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外伝46話 馬鹿はいない
しおりを挟む「そろそろ着きますケイン、気をつけて」
ルーナがその言葉を口にした直後、周辺の景色が変わった。
あたりは真っ暗で、音も何もない。
しかし、よく見ると遠く彼方に光る星々が見える、つまりここは宇宙空間なのだろうが、今はそんな事はどうでも良い。
(息が!息が出来ないよルーナさん!)
当然宇宙となれば空気はないので、こうなる。
「あ、申し訳ありませんケイン。空気が無いの忘れていました。少し待ってください、すぐ息が出来る様にしますので……」
何故か宇宙空間で音が伝わらない筈なのに普通に話せているルーナであった。どういう理屈か気になるが、今の僕に深く考える余裕は無い。
ルーナが僕に向けて手を向けて何かしようとしている。
(これで助かる……)
そう思ったが、その直後ルーナさんの後ろで火柱が立った。
これまた宇宙空間なのに何故か綺麗な青に燃える炎がルーナさんに向けて飛んできたのだ。
しかし、ルーナは振り返りもせずにじっとしている。
炎はルーナに直撃すると、初めから無かったかの様に綺麗に消え失せてしまった。
「……早速ですか、シム」
すると、何も無かったはずの空間に全てが白い少年の形をとった者が現れた。
「YES、大人しく向こうの……灰色の世界にいれば死なずに済んだものを……OK、ワタシが貴方方お2人を速やかに排除します」
「馬鹿な事を……」
「NO、ワタシの実力は既に貴方達お2人を上回っています」
「そうかもしれないですね。ですが、ここは宇宙空間……それが馬鹿な事だと言っているのです」
「why?ワタシは呼吸の必要がありません。今にも死にそうなケインと違い、宇宙空間での弱体化はあり得ません。寧ろ貴方方が不利になるだけ……」
「なら試してみなさい」
ルーナが先に動く。
どうやったのか分からないが、ルーナは何も無い空間に見えない足場を作ると、そこを蹴ってシムの元まで一瞬で距離を詰めた。
剣などを持っていないルーナではあったが、拳で殴るだけでその威力は絶大なものになったのだ。
殴られたシムは遥か遠くへと吹き飛ばされたが、ダメージ自体はそこまで巨大でも無い様だ。
だが、問題はその後である。
ルーナに殴られたシムはその最高速度のまま、宇宙空間を飛び続けたのだ。
(まあ……そりゃあ宇宙なんだから摩擦やら重力?やらが無いし動き始めた物体はそのままの速度で等速直線運動するだろうけど……)
そう、よく考えると宇宙空間では先に攻撃に成功した方が勝つのだ。
飛ばされた側は止まる事も出来ず、そのまま遠くまで行ってしまうわけだから、当たり前だ。
だが、不可解なのはそんな事をシムが想定していないとは思えない。
つまり……この状況はシムの想定内の可能性が高いのだ。
となると、何か対策があって……
「無駄です。ワタシはオリジナルスキル以外の全てのスキルが使えるのです。当然空間魔法の『転移』も使用可能。ならば此処に戻ってくるのも簡単で……」
言い終わる前にルーナがシムを殴りつけた。
当然先ほどと同じ様に遥か遠くへと飛んでいくシム。
またも転移をしてくるが、転移先はいつも同じ場所である。転移した直後にルーナが殴る。
「why?理解不能。ステータス上はワタシの方が強いはず。何故こうも一方的に……?」
「分かりませんか?貴方は宇宙空間での中遠距離魔法戦を想定していたのでしょう?自在に動くことの出来ない此処では遠距離攻撃手段の豊富な貴方の方が有利だと……。でも、私のオリジナルスキルを舐めていた様ですね」
(そういうことか!ルーナさんのオリジナルスキルの中に宇宙空間で普通に動く事の出来るスキルがあったんだな!……でもそろそろ僕の意識が飛びそうだから早くしてくれ……)
「what?ルーナ、貴方のオリジナルスキルとは?」
「敵に素直に教えるわけがないでしょう……馬鹿なのですか?」
「YES、貴方の言う通りです。ですが、貴方はやはり愚かです」
「何?」
「宇宙空間での戦いがワタシに不利ならば、それを無くせば良いだけという事をワタシに気づかせてしまったのですからね」
シムは手を叩く。
すると、今度は僕達の体がすごい勢いで落下し始めた。
「何をしたのですか!?」
「NO、敵に教える馬鹿はいません」
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