君の隣で ~競技のペアとプライベートでもペアになる百合~

楠富 つかさ

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告白と解散

 私たちが通う星花女子学園がある空の宮市も六月になってすっかり梅雨空が続くようになった。もっとも、屋内競技である卓球部としてはいつも通りの活動を続けているのだけれど。
 今日も今日とて練習を終えた私たちは着替え終わりそれぞれ帰路に就こうとしていたのだが、椿に呼び止められ私は部室に残っていた。

「……姫乃、ちょっと話あんだけどさ」

 その言い方が、妙に他人行儀で。ふざけた調子もなければ、笑みもない。胸の奥が、じわりと冷たくざわついた。
 私たち以外誰もいない部室の隅、古びたベンチに腰を下ろす。蛍光灯の明かりが少しちらついていて、やけに静かだった。
 椿は、まるで天気の話でもするように、無造作に言葉を放った。

「後輩に告られてさ。付き合うことにしたから、部活辞めるわ。部長にももう伝えたから、後は顧問かな」

 ──え?
 言葉が、耳の奥で止まった。鼓膜だけが震えて、意味だけが頭に届かない。

「……今、なんて……?」

 震える声が、自分のものとは思えなかった。

「だから、ペア解消だな。あたしはほら、姫乃ほど強くないし。思い入れもないんだわ、卓球に」

 椿は、いつも通りの顔で笑っていた。なにも感じていないみたいに。
 いつもの軽口みたいに。けれど、その言葉の一つ一つが、私の胸に鋭く突き刺さった。

 ──思い入れもない?

 私は、椿がいたからここまで続けてこれたのに。椿とペアでいる時間が好きだったのに。
 勝ち負けじゃない、ただ一緒にいられることが、何よりも嬉しかったのに。

 その全部が、あっさりと、なにげない一言で切り捨てられた。
 椿にとって私は、その程度だったのか。ただの強いペアだったのか。

 喉の奥が熱くなった。
 痛いくらいに、息が詰まった。
 それでも、私は必死に顔を上げた。泣くわけにはいかなかった。

「そっか、椿……そうなんだね」

 絞り出した声は、自分でも驚くほど冷静だった。
 けれど、視界はもう滲んでいた。
 椿がぼやけて、遠く感じた。

 椿は気づかない。
 私の想いにも、涙にも。
 優しいふりをして、いつだって鈍感で、無神経だ。

 心の中で何度も叫んだ。
 やめてって。
 行かないでって。
 ペア解消なんて、そんなの嫌だって。

 けれど、どれだけ叫んでも、それは声にならなかった。

「まぁ、これからもルームメイトとしては仲良くしてくれよな」

 私の唇は、閉じられたままだった。声を出したら、きっと全部、壊れてしまう気がしたから。
 私はただ、椿の横顔を見ていた。いつもふざけてばかりで、少しガサツで、それでも私には眩しい人だった。
 その人が、まるで自分には関係ない場所へ行ってしまうような、その瞬間。

 椿が、ベンチから立ち上がる。
 私は目で追いながら、一歩も動けなかった。
 ラケットだけが、まだ手の中に残っていた。温もりも何もない、空っぽなまま。

 ──椿がいない卓球なんて、意味がないのに。

 私はその日、ただ黙って、椿の背中を見送った。
 涙を堪えたまま。声にならない「好き」を、飲み込んだまま。

「私は……」

 認めたくない。椿の隣に、私以外がいるなんて――。そう伝えられたら、どれだけいいだろうか。重苦しい気持ちを抱えたまま、私は部室を後にした。
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