孤独な俺が本当の幸せを得るまでの話

琳華

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「痛っ」

くそ!あいつらめちゃくちゃに殴りやがって

俺は殴られて腫れている自分の腹を優しくさする

なんで俺がこんな目に遭わなければならないんだ....



俺の名前はリオ 11歳

突然だが俺には前世の記憶がある
記憶が芽生えたのは7歳のときで、殴られた衝撃で思い出した
前世では普通のサラリーマンで裕福ではなかったが、家族もいたし、それなりに幸せにやっていた
記憶には前世の知識や経験したことなどもあり、見た目は子供だが中身は大人といってもいいだろう
だから俺は今の状況に苛立ちしかない

俺は今世で実の家族から暴力を受けている
目覚めたときはその時の状況にものすごく混乱したが、今はこの状況から抜けるため、閉じ込められている部屋にある本や話し声を盗み聞きして情報を集めている

集めた情報から分かったのだが、どうやら俺がこんな状況に置かれている原因はこの黒い髪と黒い目、そして俺が魔法を使えない体質のせいのようだ
俺が生まれた国アルカナシアでは、黒髪と黒い目をもつ者は悪魔の生まれ変わりだとして昔から虐殺が行われてきた
しかも魔法が使えないものに人権はなく、多くの者が小さい頃に見捨てられ人知れず死んでいったらしい

じゃあなぜその両方をもつ俺がまだ生きているのか
それは俺に利用価値があるからだ
俺は魔法陣を描くことができる
普通、魔法を使うときは自分が生まれつき持っているマナの力を消費して生活魔法を使ったり攻撃をしたりする
だが魔法陣を使うとマナの消費を抑えられることに加え、強力な魔法を打ち出すことができるようになるのだ
そのため冒険者や国のおえらいさん方は喉から手が出るほどほしいのだが魔法陣を書くことができるのはこの世界に両手に収まるほどしかいないためとても高価で貴族でもそう簡単に手を出すことができないそうだ

俺が魔法陣が描けると気づいたのは5歳ごろのことで、たまたま部屋にあった本の絵を見様見真似で描いていると突然光りだして魔法陣ができてしまったのだ
それを見た父様たちは俺が金稼ぎに使えると考え、今では俺の役割は父様たちのサンドバッグ兼魔法陣を描く道具になった
普通であれば魔法陣を描くのには大量の魔法が必要なのだが俺の場合は体力が削られてしまうので一日に3枚が限界だった

そんなこんなで俺は今も生きられている
だが十分な食事など取らせてもらえるわけもなく俺の体は5歳の子供くらい小さく、骨が浮き出ているところもある

正直、こんなところから早く逃げたい
だが俺の部屋は離れの塔の高いところにあり、窓には鉄格子がはめられ、ドアの外には見張りがいる
だから俺はしょうがなく逃げる計画を立てながら暴力に耐える日常を送っていた

そんな俺にも一度だけ外に出たことがある
それは8歳のときに王が代替わりすることになったときだ
このときは貴族全員に招待状が送られてきて俺の分もあったのだ
俺は髪と目の色を魔法で変えられ、無理やり連れて行かれた
儀式のときも両側には父様たちがいて見張っていたので逃げられはしなかったが外の世界を知れただけでもとても嬉しかった

そういえばあの時、なんか無駄にキラキラしてるイケメンの子供に出会ったなぁ
父様たちが王に挨拶に行っているとき俺は同い年ぐらいのイケメンに声をかけられたのだ
相手はギルバードと名乗っていて俺が女の子だと思って声をかけたらしかった

まぁ、俺は顔だけは中性的で可愛いと思う
こんな性格だけど...


助けを求めようとも思ったが他人を巻き込みたくなくて無視してその場を立ち去った
その後は父様たちと屋敷に帰ってきて、部屋に戻され、少し殴られてから眠った

現在も変わらず父様たちは定期的に来ては、俺に罵声を浴びせながら殴る蹴るを繰り返し、魔法陣を無理やり描かせてくる

限界が近いかもしれない
昔は父様たちに怒りを感じていたが最近は何も感じなくなってきている
死んだほうが楽になるかもなんて考えている

こうなってしまった理由は姉の存在だった
俺には一つ上にアナスタシアという姉がいる
小さかった頃は少しは心配をしてくれていたと思う
だが最近は父様たちより過激なことをしてくるようになってしまった
アナスタシアは頻繁に外の世界であったことや買ったものを自慢しに来ては最後に俺を殴って満足そうに帰っていく
あいつは暴力に快感を得るタイプのやばいやつで過激さも日に日に増している

正直一番会いたくない....

なんて考えていると....

ガチャ

来ちゃうんだよね~

「リオ!今日イサンダールの王子様に声をかけられたの!きれいだって!もしかしたら婚約を結べるかもしれないわ!もし私が王子様と結婚したらお前のことはすぐにどっかの変態に売ってあげるわ!お前なんてどうせ魔法陣を描けるだけの価値しかないもの!」

アナスタシアが大声で話しながら嬉しそうに入ってきた

もう最悪....
ていうかイサンダールって言った?
たしかイサンダールってここの東側に位置する隣国でとても裕福な国だったような
アルカナシアは決して貧しい国ではないがイサンダールとは雲泥の差なので、国のトップたちは友好的な関係を結ぼうと奮闘していると聞いたことがある

というかイサンダールの王子の目、悪すぎなんじゃないか?
こいつがきれい?
こんな化粧厚すぎる女のどこがいいんだよ!
てかイサンダールの王子ってかっこいいのかな?

「ねぇ、聞いているの?」

アナスタシアが聞いてくるが、俺は王子の見た目の妄想で無視してしまった。

「そういえば最近お前生意気よね。面白くないわ.....あっ!そうだわ!」

アナスタシアは何かを思いついたのか、懐から液体の入った小さな瓶を取り出した。

「ふふっ これなにか分かる?」

俺が首を振ると、

「これはね、ある花から採れる猛毒なの!肌に触れただけで死にたくなるような痛みが体中に広がるんだって!」

猛毒!?
誰だよ!そんなもんこいつに渡したやつ!
てかそんなの何に使うんだよ.........まさか!

俺の体温が急降下する

「ふふっ 分かっちゃった?心配しなくても大丈夫よ 死にはしない量だから!」

俺は恐怖からその場を逃げ出した
だが狭い部屋の中に逃げるところなどなく、すぐに捕まってしまった

「逃げても無駄なの さぁ、大人しくしなさい!」

かはっ....

アナスタシアに首を掴まれ、床に倒される
俺は苦しさと恐怖で体が動かなくなった
アナスタシアが瓶の蓋を開け、こちらに傾ける

「いや......だ はな...せ!」

俺はすべての力を使ってもがくが、アナスタシアの力には到底及ばなかった
瓶の中から紫色の液体が一滴、俺のお腹に落ちる

その瞬間、液体が落ちた場所が燃えるように痛くなった

「あ゛ぁあ゛ぁあ゛あ゛!!!」

俺は痛みのあまり腹を抱え転げ回った

痛い痛い痛い痛い!!

火であぶられながら剣で刺されているような痛みが徐々に体中に回ってくる
俺は痛みのあまり暴れることしかできなくなり、目や口から涙とよだれが絶え間なく流れ続ける
そんな俺の様子を見ているアナスタシアは爆笑していた

「きゃははは!!!最高に面白いわ! ほら、もっと苦しみなさい!」

アナスタシアが俺の背中を思いっきり蹴る

「グハッ.... もう...いや...だ... あ゛ぁあ゛あ゛!!」

蹴られたところがものすごく痛くなり意識がもうろうとしてくる

あぁ....もう死ぬのかな...
死んだほうが楽になれるかな....
なんで神様は俺をこんなに苦しめるんだろう.....

俺はそのまま意識を失った

何時間経ったか分からないが、目を開けるとあたりは真っ暗だった
俺は床に寝ていて体中にまだ痛みとしびれが残っているが動けないほどではなかった
部屋は俺が暴れたことによってめちゃくちゃになっていた
俺は床からゆっくりと起き上がり、藁を敷いただけのベッドもどきに座る

「はぁ~ 今回はやばかった 本当に死ぬかと思った」

俺は服をめくって毒が垂れた腹の部分を見てみると、、皮膚がただれ、血が滲んでいた

「まじで!?服の上からかかったのにこの威力ってめっちゃやばいじゃん」

普通ならもっと慌てるのだが、あの痛みのせいで俺の心は粉々に壊れていた
突然笑いがこみ上げてくる

「ははは なんか全部どうでもいい気がしてきた もう死にたい」

自分のこれまでの人生を考えると涙がこみ上げてくる
俺は涙を流しながらふらっと立ち上がるとドアの前に立ちドアノブを掴んで、ひねる
ドアは鍵がかかっていなかったのかスッと開き俺は外に出る
いつもいるはずの見張りもいなかったので俺はふらふらと、おぼつかない足取りで階段を一段一段降りていく

外に出ると冷たい空気が俺の肌を刺していく
俺はかまわず月の光を頼りにあてもなくただただ遠くをめざして歩き続けた

どこか静かに死ねるところはないかな....
あいつらに見つからない場所....

俺は森の深いところまで歩き続けた
周りからは動物の唸り声や走る音が聞こえるがそんなことかまわなかった
すると突然まわりが明るくなり、顔をあげるとそこには湖が広がっていて月の光を反射してキラキラ輝いていた

「わぁ きれい」

俺は湖の畔まで歩いていき、そっと水に触れる
水はとても冷たく、まるで俺の人生の温度のようでまた涙が出てきてしまった

「ここでいいか....」

俺はそばにある木によりかかるようにして座る
寒い中薄手のまま歩いたので全身の感覚はとうになくなっていた

あぁ やっと静かに死ねる....

俺はゆっくりと目を閉じる

「つぎ...は...しあ...わせに.....な..り....た...い.....なぁ.......。」
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