君の隣で ~競技のペアとプライベートでもペアになる百合~

楠富 つかさ

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新しい朝

 窓の外から差し込む陽光が、まぶたをじんわり照らした。カーテンの隙間から漏れる光が、静かに部屋の空気を温めていく。
 まだぼんやりとした頭の中で、私は昨夜のことを思い返す。指先に残る熱、肌に触れたぬくもり、交わした言葉のひとつひとつ。
 全部、夢じゃない。現実だ。ずっと欲しかったものを、私はようやく手に入れた。

「……誰かから奪うつもりはなかったんだけどなぁ」

 隣では椿の寝息が、穏やかに響いていた。背を向けるように丸まった小さな背中。
 こんなに近くにいるのに、昨日まで触れられなかった距離が、今はたしかに縮まっている。
 私はそっと腕を伸ばし、椿の髪に指を滑らせた。少し跳ねた寝癖に、つい微笑んでしまう。その瞬間、椿がふわりと目を開けた。

「……ん、おはよ」

 まだ眠そうな声。でも、その目が私を見て、ふいに笑った。快活な笑いじゃない。誰にでも向ける飄々とした顔じゃない。ほんの少し照れて、どこか頼りなげな、不器用な笑み。
 私だけが知っている椿の顔だった。

「おはよう、椿」

 交わした言葉は短くて、静かで。でも、その短さがたまらなくあたたかかった。
 布団の中で向かい合いながら、しばらく言葉はなかった。けれど、沈黙は不思議と苦しくない。
 昨日までとは、何かが確実に違っていた。呼吸のリズムさえ、どこか噛み合っている気がする。

「……昨日の話、もう一回だけ聞いていい?」

 椿がふと視線を落とし、私の指先にそっと触れた。その仕草が、まるで確かめるようで、私は胸が締めつけられる。

「あたしのこと、ほんとに好き?」

 小さな声だった。こんなにも繊細で臆病な椿を、私は初めて見たかもしれない。
 あんなに強がって、冗談みたいに笑って、軽口でごまかして。でも、本当はずっと、自分が愛されることに不安を抱えてたんだ。
 私は何も言わず、椿の手を取った。
 指先を絡めて、そっと引き寄せる。目を見て、逃げずに、真っ直ぐに伝える。

「好きだよ。ずっと、椿だけ」

 それはもう何度目かの告白だったかもしれない。
 でも、椿はそのたびに、少しずつ変わっていく。
 目を伏せて、頬を赤らめて、それでも私の隣にいることを選んでくれる。肩がふるふると震えて、椿は照れたように目をそらした。
 けれど、私の肩にそっと頭を預けてきた。

「……あー、やばい、顔熱い……」
「大丈夫。私しか見てないよ」
「それがやばいって言ってんだよ……バカ」

 そう呟きながら、椿は小さく笑った。
 その笑顔が、私の胸をいっぱいにした。

 しばらくして、椿はベッドから抜け出し、制服に着替え始めた。
 髪をざっと手ぐしで直して、鏡の前でいつものキリッとした表情をつくる。
 でも、その背中はどこか軽くて、昨日よりも肩の力が抜けている気がした。

「なあ、姫乃」

 制服の襟を整えながら、椿が振り向いた。

「ペア、解消って言ったけど……やっぱ取り消し。姫乃となら、卓球も……それ以外も、全部やり直したい」

 それは、椿なりの「もう逃げない」という意思表明だった。私は立ち上がり、椿の前に歩み寄った。

「……こっちこそ、諦める気なんてなかったよ」

 言葉を交わしながら、私たちは自然と笑っていた。
 もつれていた糸が、少しずつ解けていく感覚。恋人という名前に、まだ慣れていない不器用な私たち。
 だけどそれでも、少しずつ前に進んでいる気がした。

 外はもう朝の気配に包まれていた。何気ない日常が、この世界が、少しだけ変わったように感じる。
 二人並んでドアを開けて、朝の光の中へ踏み出す。もうペアでも、ただのルームメイトでもない。
 たった一人の「恋人」として、隣にいる。新しい関係の、はじまりだった。
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