異世界でも姉妹の仲は揺るぎません~包丁片手に英雄譚~

楠富 つかさ

文字の大きさ
20 / 20

エピローグ

しおりを挟む
 体感としてはだいたい五日ぶりくらいの我が家。

「おぉ、帰ってきた!!」
「無事でなにより、本当になによりだ」

 母と祖母に出迎えられて、帰ってきたという安堵感がやってくる。カレンダーを見ると出発した日から二日しか経ってないらしい。地球と異世界で時間の流れは違うらしい。

「異世界でごはん食べたばっかりだけど、家のごはんも食べたいよね」
「……うん、一番はお味噌汁」
「分かるぅ。あと先にお風呂入りたい」

 うちは食堂だから温泉旅行とかしたことないけど、いくらいい温泉に入ったとしても帰ったら取り敢えずお風呂に入りたがる……その気持ちが今めっちゃ分かる。

「お風呂沸かしてあげるけど、どっちから入る?」
「……二人で、入る」
「へぇ、雨月がそんなこと言うなんて珍しいわね」

 お風呂が沸くまでの間、向こうの世界での様子を母と祖母に話し始めた。ドラゴンの姿、弱点、切った時の手ごたえ、それに姿を変えた包丁のこと。流石にキスしたことは言わないけれど。

「本当に、二人とも無事に帰ってこれて良かったよ……」
「お母さん、心配かけてごめんなさい」
「あらためて、ただいま」
「おかえり、二人とも」
「さて、お風呂が沸いたようだから行ってらっしゃい」

 母たちに促されてお風呂場に向かう。向こうの世界での大きなお風呂に比べちゃえば本当に何分の一だよってくらいのサイズ感の我が家のお風呂。二人で入るとぎりぎりだろうか。脱衣所でちゃっちゃと服を脱いでお風呂場に入る。
 シャワーをささっと浴びてお互いの髪を洗う。やっぱり地球のシャンプーが一番だ。洗いっこしてるうちに身体も温まって、湯船に浸かる頃にはすっかりリラックスしていた。

「あー、気持ちいい。なんかこの感じ久しぶりだね」
「うん。気持ちいい」

 雨月の膝の間に私が座って後ろから抱かれるような体勢になる。耳元で雨月がささやく。

「晴日……好きだよ」
「私もだよ」

 異世界じゃなくて自宅での告白、なんだか気恥ずかしい。

「晴日の背中、きれい」
「そう? あんまり意識しないんだけど」
「触り心地もいい。すべすべしてる」
「ふふっ、ありがと」
「…………」
「どうしたの、雨月?」

 よりぎゅっと抱きしめるように熱を共有する。

「エレノアがね、教えてくれたの。あっちの世界には……女の子同士でも子供を産めるポーションがあるって」

 私が驚いて背筋がピンと伸びる。そのせいで雨月までびっくりしてしまったのだけれど、それが別れ際にエレノアから教わっていたことなのか。

「いつか、晴日の赤ちゃん……産みたい」

 私は身体をひねって、雨月に向き合う。肩に手を置いて見つめる。

「私もだよ。でも……それはもっと先かな」

 まだ高校生活だってあるし、調理師になるための学校だって行かなきゃいけない。このお店を守っていくためにも。
 私の答えに雨月は微笑んだ。

「……そっか、残念。でも、いつか必ず」
「うん、いつか絶対に」

 そっと唇を重ねる。

「「んちゅ、れろ、ぴちゃ」」

 異世界に行ったって私たちの関係は揺らがない。揺らがないどころか、もっと深く、強くなった。
 互いの唾液を交換しながら、私たちは何度も求め合った―――。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

処理中です...