腹の内を探る【人狼ゲーム×ブロマンス寄りBL】

巣わに

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本文

脚本 1

 本来ならば疑問符がつくであろう台詞は、起伏のない韻律をしていた。棘も焦燥も感じさせない真白の男の発語に、胸元をかすかに引っ掻かれるような落ち着かなさを覚える。

 ヴィンセントの返事を待って狼探しの議論が止まる。
 ソワレを迎えるためのやり取りは、十七時半の始まりから間断なく続いていた。張り詰めた空気が演者たちを縛り付ける。緊迫感から逃れるべく瞼を閉じてみようとも、秒刻みに迫る死の実感が、緊張を解くことを許してはくれない。

 そんな状況下、村人達の舌戦にわずかの間ができた。今、俺は反論の必要に迫られていない。疑惑を晴らすべく画策しているわけでもない。正しく、呼吸をすることのできる間。

 しかし。広間の酸素を吸った俺の頭は、一日足らずで異常な舞台に染まってしまったらしい。
 ようやく生まれたその空白を埋めるため、望まぬ思考を溢れさせる。

 白の男は言った。四人の中から、各々が好きに票を投じる。
 要は多数決だ。最多表を得た者は今晩の人柱となる。シンプルな決まり事。
 残り時間が無くなった後、俺にはい一体くつの票が入れられるのだろう。己を差した人差し指の本数を数える、その瞬間を想像して総毛立つ。
 もしも、最多だったとしたら。

 きちんと席に着いているのに、足の付け根が震え出す。支えになるはずの肘掛けを掴むが、触覚が狂っているのか手当たりを感じなかった。おかしな体感に焦りが募って、大して溜まっていない唾を飲み込む。息苦しさは消えなかった。

 ヴィンセントはまだ喋らない。
 蓄積する不安を少しでも紛らわせたかった。皆は誰の挙動を探っているのか、誰が怪しく見えているのか。場の様子を確かめようと周囲を見回す。表情の下、内心でなにを考えているのかなど、分かるはずがないのに。

 白の男は事態を静観している。ヴィンセントを見つめる彼の横顔には、まるで劇の開場を待つ観客のような厳かさが漂っていた。いや、動向への期待を感じさせない面持ちは、むしろ脚本を把握している演出者が近いかもしれない。

 彼の右手側、横並びの二つ分は空席だ。座する人間がいないため、背面に張られた革の光沢がくっきりと映る。昨夜ゆうべまでケイトとアシュクが腰掛けていたその椅子。想起は際限なく膨らむ。栗毛色と赤褐色。広間の冷えた空気と、閉じた部屋の鉄錆に似た匂い。

 視線を逸らす。そのまま右隣のジゼルを見やる。彼女は、俺への嫌悪を言い残して以降口を噤み続けていた。ヴィンセントに反論していたせいで彼女を窺う隙はなかったが、ジゼルの態度に特筆すべきことはない。あの時の、感情の末端が表出したような顔つきは消えている。じっと、ヴィンセントを見ていた。

「屑の狼どもは」

 低声が鼓膜を弾く。考えるより前、振り向いた卓の対岸で、顔を覆い隠したままの彼が立っている。

「人間に擬態してる。あんな悍ましいことしたくせに、なんも知らないふりして、今そこに座ってやがる」

 半端に遮られた唇から、くぐもった声が漏れた。

「ぐちゃぐちゃした地獄みてぇな部屋ん中、全部見ていたくせに、夜に死んだあいつのことを必死に頭から無くそうとしてた」

 表情を覗くことはできない。シャンデリアの直下、最も光の届かない位置にある形相は、果たしてどんな指導を受けた役者のものか。
 ヴィンセントの肩が上下する。深呼吸と失笑のちょうど間のような音で、彼が喉を鳴らした。

「反吐が出る」

 何度目かの沈黙が訪れる。赤い広間に満たされる静けさは、冷えた掌で喉を塞がれるような圧迫感があって、息の吸い方を忘れてしまいそうになる。
 ヴィンセントが頬から首へと指先を滑らせていく。重力の方向に腕が落ちた。肺の中身を吐ききって、彼が面を上げる。

「……だから、村人と人狼の知り得た事が混ざったんだろうな。顔を出さなかったあいつに対してしらを切ってた。寝てた? 寝てたな、クソ最悪。露骨な反応しやがって」

 両方の手が退き、照明の光を邪魔をするものは無くなった。彼の容貌が再び晒される。
 三白眼が動く。瞳孔は紫を帯びたダークグレーをしていた。俺を睨んでいた数分前までとは異なって、彼の眼球は乾ききっているように見える。 
 首が回った。ヴィンセントの影が、彼が覗き込んでいる人間に落ちる。

「なぁ? お前だろ」
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