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第4話 再会
しおりを挟む午後6時、日勤体制から当直体制に移行した。
東亜医科大学病院の夜間救急は、3次救急と2次救急を救命救急センターが、walk in(歩いて来院する患者)は症状によって、臓器別の各科が対応していた。
消化器外科は腹痛患者を診ることが多い。
午後6時10分頃、25歳の女性が上腹部痛で来院したとのことで、栄一郎と指導医の山本医師は夜間外来に向かった。
「君、真面目そうに見えて、けっこう大胆だよね」
山本医師は道すがら朝の遅刻のことを持ち出した。
「すみません」
栄一郎は今日何度目か、いやこの4月から何十回目かのその単語を口にした。
1年目研修医の仕事というのはもしかして謝ることなんじゃないかとすら栄一郎は思うようになっていた。
「ま、大丈夫よ。俺も月曜カンファは何回かやらかしてるし。ただ、将来的に意識しておくべきことは、ある程度のヘマをやらかしても大目に見てくれる教室を選ぶってことだね」
これは遠回しに、ウチの教室だったら、説教くらいはされるけど、放りだしたりせず、ちゃんと面倒はみてやるよ、という教室勧誘だった。
地域や病院、診療科にもよるが、日本の医療現場は基本的には人手不足である。
優秀な人材はもちろん欲しいが、多少見劣りする者でも頭数はいればいるほどいいのである。
そんなやりとりをしているうちに、夜間外来の待合に到着した。
「お、なんか、あの子っぽいな」
20代の女性が一人、待合のベンチに座り、上腹部を押さえながら、前かがみになっている。
「一条沙耶香さんですか? すぐ診察室にご案内しますので、もうしばらくお待ちください」
山本医師は患者確認もそこそこに、診察室に入っていく。
栄一郎も後に続くが、ふと顔をあげたその患者と目が合う。
「ハザマ?」
「イチジョウ?」
2人はお互いの名を確認するように呼び合った。
「あんた、こんなとこでなにやってんの?」
「えと、仕事……」
栄一郎は説明になっていない答えを返し、視線を宙に泳がせる。
「ああ、そうなんだ、と、あたたた……」
その患者、一条沙耶香はその説明で一応納得いったのか、再び腹部を痛がり出した。
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