双子の兄が幽霊になりまして。

よこすかなみ

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 二学期の期末テスト一週間前からは全ての部活動が休みになる。
 期末テスト一週間前期間に入る直前の土曜日に、うちのグラウンドで練習試合が行われることになっていた。
 その朝、グラウンドに部員が集められた。
 監督からスターティングメンバーが発表され──オレは、一年生で初めてスタメン入りを果たした。
 これで空が成仏できる。
『やったね、陸。試合、見てるよ』
 空も喜んで拍手している。その姿は、以前より透けて見える。
 よっしゃ、と叫びたい気持ちと、まさか、と驚く気持ちが入り混ざる──その中に混じる、二年生や他の一年生に申し訳ないという気持ち。
 一年のオレがスタメンに入って、スタメン入りできなかった二年生に恨まれてないだろうか?
 他の一年は? 唯一スタメン入りしたのがオレで納得しているのだろうか?
 ──誰かに、嫌われたりしていないか?
 スタメン発表後、しばらく経っても落ち着かないまま、対戦校が来るのを待っていた。
「どうした、変な顔して」
 ベンチに座っていると、水筒片手の三咲先輩に声をかけられ、ハッと我に返る。
「いや、なんか……スタメン入りしたのが、信じられなくて……。いや、目指してはいたんですけど」
「そうか?」
 三咲先輩は不思議そうな顔をした。
「最近は、お前が部員の中で一番頑張ってたから、選ばれて当然だろ」
「え?」
「え?」
 びっくりするオレを見て、三咲先輩もびっくりしていた。
「お前が部活のあと自主練してるの、みんな知ってるぞ。お前に感化されて、何人か自主練するやつも増えたし、監督も感心してた」
「そ、そうなんですか……」
 こっそり練習していたわけじゃないけれど、人に見られたくて、褒められたくてやっていたわけでもないから、何だか嬉しいような恥ずかしいような複雑な気分だ。
「……まさか、気づいてなかったのか?」
 その通りです。
 三咲先輩は、はは、と小さく笑った。
「お前、変わったもん」
「オレが?」
 空ではなく?
 言いかけたが、幽霊が見えない三咲先輩は空のことを知るはずがない。
 三咲先輩はうなずいてから、持っていた水筒から水を飲んだ。
「自主練するからって言って、面倒そうな頼み事はちゃんと断るようになってただろ。自分でやれよって思うような頼み事もあったから、断ってるの聞いて、俺がちょっとスッキリしたこともあった」
 そうだったかな……?
 自分ではあまり意識していないから、わからない。
「まぁ、とにかく、お前のスタメン入りにみんな納得してるってことだ。自信持って行けよ」
 三咲先輩に、ばしん、と背中を叩かれて、背筋が伸びる。
「はい!」
 その後、相手校が到着して、アップを済ませると、すぐに試合が始まった。
 三咲先輩に後押しもされて、監督からも期待されて。
 スタメンでは唯一の一年生。
 やってやるぞ……!
 意気込んで試合は始まったものの、開始直後は、緊張して体が思うように動かない。
 アップはちゃんと済ませているのに……!
 体はあったまっているのに、上手いこと活躍ができなくて、もどかしい。
 パスは通らないし、ドリブルも相手にカットされる。
 息が無駄にあがっていく。時間が過ぎていく。
 くそ……!
 こんなはずじゃ……!

『陸、落ち着いて』

 走り続けるオレの耳に、空の声が届いた。
 声のほうを反射的に見ると、すぐとなりで、さっきよりも透明に近づいている空が、穏やかに微笑んでいた。
『周り、見えてる? 先輩たちはどこにいる? パスはどこが通りそう?』
「え、えっと……」
『大丈夫、陸ならできるよ。そういうの、得意でしょ?』
 空はそう言って、オレのそばから離れていった。
 ……そうだ、落ち着こう。
 ちょうどボールがフィールドを出たため、一瞬試合が止まる。
 オレは立ち止まって、ふぅーと息を吐いた。
 周りを見ろ。
 先輩たちはどこにいる?
 相手のマークから外れている人は誰だ?
 うちのチームのスローインで試合が再開され、ボールが相手ゴール近くまで運ばれて行った。三咲先輩にボールが渡り、相手ゴール前まで来る。
 得点できる最大のチャンスがやってきた……!
 三咲先輩はどうにかシュートできないか、視線を巡らせていた。
 でも、このままシュートしても、おそらく、ゴールキーパーどころか、ディフェンスにカットされてしまう!
 ──オレが横から走り込めば、相手の隙をつけるかもしれない!
「三咲先輩!!」
「早川!」
 三咲先輩はオレの呼びかけに気づいて、パスしてくれた。
 三咲先輩からパスされたボールの勢いをそのままに、ゴールに向かって蹴り飛ばした。
 ──ザシュッ!
 サッカーボールが、相手ゴールのネットを揺らす。
「おっしゃああぁぁぁ!」
 両手でガッツポーズをするオレに、チームメイトたちが駆け寄って来た。。
「早川ナイスゥー!」
「やるじゃんかよ、おい!」
 先輩たちが頭をわしゃわしゃしたり、背中をバンバン叩いたりしてくる。ベンチからも、同じ一年たちが、オレの名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
 オレの初スタメン、初ゴールをみんなが喜んでくれている……。
 はぁ、はぁ、と息が切らしながら、オレはその光景をぼんやりと見ていた。
「やったな」
 三咲先輩がハイタッチを求めてきた。
「はい!」
 パチン!
 オレがそれに応じて勢いよく手を合わせる。
「言っただろ。お前の頑張りを、みんな認めてるんだよ」
 三咲先輩はそう言い残して、自分のポジションに戻っていった。
「三咲先輩……」
 ……オレ、頑張っても、いいのかな。
 もう、ピエロにならなくても──馬鹿なフリしなくても、いいのかな……。
 胸の奥のほうが、じんわりと温かくなるのを感じて、オレはユニフォームをぎゅっと握りしめた。
『さすが、ぼくの自慢の弟だね』
 いつの間にか、空が近くまでやってきていた。
 その姿は、もうほぼ透明になってしまっている。
「空……!」
『陸は、馬鹿なフリなんてしなくても、もう大丈夫だよ』
 空が真っ直ぐにオレを見て言った。
 ──お前がそう言うなら、きっとそうなんだろう。
「……うん、ありがとう──兄さん」
 空はうなずく。オレも空も笑っていた。
 そして──空は、見えなくなった。
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