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#1 恋人達の12月

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「斯波さん? まだ帰らないの?」
「あぁ、水藤さん。友達を待ってますから」
「2組はともかく、4組のホームルームが長いのって珍しいですね。では、ごきげんよう」
「はい、ごきげんよう」

 雪こそ降らないがここ数年で一番の寒さになるだろうと言われる立成15年の冬。私、斯波美羽奈は、廊下の窓から寒空を眺めつつ親友の細川御友里と畠山深由希を待っていた。私たちは空の宮市にある中高一貫の女子校、私立星花女子学園で勉強をしている。私と御友里と深由希は隣の橋立市にある系列の小学校からの仲で、中学からは寮に住んでいる。もっとも、星花の寮に四人部屋はないから、御友里と深由希がルームメイトで、私は隣の部屋で別のルームメイトと暮らしているのだが。私のルームメイトは高校から星花に来た子だからちょっと不安もあったけど、今はもうすっかり打ち解けて仲良しだ。とはいえ……幼馴染二人と私だけちょっと離ればなれなのは少し寂しい。まぁ、ほんの少しだけなんだけれど。だって三人とも部活には興味がなくって、普段から授業が終われば寮まで一緒に帰るのだから。少しぼんやりとしていると、両隣のクラスから椅子のがたがたと動く音が聞こえてきた。それから―――

「御友里ちゃん!」
「深由希!」
「「ぎゅう!!」」

 2組から飛び出した御友里と4組から飛び出した深由希が熱く抱擁を交わす。この二人は12月になるとすごくイチャイチャする。いつもそうだと言われればそうなんだけれど、12月は二人にとって重要な一ヶ月ということだ。なにせ、二人がこういう関係だと告げられたのは去年のまさしくクリスマス。まぁ、私も淑女たる者、祝福してあげるのが道理なのですよ。こういうの、私も好きだし。見る分にはね。

「二人とも、帰るよ!!」

 廊下の真ん中でも構わずキスをする関係である二人を止められるのは私だけ。見慣れている人でも止めに入る人はいないからね。ピンク色だけど百合色な空間を割るのは寂しいけれど、師走の廊下はあまりに寒い。いや、心の中は温かいのだけど。抱擁を解いた二人は腕を組んで返事をする。

「「はーい!」」

 ソプラノとアルトのデュオを聴き、自然と口角が上がる。二人に前を歩かせて、私は後ろから眺める。長身でスレンダーな御友里にトランジスタグラマーな深由希が抱きつくと、見ていて本当に微笑ましい。似てはいないけど、本当にお似合いな二人だ。さてと、寮に帰ろうか。まぁ、私のルームメイトは部活に参加しているから帰ったら一人なんだけどね。でもまぁ、ちょっとした秘密があるといいますか、ふふふ。
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