君と奏でる恋の音

楠富 つかさ

文字の大きさ
上 下
4 / 7

#4 迷える少女が奏でるノネット

しおりを挟む
 やってきたのは高等部桜花寮の談話室。普通教室の半分くらいの広さで、ふかふかな絨毯と高級感あるインテリアが配置された落ち着いた空間。中等部も同じような部屋があるけれど、そこにいるのが高校生か中学生だけでこうも違うのかと驚かされる。制服の人もいれば既に部屋着に着替えた人もいる。人数はさっき入ってきたばかりの私たち三人を除いて六人。髪をミディアムカットに切り揃えた人がトレイにティーカップを乗せて持ってくると、ポニーテールにした小柄な人と綺麗なセミロングの人が並べていく。


「……あれ?」

 よくよく見たらそこに一人、クラスメイトの姿があった。名前は確か……そう、つなし、みやこさんだ。漢字はえっと……、十京だったはず。その十さんと話している人も私は見たことがある。同じ学年のはずだ。そんな二人を見守るようにしつつも手元の本に目を落とす人。

「おやおや、新顔さんですね。歓迎するですよ。わたしは四方田恵、こっちはルームメイトの西恵玲奈」
「どうも! 新聞部の西恵玲奈だよ。もともとこのお茶会は私と恵の二人だけだったんだけどね――――」

 ミディアムカットの人が四方田先輩で、ポニーテールの人が西先輩。この二人がルームメイトで、そこに西先輩の親友の恋人(!?)である北川先輩が出入りするようになって、四方田先輩の恋人の十さんや、西先輩の恋人のセミロングが綺麗な須川美海先輩が来て、須川先輩の文芸部での先輩であり、四方田先輩のクラスメイトでもある赤石燐先輩が加わり、その恋人が私の同級生でもある夜ノ森響さんも加わったということらしい。蓮園先輩はある日ふらっと北川先輩が連れてきたらしくって、新顔らしい。学年や寮を超えたお茶会が形成されているのも凄いんだけど……女の子同士で恋人っていうのが私にとって最大の驚きだ。しかも同級生が二人も高等部の先輩とお付き合いをしているなんて……少し信じられない。

「いきなりいっぱい話すと驚くわよね。少し落ち着いてからでいいから、貴女の話もきかせてくれる?」

 須川先輩にそう促され、ミルクティーを一口頂いてから話し始める。まずは自己紹介、それから家のことや学校で居場所がないような感じがしてしまうこと、フルートは好きだけど吹奏楽部には行けていないこと、結局それは自分に自信がないからということ。皆さん口を挟まず全て聞いてくれた。

「なるほど。お茶のおかわりいります?」
「あ、お願いします」

 柔らかい温もりのミルクティーに気分が落ち着く。茶葉がいいのか、淹れ方がいいのか、他になにか秘密があるのか、市販のものよりとっても美味しい。お茶菓子も手作りっぽい。高校生の先輩たちがすごく大人に見える。

「自己肯定感の欠如、わたしにも心当たりがあるわね」
「わ、わたしもですよ。自分に自信なんて難しいですって……」

 赤石先輩と十さんが同調してくれた。……十さんってこんな感じだっけ? もっと……そう、北川先輩に近いような雰囲気だったような。保健室にいる時間が長かったし、あんまり
よく分からないけど。仲良く、なれるかな?

「ばっかじゃないの」

 少しだけ浮ついた私を一蹴したのは夜ノ森さんだった。赤石先輩が抑えようとするけど、夜ノ森さんは言葉を続ける。

「自信なんてあると思えば湧いてくるのよ。見てみなさいよ、このメンバー、揃いも揃って貧乳ばっかり。それでもここで過ごしてんのよ。乳がでかけりゃ良いってもんじゃないけどさ、薄い胸張って生きてるんだからさ、あんたも胸張って生きればいいじゃない。家が貧しい? 見た目がぱっとしない? 見た目なんてまだこれから変わってくだろうし、家柄なんてどうでもいいのよ。アタシん家だって今にも潰れそうな本屋よ」

 物怖じしない、それこそ自信に満ちた物言いだと思った。それはもしかしたら、赤石先輩が側にいるからだろうか。

「あなたには! 支えてくれる人が……恋人がいるからそんなことが言えるんです!」

 こんなに感情的になったのはいつ振りだろう。分からない。分からないことばかりで頭が痛くなる。苦しいよ……。

「ぐず……ん……うぅ」

 泣くつもりなんて無かったのに、どうして……涙が。私、泣かないって決めたのに、寂しくたって、泣かないって……もう、子供じゃないって……私……。

「泣いてもいいんだよ。支えてくれるのはね、恋人ばかりじゃないよ。友達だっていいじゃん。ひーちゃんたちがついてるよ」

 そっと抱きしめてくれた蓮園先輩が優しくて、暖かくて、私の涙はしばらく止まらなかった。
しおりを挟む

処理中です...