少女漫画のヒロインに転生した男子高校生は恋愛フラグをへし折りたい

よこすかなみ

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第4章 女らしくないやつ

共闘

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「おい、起きろ」
 頬に軽い刺激を受けて目を開ける。
 スキンヘッドの不良が、俺の顔を覗き込んでいた。

「……ここは……」

 首を動かして周りを伺う。
 まだ春の日暮れ前だっていうのに、薄暗い空間。
 積み上げられた鉄骨や無造作に並んだ鉄パイプ、やたら大きいタイヤ。
 そのすべてが埃まみれだ。

 ここは、廃工場か?

 不良漫画の喧嘩シーンではよく目にしたが、実際に来たのは初めてだな。

 不良、と形容するに相応しい見た目の男子高校生たちが五人以上、どころか、三十人ほどたむろしていた。
 その中心に暗闇で映える赤髪。

「鬼塚!」

 鬼塚はまだ無傷だ。
 大勢に囲まれてるっていうのに、睨みをきかせている。
 すげぇ度胸だ。

 俺はしゃがみ込んだまま、動けなかった。
 後ろ手に縛られていたから。
 ご丁寧に、足もだ。

 気絶していた俺を起こしたスキンヘッドは、転がっていた鉄パイプを拾い、その先端を鬼塚の顔面に向けた。

「今から、鬼塚の女の前で、鬼塚をリンチしまぁーす!」
「いえぇぇぇい!!」

 スキンヘッドの高らかな宣言に盛り上がる不良たち。
 男たちの低音ボイスによる歓声に乗って、鬼塚は三人がかりで羽交い締めにされた。
 これで長い手足は自由に動かない。

 動けたとしてもこの人数。
 多勢に無勢もいいところだ。

「……テメェら、何がしてぇんだ」

 鬼塚は無抵抗で拘束を受け入れ、静かにスキンヘッドに問いかける。
 スキンヘッドは下品な笑いを浮かべ、鉄パイプを振りかぶった。

「裏切り者には、裁きが下るもんだろうがよぉ!」

 俺は思わず顔を逸らして、ぎゅっと目を瞑る。

 ──ゴッ!!

 硬い金属が肉にぶつかる鈍い音。廃倉庫に響き渡った。

「なっ……!?」
「なにぃ!?」

 しかし、クリティカルヒットした音とは裏腹に、鬼塚と不良たちの驚く声があちこちから上がっていた。

「…………?」

 何事かと、俺は覚悟を決めて目を開ける。

 唖然とした鬼塚が、ぱくぱくと口を開閉させていた。
「…………なんで、お前がここにいる……」
 スキンヘッドの前に立ち、鉄パイプを腕で受け止めていたのは──

「伊集院!!」

 サラリとしたアクアブルーの髪、オシャレな眼鏡、きちんと着こなした制服。
 伊集院が、鉄パイプから鬼塚を守っていた。

「野暮なこと聞くなよ。生徒を守るのが、生徒会長の仕事だろ」

 それは俺がお前らと初めて会ったときに、伊集院が鬼塚に言っていたセリフ。
 鬼塚が守られる側になる日が来るなんて。

「何なんだ、テメェは!? 邪魔すんじゃねぇぇぇ!!」

 スキンヘッドが再び鉄パイプを振り上げるより早く、伊集院はその長い足で鉄パイプを蹴り上げた。
 それはスキンヘッドの手を離れ、カランカランと虚しく床を這う。

「なんだと!?」

 スキンヘッドが驚いた隙に、体勢を低くした伊集院が彼の懐に潜り込み、鳩尾に一発決める。
「がはっ!!」
 スキンヘッドは、胃液を吐いて二、三歩後ろによろけた。

 こいつ、頭が良い上に喧嘩も強いのか!?
 神に二物を与えられてんなぁ!?

「ぐあっ!?」
「おぐぅっ!!」

 また別方向から、複数の呻き声が聞こえてきた。

 イレギュラーな事態に不良たちの注意が向いた一瞬、鬼塚も己を拘束する不良たちを殴り飛ばしていたのだ。

「早乙女、大丈夫か? 動けるんだろうな?」

 伊集院が俺の手足のロープを解いてくれる。
 俺は自由になった手足をぐるぐる回した。
 縛られていた以外はなんともない。
 公園で食らった腹パンが、少しだけ鈍痛を残しているくらいだ。

「いいか? 俺と鬼塚で時間を稼ぐから、早乙女はできるだけ遠くに逃げて警察を呼ぶんだ」
 伊集院が冷静な指示を飛ばすが、俺はそれを拒否した。

「お前らを放って逃げるわけねぇだろ!」
「はぁ!?」
 間抜け面の伊集院はレアだろうな、と関係ないことを思った。

「馬鹿なのか、お前は!」
「馬鹿じゃない!」
 こうしているうちにも、鬼塚はたった一人で戦っている。

 多方向から襲いかかってくる集団に、鬼塚は絶えず応戦していたが、そのうち無理が来るだろう。

 などと思案しているうちに、金属バットを持った不良の一人が鬼塚の背後を取った。
「鬼塚ぁ! 危ねぇ!」
「!?」

 俺はその不良に渾身の体当たりをかます。
 女子高生の軽い体重でも、助走をつけたおかげで俺は不良もろとも地面に倒れ伏した。

「早乙女!? お前、馬鹿! 早く逃げろ!」

 ピンチを救ったというのに、感謝どころか、鬼塚にも伊集院と同じように罵倒される始末。

「馬鹿はお前らだ! 俺も一緒に戦う!!」

 伊集院と鬼塚に言い放って、体当たりした不良から金属バットを奪い取る。
 俺はそれを振り回しながら、不良の大群に飛び込んで行った。

「女でも容赦しねぇぞぉ! やっちまえぇぇぇ!!」
「うおおおおおぉぉぉぉ!!!」

 三人対、約三十人。
 乱闘が始まった。


 ***


 迫り来る不良を殴り倒しても、またすぐに次の不良が襲いかかってくる。
 殴っても蹴っても、埒が明かない。

 伊集院は相手の急所を狙いつつ、己はダメージが少ない部位を殴らせている。
 頭の回転が早い伊集院らしい、コスパの良い戦い方だ。

 ──それでも、数が多すぎる。

「はぁっ、はぁっ」

 慣れない乱闘に息切れしている伊集院の背中に、鬼塚が背中合わせになった。

「おい、生徒会長様は喧嘩慣れしてねぇんじゃねぇか? オラァ!」
「うるさいっ」

 喋りながら、互いの背中を守る。
 息のあったコンビネーションは、まるで親友時代の二人のようだ。

「……お前、俺のこと許してないんじゃねぇのかよ」
 ボソリ、と。

 鬼塚が伊集院にしか聞こえない声で囁いた。
「……父さんを、問い詰めた」
「……!」

 生まれてから今まで、伊集院が親の言いつけを律儀に守ってきたことを、鬼塚は知っている。
 だからこそ、彼は伊集院に真実を告げなかったのだ。
 彼が信じている父親が、鬼塚を、親友を否定し拒否したという真実を。
 その伊集院が、親を疑ったと言う。

「お前……」
「……今まで、悪かった」

 謝った。
 鬼塚に対しては、一層高いプライドを保っていた伊集院が。

 鬼塚は信じられないようなものを見る目で伊集院を見た。
 伊集院は目こそ合わせないが、その視線に応えるように喋り続ける。

「早乙女が教えてくれたんだ、あの日のことは誤解なんだって……。最初は、それでも、お前が許せなかった」
「…………」

 二人は喧嘩を続けながらも、会話を止めない。
「だから、自分で真実を確かめることにした。あの日のことを、父さんとちゃんと話した」
「……それで?」

「父さんがあんまりに理不尽で笑ったよ。鬼塚は何も悪くなかった。許してくれ、なんて言えないけど、たとえ僕の自己満でも、謝らせてくれ」
「……ふんっ」

 腰の低い伊集院に対し、鬼塚は鼻で笑った。
 伊集院はそれを拒絶と捉え、「やっぱり都合が良すぎるな」と自嘲するが、鬼塚は二の句を継いだ。

「許すもなにも、もともと怒ってねぇけどな」
「……!」

 伊集院が鬼塚の顔を見ると、笑っていた。
 二人で鬼塚家の広大な庭を駆け回っていたあの頃と、同じ笑顔だった。

「……まぁ、結局、全部あいつのお陰ってことか」
「……うん、そうなるな」

 伊集院と鬼塚は、半数ほどに減った不良たちの隙間から、ピンク髪の活発すぎる少女を見やる。
 金属バットという武器を手にした早乙女は、不良たちと同等に渡り合っていた。

「うおおぉぉぉりゃあああぁぁぁ!!!」

 女子高生らしからぬ、気合いの入った雄叫びをあげて。
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