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第1話 出会い(紅葉編)
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仄暗い寝室に重なる三人の影。梅雨空の雨音の中、明らかに雨とは違う音が室内でこだまする。悩ましげな少女の吐息が漏れ、くちゅくちゅと水音が響く。
「んちゅ……うぅん、もっとぉ」
艶めかしい声でキスをねだる部屋の主、水藤叶美。その豊満な肢体を二人に委ね、快感の波に身を任せる。
「お姉さま、愛してますわ」
「かなみちゃん、かわいい」
叶美の右側で大人びた笑みを浮かべる城咲紅葉と、反対側で可愛らしく笑みを浮かべる北川かおり。同じ学び舎で学ぶ彼女らが出逢ったのはとある春のこと。
東海地方某県の東部、空の宮市に位置する中高一貫の私立星花女子学園は、今日から本格的な新学期を迎えていた。高等部二年四組も終礼を終え、生徒たちはそれぞれ部活や委員会、あるいは帰路につくべく解散するなり、あるいは今日一日では喋りきれなかった内容があるのか、おしゃべりに花を咲かせていた。
「叶美、今日は部活?」
「ううん。委員会に行ってくる」
「いいの? イラスト部は。副部長でしょう?」
クラスが変わったばかりで席は出席番号順。やや窓側に位置する叶美の席に二人のクラスメイトがやってきた。一人は短めのポニーテールがトレードマークで快活そうな少女、西恵玲奈。もう一人は恵玲奈より長くポニーテールを結った聡明そうな少女、佐伯雪絵だ。三人は揃って教室を出て廊下を歩き出す。
「うちは緩い部だし、勧誘して入る人の方が少ないよ。美術部はどうなの?」
「私も勧誘に参加するわ。美術に興味があるなら何でも出来るっていうのが、うちの売り文句だから。恵玲奈は、新聞部なり放送部なり、どうなのよ?」
「新聞部は副部長として頑張るけど、放送はけっこう頼りになる後輩がいるから大丈夫でしょ」
「なんだか忙しいよね。二年生って。じゃあ、わたしは図書館行ってくるね」
「じゃあ、私と恵玲奈は部室棟だね。お疲れ」
「またね」
廊下の突き当たりで別れ、叶美は図書館へと向かった。
図書委員としての仕事には、本の貸し出し手続きをすることと、返却された本を元の棚に戻すことの二つが主にある。叶美は三年の先輩がカウンター業務をしていることを確認すると、カゴに入った本からラベルを見て戻す棚を判別し、近い位置に戻す本を数冊持って棚へ向かった。
そうして返却手続きの済まされた本を戻し終えると、自習スペースの掃除をしようとそちらへ向かい、ある生徒の姿に目を奪われた。彼女は一心不乱にペンを動かし、原稿用紙に向かっていた。左利きの彼女は手の汚れを心配する必要もなく、一心不乱に書き続けていた。赤縁眼鏡の奥に覗く双眸は真剣そのものだ。そんな彼女が気になり、叶美は右側から覗く。冬服のブレザーに輝く校章のバッジは黄色。中学三年生であることが分かった。丁寧に編み込まれた三つ編みと同様に、字も美しく彼女の真面目そうな印象の通りだった。
彼女が原稿用紙の左端で句点を打つと、大きく息を吐き出した。凄まじい集中力だった。
「ん……え!?」
そこでようやく彼女は叶美の存在に気付いた。慌てて立ち上がると後退ってしまい壁に頭をぶつける。
「だ、大丈夫です……。えっと、先輩、ですよね」
彼女もまた叶美の校章から先輩であることを確認する。二人とも立っていると、彼女の方が年上である叶美よりも背が高かった。メリハリのある叶美と比べるとやや肉感的。中学三年生にしては豊満な体つきだ。
「えっと、わたしは水藤叶美。小説を書いているの?」
「えぇ、その、はい。城咲紅葉と申します。三年二組です。あの、部活は茶道部なんですけど、趣味で……」
先輩との会話で緊張気味なのか、目線が泳ぐ紅葉。
「わたしね、ずっと図書委員やっているんだけど図書館で小説書いている人初めて見たよ」
「まあ、この学校には文芸部もありますし……。私はその、本を返しに来たのですが、ふとお話の続きを閃いたので、忘れないうちに書きたくて……」
叶美は進んで図書委員になるほど本が好きで、目の前に小説家の卵がいたらつい興奮してしまう。叶美は紅葉に、小説を読ませて欲しいと頼むのだが……。
「そ、それは流石に恥ずかしいです!!」
慌てふためきながら荷物をまとめ、図書館を去ってしまう紅葉。何も言えず見送ってしまった叶美は、ふと足下に落ちていたそれを見付ける。
「生徒手帳……。届けてあげなきゃ、だよね。……あれ、何組って言っていたかな……。そうだ、二組だ。明日のお昼休みにでも持っていってあげよう」
「んちゅ……うぅん、もっとぉ」
艶めかしい声でキスをねだる部屋の主、水藤叶美。その豊満な肢体を二人に委ね、快感の波に身を任せる。
「お姉さま、愛してますわ」
「かなみちゃん、かわいい」
叶美の右側で大人びた笑みを浮かべる城咲紅葉と、反対側で可愛らしく笑みを浮かべる北川かおり。同じ学び舎で学ぶ彼女らが出逢ったのはとある春のこと。
東海地方某県の東部、空の宮市に位置する中高一貫の私立星花女子学園は、今日から本格的な新学期を迎えていた。高等部二年四組も終礼を終え、生徒たちはそれぞれ部活や委員会、あるいは帰路につくべく解散するなり、あるいは今日一日では喋りきれなかった内容があるのか、おしゃべりに花を咲かせていた。
「叶美、今日は部活?」
「ううん。委員会に行ってくる」
「いいの? イラスト部は。副部長でしょう?」
クラスが変わったばかりで席は出席番号順。やや窓側に位置する叶美の席に二人のクラスメイトがやってきた。一人は短めのポニーテールがトレードマークで快活そうな少女、西恵玲奈。もう一人は恵玲奈より長くポニーテールを結った聡明そうな少女、佐伯雪絵だ。三人は揃って教室を出て廊下を歩き出す。
「うちは緩い部だし、勧誘して入る人の方が少ないよ。美術部はどうなの?」
「私も勧誘に参加するわ。美術に興味があるなら何でも出来るっていうのが、うちの売り文句だから。恵玲奈は、新聞部なり放送部なり、どうなのよ?」
「新聞部は副部長として頑張るけど、放送はけっこう頼りになる後輩がいるから大丈夫でしょ」
「なんだか忙しいよね。二年生って。じゃあ、わたしは図書館行ってくるね」
「じゃあ、私と恵玲奈は部室棟だね。お疲れ」
「またね」
廊下の突き当たりで別れ、叶美は図書館へと向かった。
図書委員としての仕事には、本の貸し出し手続きをすることと、返却された本を元の棚に戻すことの二つが主にある。叶美は三年の先輩がカウンター業務をしていることを確認すると、カゴに入った本からラベルを見て戻す棚を判別し、近い位置に戻す本を数冊持って棚へ向かった。
そうして返却手続きの済まされた本を戻し終えると、自習スペースの掃除をしようとそちらへ向かい、ある生徒の姿に目を奪われた。彼女は一心不乱にペンを動かし、原稿用紙に向かっていた。左利きの彼女は手の汚れを心配する必要もなく、一心不乱に書き続けていた。赤縁眼鏡の奥に覗く双眸は真剣そのものだ。そんな彼女が気になり、叶美は右側から覗く。冬服のブレザーに輝く校章のバッジは黄色。中学三年生であることが分かった。丁寧に編み込まれた三つ編みと同様に、字も美しく彼女の真面目そうな印象の通りだった。
彼女が原稿用紙の左端で句点を打つと、大きく息を吐き出した。凄まじい集中力だった。
「ん……え!?」
そこでようやく彼女は叶美の存在に気付いた。慌てて立ち上がると後退ってしまい壁に頭をぶつける。
「だ、大丈夫です……。えっと、先輩、ですよね」
彼女もまた叶美の校章から先輩であることを確認する。二人とも立っていると、彼女の方が年上である叶美よりも背が高かった。メリハリのある叶美と比べるとやや肉感的。中学三年生にしては豊満な体つきだ。
「えっと、わたしは水藤叶美。小説を書いているの?」
「えぇ、その、はい。城咲紅葉と申します。三年二組です。あの、部活は茶道部なんですけど、趣味で……」
先輩との会話で緊張気味なのか、目線が泳ぐ紅葉。
「わたしね、ずっと図書委員やっているんだけど図書館で小説書いている人初めて見たよ」
「まあ、この学校には文芸部もありますし……。私はその、本を返しに来たのですが、ふとお話の続きを閃いたので、忘れないうちに書きたくて……」
叶美は進んで図書委員になるほど本が好きで、目の前に小説家の卵がいたらつい興奮してしまう。叶美は紅葉に、小説を読ませて欲しいと頼むのだが……。
「そ、それは流石に恥ずかしいです!!」
慌てふためきながら荷物をまとめ、図書館を去ってしまう紅葉。何も言えず見送ってしまった叶美は、ふと足下に落ちていたそれを見付ける。
「生徒手帳……。届けてあげなきゃ、だよね。……あれ、何組って言っていたかな……。そうだ、二組だ。明日のお昼休みにでも持っていってあげよう」
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