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第18話 紅葉の想い
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叶美が住んでいる高等部菊花寮は一人部屋が割り当てられており、つい油断して散らかしがちだった自室を叶美はこの一週間、放課後を使って懸命に掃除した。図書委員の仕事の後でなかなか時間を取るのは難しかったが、まがりなりに星花に通う先輩として恥ずかしいところのないように頑張ったという自負もある。
それでも多少の緊張感が表情に出ている叶美。自分のずぼらさを自覚している以上、どこか失態があるのではないかと不安になってしまう。
「服装、よし。寝癖なし、うん。いい感じ」
うすくドットの入った白いブラウスは青のリボンタイが上品に見せ、ターコイズのジャケットと合わせれば甘すぎず大人っぽさを演出できる。スカートは少しだけ透け感のある膝下丈が落ち着いた雰囲気を醸し出す。夏を先取るコーディネートは雪絵に仕上げてもらった。靴下はシンプルに白。
「なんか緊張しちゃうなぁ。大丈夫だよね……?」
深呼吸を繰り返す叶美の耳に、チャイムの音が届く。
「あ、来た! はーい」
扉を開けると、そこにいたのは紅葉だけだった。
「かおりはもう少し仕度に時間がかかるみたいで」
そう言って一礼してから部屋に入る紅葉の装いは、上品な淡いグリーンのワンピースで初夏の時節を正確に捉えている。襟や袖口など要所に白が散りばめられていて、レースの装飾もとても綺麗に仕上がっている。
「ワンピース、似合ってるね。紅葉ちゃんでもグリーン着るんだね」
「ふふ、この季節ですから」
そんなやり取りをしながら居間に通した後、備え付けの小さなシンクで飲み物の準備をする。紅葉のために叶美が用意したものをサーブする。
「あ、抹茶ラテ」
「いやだった? 抹茶が好きって前に言ってたから」
「い、いえ、好きです。ありがとうございます」
アイス抹茶ラテを紅葉の前に置き、自分はアイスココアを飲む。
「菊花寮に入ったの初めてです。……広いですね」
いつものように丁寧に編まれた三つ編みを指先で弄びながら、落ち着かなそうに部屋を見渡す紅葉。叶美も紅葉とかおりの部屋へ上がった時は少し緊張したからその気持ちはよく分かる。
招く叶美と招かれた紅葉の双方に緊張感が走る。何か話そうと思ったが、両者の出端が被る。
「お姉さま先どうぞ」
「え、いいよ。紅葉ちゃんからで」
少し俯いてやっぱり緊張したような面持ちで、紅葉が口を開いた。
「お、お姉さま、す……好きです!」
部屋に響くその声はかすかに震えていたが、叶美の胸にしかと届いた。
「物語の中にしかないと思っていた感情が実際にあって……私、分からなくなってしまって……でも、お姉さまなら……お姉さまとなら!」
「紅葉ちゃん……わ、わたし」
「分かってます。女同士なんて……でも、でもっ」
「違うの紅葉ちゃん!」
立ち上がって扉の方へ向かおうとする紅葉を引き留めたくて、けれど引き留められなくて。叶美は想いを言葉に出来ず、押し黙るより他なかった。
「いいんです……伝えられたから。自分の言葉で言えたからっ」
扉が閉ると、金縛りが解けたかのように言いたかった言葉が口をつく。
「だって……紅葉ちゃんもかおりちゃんも、同じくらい好きなんだもん……」
それからしばらく呆然としていた叶美の意識を現実に呼び戻したのは再び鳴らされたチャイムの音だった。
それでも多少の緊張感が表情に出ている叶美。自分のずぼらさを自覚している以上、どこか失態があるのではないかと不安になってしまう。
「服装、よし。寝癖なし、うん。いい感じ」
うすくドットの入った白いブラウスは青のリボンタイが上品に見せ、ターコイズのジャケットと合わせれば甘すぎず大人っぽさを演出できる。スカートは少しだけ透け感のある膝下丈が落ち着いた雰囲気を醸し出す。夏を先取るコーディネートは雪絵に仕上げてもらった。靴下はシンプルに白。
「なんか緊張しちゃうなぁ。大丈夫だよね……?」
深呼吸を繰り返す叶美の耳に、チャイムの音が届く。
「あ、来た! はーい」
扉を開けると、そこにいたのは紅葉だけだった。
「かおりはもう少し仕度に時間がかかるみたいで」
そう言って一礼してから部屋に入る紅葉の装いは、上品な淡いグリーンのワンピースで初夏の時節を正確に捉えている。襟や袖口など要所に白が散りばめられていて、レースの装飾もとても綺麗に仕上がっている。
「ワンピース、似合ってるね。紅葉ちゃんでもグリーン着るんだね」
「ふふ、この季節ですから」
そんなやり取りをしながら居間に通した後、備え付けの小さなシンクで飲み物の準備をする。紅葉のために叶美が用意したものをサーブする。
「あ、抹茶ラテ」
「いやだった? 抹茶が好きって前に言ってたから」
「い、いえ、好きです。ありがとうございます」
アイス抹茶ラテを紅葉の前に置き、自分はアイスココアを飲む。
「菊花寮に入ったの初めてです。……広いですね」
いつものように丁寧に編まれた三つ編みを指先で弄びながら、落ち着かなそうに部屋を見渡す紅葉。叶美も紅葉とかおりの部屋へ上がった時は少し緊張したからその気持ちはよく分かる。
招く叶美と招かれた紅葉の双方に緊張感が走る。何か話そうと思ったが、両者の出端が被る。
「お姉さま先どうぞ」
「え、いいよ。紅葉ちゃんからで」
少し俯いてやっぱり緊張したような面持ちで、紅葉が口を開いた。
「お、お姉さま、す……好きです!」
部屋に響くその声はかすかに震えていたが、叶美の胸にしかと届いた。
「物語の中にしかないと思っていた感情が実際にあって……私、分からなくなってしまって……でも、お姉さまなら……お姉さまとなら!」
「紅葉ちゃん……わ、わたし」
「分かってます。女同士なんて……でも、でもっ」
「違うの紅葉ちゃん!」
立ち上がって扉の方へ向かおうとする紅葉を引き留めたくて、けれど引き留められなくて。叶美は想いを言葉に出来ず、押し黙るより他なかった。
「いいんです……伝えられたから。自分の言葉で言えたからっ」
扉が閉ると、金縛りが解けたかのように言いたかった言葉が口をつく。
「だって……紅葉ちゃんもかおりちゃんも、同じくらい好きなんだもん……」
それからしばらく呆然としていた叶美の意識を現実に呼び戻したのは再び鳴らされたチャイムの音だった。
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