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0章-非日常な放課後-0日目の月曜日-
0章-8話「美少女達の心中-2」
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sied.十文字琴音
「翔......」
他に誰も居ない道場で、力強く、流麗に、そして風切りの音を響かせ竹刀を振っている美少女がいた。
彼女は今、翔也と出会えた事で興奮して眠れず、今はその興奮を振り払おうとしているところだったのだ。
「うぅ~、まだ温もりが消えないぃ~」
そう、琴音は今、勢い余って抱きしめて欲しいと言ってしまった事で翔也とハグしてしまい、更にそれだけで無く、琴音が思っていたよりも翔也はしっかりと、強く抱きしめてきたのでその温もりがまだ消えていない(ように感じる)のだ。
別に翔也の温もりを感じる事が琴音は嫌な訳ではない、寧ろ翔也の温もりを感じる事ができて嬉しく思っているくらいだが、先程にも言ったように琴音は今興奮して眠れなくなってしまっているのである、その原因の7割がこの温もりのせいなのだ。
「し、翔は私の事をどう思ってるの...かしら.....?」
翔也と琴音の関係は、前にも言ったように道場での出会いが始まりだった、周りの修行仲間達が翔也の事を『翔』と呼んでいるのを聞き、それが名前だと勘違いした事もあったが、そんな事は琴音にとっては些事でしかなかった。
それから何度か顔を合わせる事はあったが、仲はそれほど良いという訳では無かったのだ、仲が深まったのは、ある出来事が起きてからだった。
その日、琴音少女、通称:琴音ちゃんは、学校で悪口を言われ、小学校の運動場の隅で一人涙を流していた、だが、それも仕方の無い事だろう、もう小学6年生だったとはいえ、人一倍心が乙女な琴音が、気になっていた男子の目の前で、『男みたい』『女だったの?』等と言われてしまったのだ、傷付くなと言うのも酷だろう。
話を戻し、運動場の隅で泣いていた琴音に、1人の少年が話しかけてきた、同じ道場で修行していて、一番最近に入門したのに同年代では1番強い少年、そしていつ見ても笑っているのに笑っていない、もっといえばいつも目が笑っていない不思議で不気味な少年、翔也だった。
「翔也...かぁ......でも、翔也って名前であの顔の人なんて学校に居たかしら?」
琴音に声をかけてきた時の翔也も冷徹な瞳をしていたが、それでも、そんな瞳をしていても、自分を気遣ってくれている、琴音は、何故かそれが分かった。
ゆっくりと話し始め、琴音が翔也に相談すると、翔也は言ってくれた、『髪が短くても、そんなのは関係無いでしょ? 十文字さん、綺麗な顔してるじゃん』そう言ってくれた時の翔也の笑顔は、琴音が初めて見た、翔也の本物の笑顔、仮面の笑顔じゃない、綺麗な笑顔、その笑顔を、琴音は今でも忘れておらず、そして今でも覚えている、あの笑顔は、かっこよく、一目惚れしてしまうのも無理もなかった、と。
そしてそう考えた今の琴音は......
「ひ、一目惚れなんかしてないわよぉ~ッ!!!」
適当に竹刀を振り回し、更に尻尾もぶわんぶわんと荒ぶらせて狼狽していたが、それを見た琴音の父は、まだ見ぬ琴音の想い人に闘志を燃やしながら、微笑ましく見過ごすのだった。
sied.南城優香
「翔ちゃん......」
真っ暗な部屋で、ベッドの上で横になり、眠れず天井を見上げる美女がいた。
その美女、優香は、翔也の想い人かもしれない相手、そう、琴音に(勘違いの)闘志を燃やしていた、それは何故か? 翔也が琴音を逃げる理由に誘う瞬間を見てしまったからだ、その事に優香は途轍もなくショックを受け、翔也に殺意を抱いていたはずの〈魂の姉妹達〉が翔也達を追わなかったのは生きる意味を、生きる活力を失ったかのように表情を絶望に染めていた優香を慰めていたからだったりする。
それ程にその時の優香の状態は不味かったのである、殺意が滾り、狂気に目覚めていた〈魂の姉妹達〉が一瞬で素に戻される程で、優香の翔也に対する愛情の深さが分かるというものだ。
「翔ちゃん、なんで私というものがありながらッ、もうっ!本当にっ...もうっ!!」
陰口は言えない純粋(?)な優香ちゃんである。
翔也と優香は、実は5年前くらいにはもう会っていたのである、翔也が小学6年生で、現在大学3年生の優香が高校1年生だった頃、既におっとり系美女となりつつあり、胸も豊満に立派に育っていた優香は、翔也や琴音が通う高校と同じ高校を通っていたが、やはりその高校でも美少女としてモテにモテてしまったのである。
そんなある日、一度同じ高校の親が偉い職に就いているという男子に襲われそうになった事があったのだが、その時は訴えても証拠が無く何も対応してもらえなかったという事があったのだ、そんな時、休日に外に出かけ、沢山遊んで夜9時頃に帰宅し、遊び疲れてぼーっと帰り道を歩いていたら例の男子に襲われたのだ。
服を脱がされるッ! と優香が思ったその時、呑気な幼い少年の声が聞こえたのだ、例の男子に怯えていた優香はそれに気付かず、例の男子が振り向いた時に頑張って抜け出したのだが、抜け出した事で気が抜けたのか尻餅をついてしまったのだ。
少年がいる事に気付いていなかった優香は(気付いていても子供に何かできるとは思えないので変わらなかったかもだが)襲われると思い絶望の表情を浮かべるも、例の男子の表情をよく見てみると、その顔は真っ青に染まっており、その視線の先には少年、翔也がいて、なにやらスマホを操作しているようだった。
慌てたような、焦ったような例の男子が走って逃げていくと、優香に翔也が歩み寄ってきて、スマホを見せたのだ、そのスマホの画面を見た優香は、例の男子が自分を襲おうとしていた映像が配信されていたようで、優香の悩みと不安が解決したのだと分かった。
優香が安心して翔也を強く抱きしめ、大粒の涙を流していると、お礼を求めた優香に対し翔也が真剣で純粋無垢(?)な表情でとある事を訊いてきた、『お姉さん、夜遊び?と 女遊び? って何ですか? お義母さんとお義父さんは教えてくれなくて』と、それを聞いた優香はとても取り乱し、まだ知らなくていい事だと伝えるのだった。
実は夜9時頃に翔也が外に出ていた理由はどこかで『夜遊び』『女遊び』という言葉を聞き、意味が気になったからである、夜は夜に遊ぶ事らしいし、女遊びも夜に女性と遊ぶ事らしいし実際に試してみよう! という訳である。
「今思えば、小学6年生にしては『夜遊び』とか『女遊び』とか、知っていちゃいけない言葉を知ってたような気がするなぁ......」
その後、翔也を連れて交番に向かった優香だが、その途中で翔也には逃げられてしまい、その時は名前を訊く事はできなかった、後日、その騒動が終わり一段落着いた頃、優香は無性に翔也の事が忘れられなくて、気になったのである。
しかし当時小学6年生の翔也の事が無性に気になるとは言い辛く、とはいえ気になるという気持ちがせめぎ合い、友人達に訊けたのは翔也と出会ってから1年と半年後の事であった、逆に言うと、それだけ長い間気になっていたという事でもあり、訊かれた友人達は女子特有の恋バナへの興味よりも歳下男子への執着心の高さに少し引いた程である。
しかしそれからはちゃんと恋バナになり、その過程で優香は翔也の事を好きになったのだと理解した、けれど自覚した事で逆に会えない事が辛く感じ、その度に少しずつ翔也への愛が募っていった。
そんな風に過ごして更に3年程が経ち、翔也が高校1年生になった夏休み、色々あって大学在学中に飲食店を開いた優香だが、ある日、〈小鳥の枝葉〉に何故か見ていると心が揺さぶられる青年が訪れた、その青年は優香の作ったものを美味しそうに食べてから、優香がお会計をしていると唐突にバイトは募集しているか? と訊かれた。
優香はその容姿の事もあってバイトに入りたいと言う者の対応は慣れていた、そして今回もその類だろうと思ったが、どうしてか、優香は思っている事とは裏腹に青年を採用してしまった。
後日、青年の初のバイト日にて、優香は気付いた、髪を上げた姿の青年、翔也の、その特徴的な綺麗な瞳を見て...『あぁ、彼が私を助けてくれたあの時の少年なんだっ!!』と、優香は嬉しかった、嬉しかったがそれよりも思った事があった。
『この思いは、この想いは、いつか告白の時に一緒に伝えよう』と、そう思ったのだ、そんな事があって、優香は2度に渡って翔也への重い想いを蓄積し続けたのだ。
優香という哀しき怪物は、生まれるべくして生まれたという事なのだろう。
これまでの翔也との思い出を振り払い優香は一言呟いた。
「えへへっ!」
呟いた……のだろうか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次回「美少女達の心中-3」
ちゃんといつか修正します。
次回はこの2人です。
霧空アリサ
霧島梓
「翔......」
他に誰も居ない道場で、力強く、流麗に、そして風切りの音を響かせ竹刀を振っている美少女がいた。
彼女は今、翔也と出会えた事で興奮して眠れず、今はその興奮を振り払おうとしているところだったのだ。
「うぅ~、まだ温もりが消えないぃ~」
そう、琴音は今、勢い余って抱きしめて欲しいと言ってしまった事で翔也とハグしてしまい、更にそれだけで無く、琴音が思っていたよりも翔也はしっかりと、強く抱きしめてきたのでその温もりがまだ消えていない(ように感じる)のだ。
別に翔也の温もりを感じる事が琴音は嫌な訳ではない、寧ろ翔也の温もりを感じる事ができて嬉しく思っているくらいだが、先程にも言ったように琴音は今興奮して眠れなくなってしまっているのである、その原因の7割がこの温もりのせいなのだ。
「し、翔は私の事をどう思ってるの...かしら.....?」
翔也と琴音の関係は、前にも言ったように道場での出会いが始まりだった、周りの修行仲間達が翔也の事を『翔』と呼んでいるのを聞き、それが名前だと勘違いした事もあったが、そんな事は琴音にとっては些事でしかなかった。
それから何度か顔を合わせる事はあったが、仲はそれほど良いという訳では無かったのだ、仲が深まったのは、ある出来事が起きてからだった。
その日、琴音少女、通称:琴音ちゃんは、学校で悪口を言われ、小学校の運動場の隅で一人涙を流していた、だが、それも仕方の無い事だろう、もう小学6年生だったとはいえ、人一倍心が乙女な琴音が、気になっていた男子の目の前で、『男みたい』『女だったの?』等と言われてしまったのだ、傷付くなと言うのも酷だろう。
話を戻し、運動場の隅で泣いていた琴音に、1人の少年が話しかけてきた、同じ道場で修行していて、一番最近に入門したのに同年代では1番強い少年、そしていつ見ても笑っているのに笑っていない、もっといえばいつも目が笑っていない不思議で不気味な少年、翔也だった。
「翔也...かぁ......でも、翔也って名前であの顔の人なんて学校に居たかしら?」
琴音に声をかけてきた時の翔也も冷徹な瞳をしていたが、それでも、そんな瞳をしていても、自分を気遣ってくれている、琴音は、何故かそれが分かった。
ゆっくりと話し始め、琴音が翔也に相談すると、翔也は言ってくれた、『髪が短くても、そんなのは関係無いでしょ? 十文字さん、綺麗な顔してるじゃん』そう言ってくれた時の翔也の笑顔は、琴音が初めて見た、翔也の本物の笑顔、仮面の笑顔じゃない、綺麗な笑顔、その笑顔を、琴音は今でも忘れておらず、そして今でも覚えている、あの笑顔は、かっこよく、一目惚れしてしまうのも無理もなかった、と。
そしてそう考えた今の琴音は......
「ひ、一目惚れなんかしてないわよぉ~ッ!!!」
適当に竹刀を振り回し、更に尻尾もぶわんぶわんと荒ぶらせて狼狽していたが、それを見た琴音の父は、まだ見ぬ琴音の想い人に闘志を燃やしながら、微笑ましく見過ごすのだった。
sied.南城優香
「翔ちゃん......」
真っ暗な部屋で、ベッドの上で横になり、眠れず天井を見上げる美女がいた。
その美女、優香は、翔也の想い人かもしれない相手、そう、琴音に(勘違いの)闘志を燃やしていた、それは何故か? 翔也が琴音を逃げる理由に誘う瞬間を見てしまったからだ、その事に優香は途轍もなくショックを受け、翔也に殺意を抱いていたはずの〈魂の姉妹達〉が翔也達を追わなかったのは生きる意味を、生きる活力を失ったかのように表情を絶望に染めていた優香を慰めていたからだったりする。
それ程にその時の優香の状態は不味かったのである、殺意が滾り、狂気に目覚めていた〈魂の姉妹達〉が一瞬で素に戻される程で、優香の翔也に対する愛情の深さが分かるというものだ。
「翔ちゃん、なんで私というものがありながらッ、もうっ!本当にっ...もうっ!!」
陰口は言えない純粋(?)な優香ちゃんである。
翔也と優香は、実は5年前くらいにはもう会っていたのである、翔也が小学6年生で、現在大学3年生の優香が高校1年生だった頃、既におっとり系美女となりつつあり、胸も豊満に立派に育っていた優香は、翔也や琴音が通う高校と同じ高校を通っていたが、やはりその高校でも美少女としてモテにモテてしまったのである。
そんなある日、一度同じ高校の親が偉い職に就いているという男子に襲われそうになった事があったのだが、その時は訴えても証拠が無く何も対応してもらえなかったという事があったのだ、そんな時、休日に外に出かけ、沢山遊んで夜9時頃に帰宅し、遊び疲れてぼーっと帰り道を歩いていたら例の男子に襲われたのだ。
服を脱がされるッ! と優香が思ったその時、呑気な幼い少年の声が聞こえたのだ、例の男子に怯えていた優香はそれに気付かず、例の男子が振り向いた時に頑張って抜け出したのだが、抜け出した事で気が抜けたのか尻餅をついてしまったのだ。
少年がいる事に気付いていなかった優香は(気付いていても子供に何かできるとは思えないので変わらなかったかもだが)襲われると思い絶望の表情を浮かべるも、例の男子の表情をよく見てみると、その顔は真っ青に染まっており、その視線の先には少年、翔也がいて、なにやらスマホを操作しているようだった。
慌てたような、焦ったような例の男子が走って逃げていくと、優香に翔也が歩み寄ってきて、スマホを見せたのだ、そのスマホの画面を見た優香は、例の男子が自分を襲おうとしていた映像が配信されていたようで、優香の悩みと不安が解決したのだと分かった。
優香が安心して翔也を強く抱きしめ、大粒の涙を流していると、お礼を求めた優香に対し翔也が真剣で純粋無垢(?)な表情でとある事を訊いてきた、『お姉さん、夜遊び?と 女遊び? って何ですか? お義母さんとお義父さんは教えてくれなくて』と、それを聞いた優香はとても取り乱し、まだ知らなくていい事だと伝えるのだった。
実は夜9時頃に翔也が外に出ていた理由はどこかで『夜遊び』『女遊び』という言葉を聞き、意味が気になったからである、夜は夜に遊ぶ事らしいし、女遊びも夜に女性と遊ぶ事らしいし実際に試してみよう! という訳である。
「今思えば、小学6年生にしては『夜遊び』とか『女遊び』とか、知っていちゃいけない言葉を知ってたような気がするなぁ......」
その後、翔也を連れて交番に向かった優香だが、その途中で翔也には逃げられてしまい、その時は名前を訊く事はできなかった、後日、その騒動が終わり一段落着いた頃、優香は無性に翔也の事が忘れられなくて、気になったのである。
しかし当時小学6年生の翔也の事が無性に気になるとは言い辛く、とはいえ気になるという気持ちがせめぎ合い、友人達に訊けたのは翔也と出会ってから1年と半年後の事であった、逆に言うと、それだけ長い間気になっていたという事でもあり、訊かれた友人達は女子特有の恋バナへの興味よりも歳下男子への執着心の高さに少し引いた程である。
しかしそれからはちゃんと恋バナになり、その過程で優香は翔也の事を好きになったのだと理解した、けれど自覚した事で逆に会えない事が辛く感じ、その度に少しずつ翔也への愛が募っていった。
そんな風に過ごして更に3年程が経ち、翔也が高校1年生になった夏休み、色々あって大学在学中に飲食店を開いた優香だが、ある日、〈小鳥の枝葉〉に何故か見ていると心が揺さぶられる青年が訪れた、その青年は優香の作ったものを美味しそうに食べてから、優香がお会計をしていると唐突にバイトは募集しているか? と訊かれた。
優香はその容姿の事もあってバイトに入りたいと言う者の対応は慣れていた、そして今回もその類だろうと思ったが、どうしてか、優香は思っている事とは裏腹に青年を採用してしまった。
後日、青年の初のバイト日にて、優香は気付いた、髪を上げた姿の青年、翔也の、その特徴的な綺麗な瞳を見て...『あぁ、彼が私を助けてくれたあの時の少年なんだっ!!』と、優香は嬉しかった、嬉しかったがそれよりも思った事があった。
『この思いは、この想いは、いつか告白の時に一緒に伝えよう』と、そう思ったのだ、そんな事があって、優香は2度に渡って翔也への重い想いを蓄積し続けたのだ。
優香という哀しき怪物は、生まれるべくして生まれたという事なのだろう。
これまでの翔也との思い出を振り払い優香は一言呟いた。
「えへへっ!」
呟いた……のだろうか?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次回「美少女達の心中-3」
ちゃんといつか修正します。
次回はこの2人です。
霧空アリサ
霧島梓
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