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屋敷の中が慌ただしくなった。私はローガンに頼み厨房の中に入ると、急遽サンドイッチを作ることにした。ジョセフ様のためにできることはこれしかないと思ったのだ。
「お前が行かなくてもいいんじゃないか?」
「そうですよ、結婚式は・・・?」
「そんなわけにいかないんです!」
お義父様たちとジョセフ様の声が聞こえる。怒鳴りあっているようにも聞こえ、私は聞かないように手を動かし続けた。ジョセフ様は国を護るという任務についている。私との結婚がたとえ王命であったとはいえ、彼にとっては任務の方が重要だ。私もそう思う。
「ジョセフ様、あんなにムキになって・・・」
すぐそばで声が聞こえて顔を上げた。古くからクルーソン家で働いているというミリーという女性だった。
「あまり声を出す方ではなかったのですよ」
「そうなんですね」
「えぇ」
ミリーが穏やかに微笑みながら私を見つめてくれる。だから私も見つめ返してしまった。
「お仕事ですもの、仕方ありません」
私はそう言って手を動かす。さっき夕飯を食べたばかりだから、サンドイッチを作る必要はなかったと思う。普通の貴族の令嬢なら、こんなことはしないはずだ。黙ってジョセフ様の背中を見送るか、それともお義母様と一緒にジョセフ様を責めるか。
でも私はサンドイッチを作りたかった。仕事に向かうジョセフ様には、私の作るものを食べて欲しいと思ったのだ。
「ライラ様は他のご令嬢とは違いますね」
無心にサンドイッチを作る私にミリーは言った。他のご令嬢。どのご令嬢だろうか。言われてドキッとした。私は令嬢とはいえない。それは自分でよくわかっている。そして当たり前だけど、ジョセフ様には過去に縁談がないはずがないだろう。きっと色々なご令嬢とお会いされているはずだ。ジョセフ様には私はどのように見えていたのだろう。
着飾ることもせず、家事をやる令嬢。使用人を妻にするようなものだ。宿舎という環境だったからよかったかもしれないが、使用人もきちんといるお屋敷ならそんな妻は必要ない。
「ライラ様だから、ジョセフ様もお連れくださったのでしょう」
落ち込みかけた私は続くミリーの言葉の意味がわからず、失礼なくらいにまじまじとミリーを見てしまった。
「ジョセフ様なら、たとえ王命であっても、お相手が気に入らなければそれなりの態度で接するでしょう。こうしてご実家にお連れしてご紹介されたということは、気に入られているということですよ」
え?私は驚いて尚も見つめてしまった。ジョセフ様が私を気に入っている?それはないと思う。気づけば山のようになっているサンドイッチを見て、私は思った。
「ご出発されるそうです」
セオが知らせてくれ、私は大量のサンドイッチを手に玄関へ向かった。
「ジョセフ様」
私を見ると微かに笑ってくれた、気がする。私もその様子に安心した。
「サンドイッチです。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
大量のサンドイッチを手渡す。
「ありがとう」
ジョセフ様の目が微かに大きくなった。驚いたのだろうか、喜んでくれたらいいなと思う。
「任務だと思ったら腹が空いてきたので助かった」
え?何をおっしゃっているのかわからない。さっき夕飯を山盛り召し上がっていたはずなのに。
「父上、母上、兄上も、ライラをよろしくお願いします」
「大丈夫だ」
「早く戻っていらっしゃい、最高のドレスをあつらえてあげるから」
私のことを気にかけてくださって嬉しくなった。何であれいい人だ。
「ライラ」
ジョセフ様の腕が私に向かってきた。そして、あっという間に私はジョセフ様の腕の中にいた。
「行ってくる」
ジョセフ様の温もりが直接伝わってきた。心臓の音が聞こえてきそうだ。
「戻ったら、さっきの返事を聞かせて欲しい」
耳元で囁かれる。はい、と私は答えたが自分でも聞こえないくらいの小さな声になってしまった。
そうしてジョセフ様は行ってしまった。私はクルーソン家でしばらくは過ごすことになった。
「お前が行かなくてもいいんじゃないか?」
「そうですよ、結婚式は・・・?」
「そんなわけにいかないんです!」
お義父様たちとジョセフ様の声が聞こえる。怒鳴りあっているようにも聞こえ、私は聞かないように手を動かし続けた。ジョセフ様は国を護るという任務についている。私との結婚がたとえ王命であったとはいえ、彼にとっては任務の方が重要だ。私もそう思う。
「ジョセフ様、あんなにムキになって・・・」
すぐそばで声が聞こえて顔を上げた。古くからクルーソン家で働いているというミリーという女性だった。
「あまり声を出す方ではなかったのですよ」
「そうなんですね」
「えぇ」
ミリーが穏やかに微笑みながら私を見つめてくれる。だから私も見つめ返してしまった。
「お仕事ですもの、仕方ありません」
私はそう言って手を動かす。さっき夕飯を食べたばかりだから、サンドイッチを作る必要はなかったと思う。普通の貴族の令嬢なら、こんなことはしないはずだ。黙ってジョセフ様の背中を見送るか、それともお義母様と一緒にジョセフ様を責めるか。
でも私はサンドイッチを作りたかった。仕事に向かうジョセフ様には、私の作るものを食べて欲しいと思ったのだ。
「ライラ様は他のご令嬢とは違いますね」
無心にサンドイッチを作る私にミリーは言った。他のご令嬢。どのご令嬢だろうか。言われてドキッとした。私は令嬢とはいえない。それは自分でよくわかっている。そして当たり前だけど、ジョセフ様には過去に縁談がないはずがないだろう。きっと色々なご令嬢とお会いされているはずだ。ジョセフ様には私はどのように見えていたのだろう。
着飾ることもせず、家事をやる令嬢。使用人を妻にするようなものだ。宿舎という環境だったからよかったかもしれないが、使用人もきちんといるお屋敷ならそんな妻は必要ない。
「ライラ様だから、ジョセフ様もお連れくださったのでしょう」
落ち込みかけた私は続くミリーの言葉の意味がわからず、失礼なくらいにまじまじとミリーを見てしまった。
「ジョセフ様なら、たとえ王命であっても、お相手が気に入らなければそれなりの態度で接するでしょう。こうしてご実家にお連れしてご紹介されたということは、気に入られているということですよ」
え?私は驚いて尚も見つめてしまった。ジョセフ様が私を気に入っている?それはないと思う。気づけば山のようになっているサンドイッチを見て、私は思った。
「ご出発されるそうです」
セオが知らせてくれ、私は大量のサンドイッチを手に玄関へ向かった。
「ジョセフ様」
私を見ると微かに笑ってくれた、気がする。私もその様子に安心した。
「サンドイッチです。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
大量のサンドイッチを手渡す。
「ありがとう」
ジョセフ様の目が微かに大きくなった。驚いたのだろうか、喜んでくれたらいいなと思う。
「任務だと思ったら腹が空いてきたので助かった」
え?何をおっしゃっているのかわからない。さっき夕飯を山盛り召し上がっていたはずなのに。
「父上、母上、兄上も、ライラをよろしくお願いします」
「大丈夫だ」
「早く戻っていらっしゃい、最高のドレスをあつらえてあげるから」
私のことを気にかけてくださって嬉しくなった。何であれいい人だ。
「ライラ」
ジョセフ様の腕が私に向かってきた。そして、あっという間に私はジョセフ様の腕の中にいた。
「行ってくる」
ジョセフ様の温もりが直接伝わってきた。心臓の音が聞こえてきそうだ。
「戻ったら、さっきの返事を聞かせて欲しい」
耳元で囁かれる。はい、と私は答えたが自分でも聞こえないくらいの小さな声になってしまった。
そうしてジョセフ様は行ってしまった。私はクルーソン家でしばらくは過ごすことになった。
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