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初めての料理
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しばらくキッチンで妖精たちと戯れながら、どんな料理が作れるか考えていると、ふと窓の外に目をやった。そろそろ夕方に近いのか、木々の間から射す光が少しだけ柔らかくなっている。妖精たちは、そんな私に気づいて何かを言いたげにキラキラと目を輝かせている。
「どうしたの? 外に行ってみたほうがいいってこと?」
私が声をかけると、妖精たちは嬉しそうにくるくると宙を舞った。どうやら「散歩に行こう」とでも言っているらしい。なんとなくその気になり、カゴを手に持ってみた。この世界の森の中を歩くなんて、なんだか冒険心をくすぐられる。
玄関を開けるとふわっと風が頬を撫で、爽やかな空気が広がった。家を出た瞬間から木々の香りが濃く、草の香りや、どこかかすかに甘い香りも混ざっている。ふと見ると、道端に小さな野草やカラフルな花が点々と咲いていて、妖精たちは次々とそれを指差し、楽しげに見せてくれる。
「これ、何だろう? キッチンで見たハーブに似てるね」
しゃがんでよく見ると、細かな葉っぱが少しピリッとした香りを放っている。きっと料理に使えるのだろう。カゴにそっと摘んでいくと、妖精たちもあちこちで新しい植物を見つけては、ここだよ、と案内してくれる。
そんな調子で夢中になって家の正面の森を散策しているうちに、気づけばカゴはさまざまなハーブや木の実でいっぱいになっていた。こんな風にのんびりと自然の中を歩き、必要なものをひとつひとつ集めていく生活なんて、今まで考えたこともなかったけれど、なんだか心地いい。
「さて、そろそろ戻って、これを夕飯にしようか」
妖精たちはまた楽しそうに飛び回りながら、家のほうへと導いてくれた。カゴの中を覗くと、今日の料理にぴったりの素材がそろっている。この自然の恵みをいただいて、今夜は何を作ろうかな、と考えながら、ゆっくりと家への道を歩いた。
家に戻ると、妖精たちがキッチンのあちこちに集まり、まるで私の料理を楽しみにしているかのように期待に満ちた目で見つめてくる。カゴから摘んできたハーブや木の実を取り出して並べ、私も気持ちを切り替えて調理を始めることにした。
キッチンはなんとなく地球のものと似通った雰囲気があるし、調理器具なんかもわりと揃っている。妖精さんたちが辺りを飛び交っていてなんだかとってもファンシーだけど。
「さぁ、まずはこれを刻んで……お、香りがすごく良いなぁ」
ハーブの葉を指先でつぶすと、ふんわりとした甘い香りが広がり、思わず顔がほころぶ。小さな木の実も少しだけかじってみると、ほのかな甘酸っぱさが口の中に広がり、何とも言えない新鮮な味わいだった。見知らぬ素材に少し戸惑いながらも、自然に身を任せて料理を進める。
キッチンにはスイッチみたいに不思議な輝きを湛えた石が嵌っていて、そこに妖精さんが近づくと水が出たり火が点いたりする。妖精さんに協力してもらいながら、煮込み用の鍋に水を張り、火にかける。ふわりと香草を入れてみると、青々とした色と香りが立つ。
ほどなくして妖精さんたちが興味深そうに湯気の立つ鍋を覗き込み始めた。彼らの様子が微笑ましくて、まるで小さな子どもたちと一緒に料理をしているような気分になる。
「どう? いい匂いでしょ?」
妖精たちは「うんうん!」と嬉しそうに頷き、さらに火が通っていく香りにふわふわと踊るように宙を舞う。私は一度味を見て、少しだけ塩を加え、そっとかき混ぜる。この土地のハーブや木の実が織り成すスープは、今まで経験したことのないまろやかな味に仕上がりそうだ。
やがてスープがぐつぐつと煮え始め、心地よい香りが部屋に充満してきた。妖精たちは鼻をひくひくさせながら、テーブルの周りで小さな器を用意してくれている。
「ふふ、準備がいいんだね。よし、できあがり!」
私は鍋を火から下ろし、用意してくれた小さな器にスープを注いでいった。妖精たちは嬉しそうにそれを受け取り、まるで乾杯するかのように一斉に顔を寄せ合って、ぴったり息を合わせてスープをすすり始める。
「どうかな?」
私が尋ねると、妖精たちは目を輝かせ、次々に美味しそうに頷いてくれた。その様子に私も安心し、そっと一口味見してみる。優しい甘みと、少しだけほろ苦いハーブの風味が口の中で広がり、温かいぬくもりが体中に染み渡るようだ。
「本当に……美味しい」
自分でも驚くくらい、心がほっと安らぐ味だった。言ってしまえば塩と葉っぱのスープなのに、なんでだろう……? ふふ、自分の常識だけで考えちゃいけないのかもね。あの塩になにか秘密があるかもしれないし、妖精さんの協力があったからかもしれないし、難しいことを考えるのはやめにして、今は美味しいスープを味わうことに集中しよう。
私は妖精たちと一緒に、ゆっくりとスープを味わいながら、この異世界での静かで穏やかな時間をかみしめていった。
「どうしたの? 外に行ってみたほうがいいってこと?」
私が声をかけると、妖精たちは嬉しそうにくるくると宙を舞った。どうやら「散歩に行こう」とでも言っているらしい。なんとなくその気になり、カゴを手に持ってみた。この世界の森の中を歩くなんて、なんだか冒険心をくすぐられる。
玄関を開けるとふわっと風が頬を撫で、爽やかな空気が広がった。家を出た瞬間から木々の香りが濃く、草の香りや、どこかかすかに甘い香りも混ざっている。ふと見ると、道端に小さな野草やカラフルな花が点々と咲いていて、妖精たちは次々とそれを指差し、楽しげに見せてくれる。
「これ、何だろう? キッチンで見たハーブに似てるね」
しゃがんでよく見ると、細かな葉っぱが少しピリッとした香りを放っている。きっと料理に使えるのだろう。カゴにそっと摘んでいくと、妖精たちもあちこちで新しい植物を見つけては、ここだよ、と案内してくれる。
そんな調子で夢中になって家の正面の森を散策しているうちに、気づけばカゴはさまざまなハーブや木の実でいっぱいになっていた。こんな風にのんびりと自然の中を歩き、必要なものをひとつひとつ集めていく生活なんて、今まで考えたこともなかったけれど、なんだか心地いい。
「さて、そろそろ戻って、これを夕飯にしようか」
妖精たちはまた楽しそうに飛び回りながら、家のほうへと導いてくれた。カゴの中を覗くと、今日の料理にぴったりの素材がそろっている。この自然の恵みをいただいて、今夜は何を作ろうかな、と考えながら、ゆっくりと家への道を歩いた。
家に戻ると、妖精たちがキッチンのあちこちに集まり、まるで私の料理を楽しみにしているかのように期待に満ちた目で見つめてくる。カゴから摘んできたハーブや木の実を取り出して並べ、私も気持ちを切り替えて調理を始めることにした。
キッチンはなんとなく地球のものと似通った雰囲気があるし、調理器具なんかもわりと揃っている。妖精さんたちが辺りを飛び交っていてなんだかとってもファンシーだけど。
「さぁ、まずはこれを刻んで……お、香りがすごく良いなぁ」
ハーブの葉を指先でつぶすと、ふんわりとした甘い香りが広がり、思わず顔がほころぶ。小さな木の実も少しだけかじってみると、ほのかな甘酸っぱさが口の中に広がり、何とも言えない新鮮な味わいだった。見知らぬ素材に少し戸惑いながらも、自然に身を任せて料理を進める。
キッチンにはスイッチみたいに不思議な輝きを湛えた石が嵌っていて、そこに妖精さんが近づくと水が出たり火が点いたりする。妖精さんに協力してもらいながら、煮込み用の鍋に水を張り、火にかける。ふわりと香草を入れてみると、青々とした色と香りが立つ。
ほどなくして妖精さんたちが興味深そうに湯気の立つ鍋を覗き込み始めた。彼らの様子が微笑ましくて、まるで小さな子どもたちと一緒に料理をしているような気分になる。
「どう? いい匂いでしょ?」
妖精たちは「うんうん!」と嬉しそうに頷き、さらに火が通っていく香りにふわふわと踊るように宙を舞う。私は一度味を見て、少しだけ塩を加え、そっとかき混ぜる。この土地のハーブや木の実が織り成すスープは、今まで経験したことのないまろやかな味に仕上がりそうだ。
やがてスープがぐつぐつと煮え始め、心地よい香りが部屋に充満してきた。妖精たちは鼻をひくひくさせながら、テーブルの周りで小さな器を用意してくれている。
「ふふ、準備がいいんだね。よし、できあがり!」
私は鍋を火から下ろし、用意してくれた小さな器にスープを注いでいった。妖精たちは嬉しそうにそれを受け取り、まるで乾杯するかのように一斉に顔を寄せ合って、ぴったり息を合わせてスープをすすり始める。
「どうかな?」
私が尋ねると、妖精たちは目を輝かせ、次々に美味しそうに頷いてくれた。その様子に私も安心し、そっと一口味見してみる。優しい甘みと、少しだけほろ苦いハーブの風味が口の中で広がり、温かいぬくもりが体中に染み渡るようだ。
「本当に……美味しい」
自分でも驚くくらい、心がほっと安らぐ味だった。言ってしまえば塩と葉っぱのスープなのに、なんでだろう……? ふふ、自分の常識だけで考えちゃいけないのかもね。あの塩になにか秘密があるかもしれないし、妖精さんの協力があったからかもしれないし、難しいことを考えるのはやめにして、今は美味しいスープを味わうことに集中しよう。
私は妖精たちと一緒に、ゆっくりとスープを味わいながら、この異世界での静かで穏やかな時間をかみしめていった。
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