婚約破棄のその後に

ゆーぞー

文字の大きさ
37 / 61

37

しおりを挟む
 屋敷の中が慌ただしくなった。私はローガンに頼み厨房の中に入ると、急遽サンドイッチを作ることにした。ジョセフ様のためにできることはこれしかないと思ったのだ。

「お前が行かなくてもいいんじゃないか?」
「そうですよ、結婚式は・・・?」
「そんなわけにいかないんです!」

 お義父様たちとジョセフ様の声が聞こえる。怒鳴りあっているようにも聞こえ、私は聞かないように手を動かし続けた。ジョセフ様は国を護るという任務についている。私との結婚がたとえ王命であったとはいえ、彼にとっては任務の方が重要だ。私もそう思う。

「ジョセフ様、あんなにムキになって・・・」

 すぐそばで声が聞こえて顔を上げた。古くからクルーソン家で働いているというミリーという女性だった。

「あまり声を出す方ではなかったのですよ」
「そうなんですね」
「えぇ」

 ミリーが穏やかに微笑みながら私を見つめてくれる。だから私も見つめ返してしまった。

「お仕事ですもの、仕方ありません」

 私はそう言って手を動かす。さっき夕飯を食べたばかりだから、サンドイッチを作る必要はなかったと思う。普通の貴族の令嬢なら、こんなことはしないはずだ。黙ってジョセフ様の背中を見送るか、それともお義母様と一緒にジョセフ様を責めるか。

 でも私はサンドイッチを作りたかった。仕事に向かうジョセフ様には、私の作るものを食べて欲しいと思ったのだ。

「ライラ様は他のご令嬢とは違いますね」

 無心にサンドイッチを作る私にミリーは言った。他のご令嬢。どのご令嬢だろうか。言われてドキッとした。私は令嬢とはいえない。それは自分でよくわかっている。そして当たり前だけど、ジョセフ様には過去に縁談がないはずがないだろう。きっと色々なご令嬢とお会いされているはずだ。ジョセフ様には私はどのように見えていたのだろう。

 着飾ることもせず、家事をやる令嬢。使用人を妻にするようなものだ。宿舎という環境だったからよかったかもしれないが、使用人もきちんといるお屋敷ならそんな妻は必要ない。

「ライラ様だから、ジョセフ様もお連れくださったのでしょう」

 落ち込みかけた私は続くミリーの言葉の意味がわからず、失礼なくらいにまじまじとミリーを見てしまった。

「ジョセフ様なら、たとえ王命であっても、お相手が気に入らなければそれなりの態度で接するでしょう。こうしてご実家にお連れしてご紹介されたということは、気に入られているということですよ」

 え?私は驚いて尚も見つめてしまった。ジョセフ様が私を気に入っている?それはないと思う。気づけば山のようになっているサンドイッチを見て、私は思った。

「ご出発されるそうです」

 セオが知らせてくれ、私は大量のサンドイッチを手に玄関へ向かった。

「ジョセフ様」

 私を見ると微かに笑ってくれた、気がする。私もその様子に安心した。

「サンドイッチです。お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 大量のサンドイッチを手渡す。

「ありがとう」

 ジョセフ様の目が微かに大きくなった。驚いたのだろうか、喜んでくれたらいいなと思う。

「任務だと思ったら腹が空いてきたので助かった」

 え?何をおっしゃっているのかわからない。さっき夕飯を山盛り召し上がっていたはずなのに。

「父上、母上、兄上も、ライラをよろしくお願いします」
「大丈夫だ」
「早く戻っていらっしゃい、最高のドレスをあつらえてあげるから」

 私のことを気にかけてくださって嬉しくなった。何であれいい人だ。

「ライラ」

 ジョセフ様の腕が私に向かってきた。そして、あっという間に私はジョセフ様の腕の中にいた。

「行ってくる」

 ジョセフ様の温もりが直接伝わってきた。心臓の音が聞こえてきそうだ。

「戻ったら、さっきの返事を聞かせて欲しい」

 耳元で囁かれる。はい、と私は答えたが自分でも聞こえないくらいの小さな声になってしまった。

 そうしてジョセフ様は行ってしまった。私はクルーソン家でしばらくは過ごすことになった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との
恋愛
離婚したいのですか?  喜んでお受けします。 でも、本当に大丈夫なんでしょうか? 伯爵様・・自滅の道を行ってません? まあ、徹底的にやらせて頂くだけですが。 収納スキル持ちの主人公と、錬金術師と異名をとる父親が爆走します。 (父さんの今の顔を見たらフリーカンパニーの団長も怯えるわ。ちっちゃい頃の私だったら確実に泣いてる) ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 32話、完結迄予約投稿済みです。 R15は念の為・・

どうしてあなたが後悔するのですか?~私はあなたを覚えていませんから~

クロユキ
恋愛
公爵家の家系に生まれたジェシカは一人娘でもあり我が儘に育ちなんでも思い通りに成らないと気がすまない性格だがそんな彼女をイヤだと言う者は居なかった。彼氏を作るにも慎重に選び一人の男性に目を向けた。 同じ公爵家の男性グレスには婚約を約束をした伯爵家の娘シャーロットがいた。 ジェシカはグレスに強制にシャーロットと婚約破棄を言うがしっこいと追い返されてしまう毎日、それでも諦めないジェシカは貴族で集まった披露宴でもグレスに迫りベランダに出ていたグレスとシャーロットを見つけ寄り添う二人を引き離そうとグレスの手を握った時グレスは手を払い退けジェシカは体ごと手摺をすり抜け落下した… 誤字脱字がありますが気にしないと言っていただけたら幸いです…更新は不定期ですがよろしくお願いします。

処理中です...