いとしのあなた

ゆーぞー

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  私の名前はリリア。ウィルにはリィと呼ばれている。私たちは結婚の約束をしている恋人同士らしい。
  らしい、というのは私に記憶がないからだ。

  



  私は遠くの小さな村の出身で、ある日そこが魔物に襲われて壊滅状態になった。

  私は生き延びたが、家族も家も何もかも失った。ウィルは魔物ハンターでその時魔物の征伐に来ていた。ウィルは私を大都市に連れていってくれて、私は宿屋の住み込みで働くことになった。

  ウィルは依頼があればどこにでも出かけて魔物を倒す。依頼のない時は宿屋で私の話し相手になってくれた。

  そうして私たちは恋人同士になった。そのときのことを覚えていないのは、はがゆいが仕方がない。

  私は結婚するために宿屋を辞め、ウィルが見つけた家に引っ越すことにした。今のこの家である。

  ところが移動の途中で魔物に遭遇。私は運悪く襲われてしまった。だが、すぐにウィルが回復魔法で怪我を治してくれた。でも。

私はすべての記憶を失くしてしまっていた。

  

  

  ウィルが話してくれた私の過去。私の話のはずなのに他人の話を聞いているみたいな気がする。ウィルは話しながら悲しそうな、でも少しだけ微笑んでいるみたいな、とにかく複雑な表情をする。

  記憶がないということは、すごく不安定で落ち着かない。ウィルが話してくれる私のことを、私は別の女の人のような感じで聞いている。

  初めて会ったリィは、とても可愛かったよ。
  初めてリィと手を繋いだ時にリィの手が小さくてびっくりしたよ。
  初めてリィが僕に笑いかけてくれた時は、今でも覚えているよ。

  何度も何度もウィルは話してくれる。何も覚えていない私は、苦しい。私が置いてきぼりにされてるみたいで。

  「疲れちゃった?」
 
  ウィルはいつも優しく、私のことを見てくれる。ウィルの黒い瞳を見ると胸が苦しくなってドキドキしてくる。

 「ごめんなさい」
  私はそう言うと涙が溢れる。思い出せないこと。こうやって涙を流してしまうこと。

「謝らなくていいんだよ」
  ウィルは優しく私の髪を撫でてくれる。
「思い出さなくたって問題はないんだから」
  ウィルはまっすぐ私を見つめる。
「リィがいつも僕のところにいてくれることが大切なんだよ」
  ウィルはそう言って私の涙をペロリと舐める。
  ゾクリとした感触がして、私は身体を縮こませる。

「こうして、リィと過ごすことが大事なんだから」
  ウィルはいつも優しい。いつも穏やかに微笑んでくれる。



  「リィ、大丈夫?」
 
 目を開けたらウィルがいた。心配そうだ。あぁ、まただ。

「ごめんなさい」
  
  私はいつもうなされてしまうので、ウィルに起こされるのだ。ウィルの部屋は隣なのに私の声が聞こえると、ウィルはすぐに駆けつけてくれる。

「大丈夫だよ、ほら、おいで」

  ウィルは私を抱きしめてくれる。ウィルの胸に顔を埋め、私はまた涙を流してしまうのだ。

「怖い夢を見たんだね。よしよし」

  ウィルはまた私の頬をペロリと舐める。やっぱり私はゾクリとするので、ウィルにしがみつく。

「僕がいるだろう、大丈夫だから」
  ウィルは優しい。
  
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