暗殺娘と影武者姫

楠富 つかさ

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払暁

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 払暁の瞬間、わずかにまばゆい光が放たれ、銀は目を閉じた。そのままでいたいと、気が緩みかけた瞬間だった。銀の目の前を鋭い風切り音がかすめ、小石が枝葉を揺らす音が静寂の中に響き、わずかながら残っていた眠気を一気に吹き飛ばす。

「……っ」

 声を出すのもはばかられ、銀は無意識に身を正した。音のした方向へ目をやると、かすかに小石が転がっているのが見える。その小さな物体が、先ほどの銀の油断を咎めるように、そこに存在していた。いったい誰が見ているのか、黒か紫かはたまたどちらでもないのか。いずれにせよ、訓練の最中にわずかでも気を抜いたことを銀は自省する。心のどこかで「もう大丈夫だろう」という甘えが芽生えたのを、監督者は見逃さなかった。
 銀は再び座り直し、深く息を吸った。払暁の薄明かりが、ほんのりと空間を染め始めている。じっとしていると、体中の神経が研ぎ澄まされていくのを感じた。

 誰が見ているのか、集中力を取り戻すべく銀はうっすらと明るくなってきた中、人影を探す。だが、気配を絶ち巧妙に隠れているのか、簡単には見つけられない。
 肌に当たる空気の冷たさや遠くから聞こえる鳥の鳴き声――すべてが異様なまでに鮮明に感じられる。

「もう少し、だ」

 銀は自分に言い聞かせるかのように呟いた。もう夜は明けつつある。この訓練が終わるのも、もうすぐだ。しかし、もうすぐが永遠に続くように感じられるのが、この訓練の恐ろしさだ。どれほどの時間が経ったのかもわからない。

 心を澄ませろ。意識を固定し、乱されるな。遠くでまた鳥が鳴いた。銀の耳には、それがどこか嘲るような響きに聞こえた。鳥の鳴き声とは別に、鋭く空を裂く音が遠くに聞こえる。別の誰かを狙って小石が放たれた。銀はその音の出所に目を向ける。

「……っ」

 何とか平静を装うが、背筋が一瞬にして冷たくなった。この訓練を監督していたのは父であった。銀は神父のような装いをしたその男に、戦闘能力があるとは考えていなかった。暗部を育て上げ、権勢をものにしただけで、自分自身は戦場に立たない男だと。勝手に思い込んでいた。
 だが、気配の絶ち方や正確な遠投、そして木々に身を隠しているはずの少女たちを発見する索敵能力、それらが父に兼ね備わっていることに銀は衝撃を受けていた。

 銀が拳をぎゅっと握りしめた。吐息を静かに吐き、再び精神を研ぎ澄ます。動かず、息を潜め、ただその場に存在する。感情の波は邪魔になる、そう切り替えて冷静さを取り戻す。
 払暁の光が徐々に強まり、薄暗かった空間がぼんやりと明るくなっていく。それでも、訓練が終わる合図はまだない。

「あと少しだ。私はできる」

 心の中でそう繰り返し、銀は限界ぎりぎりの精神を、なおも保ち続ける。
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