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「これは美味しいです」
「このソース、絶品ですわ」
ジョセフ様と2人でお召し上がりください、とセオに言われたが、できれば4人で食べたかった。ジョセフ様と夫婦になることは納得しているが、でもやはり気恥ずかしい思いもする。
私の気持ちがわかっているかは不明だが、ジョセフ様も4人で食事することを提案してくれた。「使用人が一緒に食事なんて!」と、セオとメイリンが必死に首を左右に振り遠慮したが、私は大勢で食事をしたかったので私からもお願いした。そして4人で食事が始まった。
私はいつも1人で食事をしてきた。小さい頃は両親と弟と食事をしたこともあったと思うのだが、いつの頃からか1人で食事をさせられた。弟は両親と一緒に食事をしていたので、何故私は1人で食事をしなければいけないか理由を聞いたと思うが明確な答えは返ってこなかった。
もしかしたらマナーが悪いのかもしれない。そう思って私は鏡を置いて自分を見ながら食事をしたこともある。貴族の娘なのでマナーの先生がうちに来て教えてくれたことがある。その時のことを思い出し、綺麗に見える方法を自分なりに考えた。
取り替えごっこの時は食事がない時もあったし、あっても余り物だった。少ない食事をいかに綺麗に盛り付け、貴族らしく上品に食べるかを私は自分に課していた。貧相な顔立ちをしているのだからせめて上品に見えるように心がけろと、常に両親から言われていたせいもある。
「ここにある調味料だけでこのソースを作られたのですか?」
「あんな短時間でこんなにできるなんて」
一口食べたセオとメイリンに目を大きく見開いて驚かれた。だが私にしたら大したことではなかった。逆に褒められて驚いたが、よく知らない他人だからだと思った。取り替えごっこで何度も食事を作ったが、誰からも褒められることはなかった。褒めるとそこで成長が止まる。褒めるのは親身になっていないからだ。本当にその人のことを考えるのであれば、むやみに褒めないものなのだ。両親や使用人たちにいつもそう言われていたからだ。
食事をしながらふと視線を感じ、見上げるとジョセフ様が私を見ていた。やってしまった。私は俯き、皿を見つめた。多分私のマナーが悪かったせいだろう。気づかないうちに私はひどい食べ方をしていたのだ。
「お嬢様は本当に上品な召し上がり方をされますわ」
メイリンが気がついたのかそうフォローした。そう、フォローされたのだ。悲しくなってしまったが、でも悲しい顔はできない。相手を不快にさせるからだ。だから笑ってメイリンを見た。笑っておけばなんとかなる。
「色々と高貴なお方のお食事を拝見しましたが、お嬢様ほど上品な方は見たことがありませんわ」
「そうです、驚きました。ジョセフ様もそう思われるでしょう」
セオとメイリンが必死に言い繕っている。
「あぁ」
ジョセフ様は小さく呟いた。優しい方である。本当はそんなことを思っていないのだろう。あの言い方は早くこの話を終わらせたいのだ。ふとジョセフ様の皿を見ると空になっていた。
「もう一皿、お持ちしましょうか?」
取り替えごっこでは主人の皿が空になっていたら、使用人から声をかけなくてはならなかった。主人が望むことを先にできなければ使用人とは言えないからである。
「何っ?」
ジョセフ様の声が大きく響き、私は思わず肩がビクッとした。
「私がご用意いたしましょう」
メイリンが立ち上がった。
「すまない、大きな声を出して」
素直にジョセフ様が謝ってくださる。そんなことしなくていいのに。やっぱり優しいいい人だ。
「まだあるとは思わなかったんだ」
少し恥ずかしそうに話すその仕草がなんだか可愛らしく見える。
「このお味付け、ジョセフ様はお好きですよね」
メイリンがお皿をジョセフ様の前に置くと、少しだけだがジョセフ様の目が動いたように見えた。あ、笑ってる。何故だかそう思った。
「このソース、絶品ですわ」
ジョセフ様と2人でお召し上がりください、とセオに言われたが、できれば4人で食べたかった。ジョセフ様と夫婦になることは納得しているが、でもやはり気恥ずかしい思いもする。
私の気持ちがわかっているかは不明だが、ジョセフ様も4人で食事することを提案してくれた。「使用人が一緒に食事なんて!」と、セオとメイリンが必死に首を左右に振り遠慮したが、私は大勢で食事をしたかったので私からもお願いした。そして4人で食事が始まった。
私はいつも1人で食事をしてきた。小さい頃は両親と弟と食事をしたこともあったと思うのだが、いつの頃からか1人で食事をさせられた。弟は両親と一緒に食事をしていたので、何故私は1人で食事をしなければいけないか理由を聞いたと思うが明確な答えは返ってこなかった。
もしかしたらマナーが悪いのかもしれない。そう思って私は鏡を置いて自分を見ながら食事をしたこともある。貴族の娘なのでマナーの先生がうちに来て教えてくれたことがある。その時のことを思い出し、綺麗に見える方法を自分なりに考えた。
取り替えごっこの時は食事がない時もあったし、あっても余り物だった。少ない食事をいかに綺麗に盛り付け、貴族らしく上品に食べるかを私は自分に課していた。貧相な顔立ちをしているのだからせめて上品に見えるように心がけろと、常に両親から言われていたせいもある。
「ここにある調味料だけでこのソースを作られたのですか?」
「あんな短時間でこんなにできるなんて」
一口食べたセオとメイリンに目を大きく見開いて驚かれた。だが私にしたら大したことではなかった。逆に褒められて驚いたが、よく知らない他人だからだと思った。取り替えごっこで何度も食事を作ったが、誰からも褒められることはなかった。褒めるとそこで成長が止まる。褒めるのは親身になっていないからだ。本当にその人のことを考えるのであれば、むやみに褒めないものなのだ。両親や使用人たちにいつもそう言われていたからだ。
食事をしながらふと視線を感じ、見上げるとジョセフ様が私を見ていた。やってしまった。私は俯き、皿を見つめた。多分私のマナーが悪かったせいだろう。気づかないうちに私はひどい食べ方をしていたのだ。
「お嬢様は本当に上品な召し上がり方をされますわ」
メイリンが気がついたのかそうフォローした。そう、フォローされたのだ。悲しくなってしまったが、でも悲しい顔はできない。相手を不快にさせるからだ。だから笑ってメイリンを見た。笑っておけばなんとかなる。
「色々と高貴なお方のお食事を拝見しましたが、お嬢様ほど上品な方は見たことがありませんわ」
「そうです、驚きました。ジョセフ様もそう思われるでしょう」
セオとメイリンが必死に言い繕っている。
「あぁ」
ジョセフ様は小さく呟いた。優しい方である。本当はそんなことを思っていないのだろう。あの言い方は早くこの話を終わらせたいのだ。ふとジョセフ様の皿を見ると空になっていた。
「もう一皿、お持ちしましょうか?」
取り替えごっこでは主人の皿が空になっていたら、使用人から声をかけなくてはならなかった。主人が望むことを先にできなければ使用人とは言えないからである。
「何っ?」
ジョセフ様の声が大きく響き、私は思わず肩がビクッとした。
「私がご用意いたしましょう」
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「すまない、大きな声を出して」
素直にジョセフ様が謝ってくださる。そんなことしなくていいのに。やっぱり優しいいい人だ。
「まだあるとは思わなかったんだ」
少し恥ずかしそうに話すその仕草がなんだか可愛らしく見える。
「このお味付け、ジョセフ様はお好きですよね」
メイリンがお皿をジョセフ様の前に置くと、少しだけだがジョセフ様の目が動いたように見えた。あ、笑ってる。何故だかそう思った。
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