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02,空
しおりを挟む「"女"のお前が良い身分だな」
ハワードは、唯一の女性軍人であるアサに皮肉を込めて言った。彼は短いブロンドヘアに青い瞳を持ち、見た目は爽やかだが、内には過激な思想を抱えている。特に女性に対しては強い敵意を示し、男尊女卑が強い"地球"では、女性へのこの態度が当たり前であった。
「私はここにいろと言わ……」
「そんなこと関係ねえんだよ。この敷地内にいるだけで反吐が出る!」
そう言うや否や、ハワードはアサに殴りかかってきた。しかし、アサはその攻撃を軽々とかわし、ハワードの拳を握って後ろにひねり上げた。
「隊員同士の戦闘は規約違反だ。それに、あなたでは私に勝てない」
苦しむハワードにアサは冷静に言った。必死で反撃しようとするが全く歯がたたない。
「はっ、"女"のくせに力なんていらねえのにな。お前らは黙って男の下で鳴いてれば良いんだよ」
「そこまでだ」
間に入ったのはアサと同期のユキヒラだ。
「アルバート少佐に報告した。もうすぐここに来るぞ」
ユキヒラの言葉に、ハワードは焦りを隠せない。
「少佐だって"俺側"だ。お前らと違ってな!」
「少佐にお前の私情は関係ない。迷惑をかけさせるな」
ユキヒラの正論に、ハワードは居心地の悪さを感じ、舌打ちをしながらアサの腕を振り払ってその場を立ち去った。
「なんてねっ、嘘に決まってるだろ。アサ、ごめんね。遅くなって」
さっきの強い口調から一転、優しくアサに話しかけるユキヒラ。普段は今のように優しい青年である。シルバーのボブヘアと黄金色の瞳が特徴的だ。アサにとって心を許せる相手の1人であった。
「気にしないで。それにいつもユキヒラやモーリスに助けられてる。"女"である私に優しくしてくれてありがとう」
アサは感謝の気持ちを込めて答えた。モーリスはアサやユキヒラのもう一人の同期で、3人は入隊当初から性別に囚われず仲良くしていた。アサにとって、彼らは地獄のような環境の中で唯一の安らぎだ。
「大変だ2人とも!アルバート少佐が本当に来る!」
突然、モーリスが勢いよく駆け込んできた。なんでも、少佐が隊員同士の戦闘を聞きつけて本当に来てしまうと言う。逃げ出そうと考える間もなく、少佐は現れた。
「お前たち、何をしている」
「……はっ!ハワードがアサに対し戦闘行動を取ったために仲裁に入りました!」
アルバート少佐が口を開くと、3人はすぐに敬礼をし、代表してモーリスが答えた。軍内では上下関係が絶対であり、それに則っての行動であった。アサたちが所属する基地では、アルバート少佐の権力は絶大であり、面倒事を起こすことは許されない。
「またお前か、アサ」
「申し訳ございません」
アサが謝罪すると、少佐は冷酷に続けた。
「貴様がここにいられるのは、"あの日"お前を軍が保護したからだ。なのに感謝もせず、騒ぎを起こし、目障り以外の何ものでもない」
『家畜が。』
3人にしっかり聞こえていた最後の一言。
友人であるアサへの侮辱に、ユキヒラとモーリスは怒りで拳を握りしめる。しかし、少佐に逆らうことはできず、ただ黙って息を呑むしかなかった。
一方アサにとってこの扱いは当たり前のことで、変わることのない日常である。隣にいる2人がおかしいとさえ感じる。"家畜"と揶揄される女を自分達と同等に扱ってくれる。
隣にいる二人が自分を同等に扱ってくれることだけが、アサにとっての唯一の救いであった。
この世界は地獄だと"あの日"知ってから、世界に期待などしなくなった。正確には出来なくなった。
地獄だと自分に言い聞かせるしか出来ない日常に、アサは虚無感を抱いていた。
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