触手の魔女 ‐Tentacle witch‐

塩麹絢乃

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第三章

2.大魔法祭 その⑦:確認

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 の剣術やら槍術やらの試合が終わり、大魔法祭フェストゥムは花形の魔法部門へと移行した。それに伴い、観覧席にも貴賓の姿が増えてきている。

 眼下に見える円形フィールドも、すっかり様変わりしている。試合場は片付けられ、代わりに的が一定間隔で点々と置かれていた。

 現在の種目は火力演舞。その名の通りに一発の魔法に込めた火力を競う部門。クレプスクルム魔法女学院の中等部からはグィネヴィアが代表選手として出場している。

 これはつまり、グィネヴィアの側にピッタリくっついて離れないに接触するには絶好の機会チャンスだということ。私は目的の人物を見つけ、その隣に不自然にポッカリと空いた席に座った。

 すると、向こうが先に切り出してきた。

「美しい戦いだったわ」
「それ皮肉?」
「本音よ」

 全く、とんだ失態だった。最近は割と衣服の耐久度も管理できていたのだが、今回の大魔法祭フェストゥムは色々とイレギュラーなことがあり過ぎて、着替えのことが頭から抜け落ちていた。試合前に格好つけてる場合じゃなかった。

(あー、今すぐ過去に戻って飯なんか食ってないで着替えろと自分に伝えたいわ)

 しかし、後悔先に立たずである。ファラフナーズのおかげで本当にヤバいところまでは晒さずに済んだのだから、ここは切り替えていこう。

「……貴方の裸を見るのはこれで二度目ね。いえ、正確には、かしら」
「お目汚し失礼しました。よろしければ、その汚れてしまった両眼をぬぐって差し上げましょうか? このハンカチで、裏側までしっかり」
「遠慮しておくわ」

 私たちはくすくすと笑いあった。

「王様との話はもう良いの?」
「ええ、お褒めの言葉を授かって、それで終わりよ」
「命をかけた割には、安い報酬ね」

 その時、袖からにゅっと触手が伸びてきた。

「全くだ。とんでもない馬鹿野郎だよ、コイツァ!」
「ちょっと、マネは黙ってなさいって、他の人もいるのに……」
「聞こえやしねえよ!」

 その時、ドンという一際大きな音がした後、観客席にどよめきが起こった。グィネヴィアが的に対して放った魔法がドデカイ氷塊を生み出したのだ。成程、確かに私たちの会話なんて聞こえていないだろう。

 それにしてもなんて威力だ。

「凄いわね、グィネヴィアは」
「うん、今も日増しに魔力量が増えてるんだって。私程度では『多い』ってぐらいしか分かんないんだけどね」
「ふふっ……見なさいよ、他の代表選手の引きつった顔を。高等部の方に出ても優勝してたんじゃない?」

 グィネヴィアの魔力量は異常な速度で成長し続けている。もう、単純な一発の火力だけならば大人の魔法使いウィザードをも凌ぐほどではないか。

(――でも、戦えば次も絶対に私が勝つ)

 人知れず対抗心を燃やしていると、レイラがぼうっと試合場の方を眺めながらぞんざいに話す。

「勘違いされないように言っとくけど、やったのは私ら諸侯派じゃないからね。ましてや、民宗派でもない。そういう動きは今のところ耳に入ってないから。やったのは王党派内のリンをよく思ってない奴か、例の……『寄合エクレシア』とかいうのじゃないの?」
「そう……」

 フェイナーン伯の一件以来、グィネヴィアとレイラにはずっと国教会のマークが付いている。一応、『潔白』と判断されているようだが、実際のところ、レイラはどこからか民宗派の動きを察知している節がある。確たる証拠はないが。

 そのレイラが「ない」というのだからないのだ。嘘を付かれていても、誰も分からないのでそのまま受け取るしかない。もちろん、疑念は常に念頭に置いておく。

「じゃあ、そういうことにしとくわ。別にアンタらを疑ってる訳じゃないのよ。ただ、こういうのって黙っておくより素直に聞いた方が却って関係性がスッキリするじゃない? だから、儀礼的に確認に来ただけ」
「――なら、さっさと帰って」

 ざわっと辺りに動揺が広がる。ゆっくりと声の方へ視線を向けると、さっきまで試合場にいたグィネヴィアがいつのまにか私の眼前に立っていた。

「ジェ、ジェニーちゃん……」

 レイラもすっかり女優モードだ。その切り替えの早さにはいつ見ても舌を巻く。

 グィネヴィアは乱暴に足を突き出し、私とレイラの間に突き入れた。さながら、レイラを守るように、或いは危険物から隔離するように。

「そこは私の席」

 ダラリと垂れ下がった腕の先で、白い布を巻きつけられた大杖が怪しく揺れる。これ以上刺激して、怒った彼女に氷の彫像にされては堪ったものじゃない

「はいはい。おじゃま虫は退散しますよ。それじゃあね。次は――折節実習エクストラ・クルリクルムとかで会いましょ?」

 無言のグィネヴィアに睨まれながら、私はそそくさと退散した。
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