼んでやらせてもらった延長戦の2回目からは翔也の表情の癖に気付いて、ゲームではなく蹂躙となってしまい、すぐに終わるようになってしまったのだ。

 その結果、翔也の頼みを聞きやった3回のゲームにて翔也は全敗だったりする。

 先程とは違い翔也は涙目でどこか呆然としている。

「……告白…かぁ……された事はあるけどした事なんて無いんだけど……」

 翔也の言葉に、友介と友残念とざねがピクリと反応する。

 翔也くん、無意識に爆弾を落としている事に気付いていない様子。

「はぁ……告白ねぇ…本当にやらなきゃいけないのかぁ……? 告白って呼ばれた側も結構面倒臭いんだし、やっぱり、やらなくてもいいんじゃねぇか……?」

 翔也くん、無意識に爆弾を落としてしまった事に気付いていない様子。

 そんな様子の翔也の肩を、誰かが突いた……首を動かしてみると、そこには凄く良い笑顔の友残念とざねVer.爽やかがいた。

 翔也は友残念とざねの何かが恐ろしかったらしく、ビクッと跳ねた。

 友残念とざねから漂う瘴気と見紛う程に濁った邪悪な圧が教室中に広がる。

「な、何だよ友残念とざね……?」

「おぉいおぉい……翔也くぅん? 『告白された事はあるけど』ってどういう事なんだぁい?」

「いやいやいや、された事があるって言っても小学生の頃だからな!?」

「あぁ゛? 小学生の頃だろうが告白されてんのは変わらねぇじゃねぇかぁぁあ!! なんだゴラァ、テメェ、俺等のような告白された事ねぇ陰キャ男子を敵に回すつもりなんかッ!? えぇ? このッ!! テメッ!! 似非えせ陰キャめぇッ!!」

「……友残念とざね……今までで1番饒舌になっているところ申し訳無いんだがな? 友介も告白だけならされた事あるぞ?」

「おい! バッカ! それは今言うなってぇ!!」

「おいおいおいおい、翔也、友介、今日で俺達3人の友情は崩壊するかもしれんのうッ!!」

「待てッ!! 俺の場合は翔也とは違って妹にされただけだからッ!! 実妹にされただけだからッ!! てかそもそも〝あれ〟は告白じゃ───」

「───テメェの妹美少女じゃねぇかぁぁあッ!!!」

 見苦しい男子達の争いが10分程続いた後……

「まぁ翔也だもんな? きっと陰キャである俺達に告白するような女子なんだから……いや、翔也が相手だし美幼女かも───」

「あぁ゛!? 友残念とざねテメェッ! 俺の天花てんかに欲情してんじゃねぇぞロリコンクソ野郎ゴルァァァァア!!!?」

 翔也から漂う瘴気と見紛う程に濁った邪悪な圧が……───……以下略。

 そんな友介と友残念とざねに対し、翔也はスマホを弄り始め、写真フォルダから、ある写真を開き、スマホを友介と友残念とざねに向けて見せた。

 そして蘇った2人の反応は……

「「はぁッ!!?」」

「なんだこの美少女!!?」

「なんかハグしてねぇ!!?」

「「おい翔也、状況説明はよッ!!」」

 その写真とは、光を具現化したかのような黄金色の金の腰まで届く長髪に、天使のように可愛らしいがその内には巨大な光が籠った金の瞳を悲しそうにし、アホ毛も悲しさを表すようにしょげさせた美少女───天羽あまは天花てんか───に、9歳くらいの少し前髪の長い美少年───小学5年生の翔也───が抱きつかれている姿、そう、ハグされている姿だった。

 写真を見せている翔也は、どこか誇らしげにドヤァッとしている。

 『どこか誇らしげに』ではなく、実際に誇っているのかもしれない。

「小5くらい? の頃なんだけど…その日は俺がここに引っ越す日だったんだよ、だから告白されて…受け入れたら……そのままハグされた的な?」

「お前、こんな美少女がいるのにまだ満足・・できないのか?」

「まぁ確かに、一夫多妻が認められている・・・・・・・・・・・・事だし問題は無いんだけどな?」

「いやいや、お前等考えてもみろよ、満足以前にな? ほら、なんて言うかさ? 恋はするものじゃないだろ? 恋はしちゃうものだろ?」

「何名言風に言ってんだよ、迷言の間違いだろ? まず俺等陰キャには関係ねぇから、なぁ? 友介?」

「……」

「ん? 友介?」

「……そうだよな翔也、俺は何も悪くないよな? 父の第二の妻義母さんに恋をしてしまったとしても俺は何も悪くないよな? ただただ不幸なだけだよなッ!!!」

「「……」」

 友介のその悲痛な叫びは、男子達3人以外はもう誰も居ない放課後の教室に大きく響いた、そして『なんて小さな事で俺達は争っていたんだろうか』、と翔也と友残念とざねの心底にも、大きく響いた。

「「…なんかごめんな?」」

「うるせぇッ!!」

「じゃあ、一先ず話を戻そうか? 翔也、告白だけど、いつにするんだ?」

「うっ…忘れてなかったのか……」

「そりゃそうだろ、まぁ、明日で良いんじゃねぇか?」

「まぁそうだな、明日、取り敢えずラブレター手紙でも下駄箱に入れておくよ」

「頑張れよー」

「じゃあ、もう解散するか?」

「それが良いだろ、時間的にもな」

「翔也、友残念とざね、帰ったらゲーム、忘れんなよ?」

「「分かってるよ」」

 友介は、翔也と友残念とざねのその言葉を聞くと席を立ち、帰宅の準備を始めた。

「んじゃ、俺はもう帰るな?」

「おう、じゃあな!」

「あばよ~」

「あぁ、じゃあな~」

 そう言って翔也は右腕にリュックを背負って、ラブレター手紙の内容を考えながら教室を出ていった。



 後に、この不注意とも言える『告白』という罰ゲームを提案した出来事が、割と大きな騒動を起こす事になるのだが……翔也は、そんな騒動が起こるとは考えてもいない様子であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

次回「混雑中のバイト先-1」
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