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第二章 魔神域篇

振り返る余裕なんてない

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「じゃあ、仕切り直しといこうか」

テリルはそう言って後方に跳んだ。その手には一振りの剣が握られていて、淡く発光している。

「あ、ボクの魔法の特性を言ってなかったね。ボクの魔法は物理属性なんだよ。本来なら魔法は非物理属性、まぁ火とか水とかなんだけどね。ボクは、それらが使えない代わりに斬撃と貫通、そして破砕の魔法が使えるんだ」
「それって無属性と何が違うんだ?」

 悠々と語るテリルに俺は疑問をぶつけてみた。

「無属性魔法はね、エネルギーや純粋な力の瞬間的な具現化なんだよ。だから、ボクの武器みたいに形を何時間も保てない」

 そういうことか。俺が理解するのと語り終えたテリルが踏み込んでくるのは同時だった。迫りくる刃を槍の刃で受け止める。その時に気付いた。槍に施されているアーチ型の装飾に指輪が嵌まっていることに……いける!

「極光フォーム!!」

 迸る閃光に飛び退くテリル。俺の握っていた槍の重みが変化していくのが分かる……。光が収束すると、そこに握られているのは極光を灯す剣。

「やっぱりその剣に女神の力を感じる……。いくよっ!!」

 跳び上がって剣を振り下ろすテリル……。だが、その軌道がまるでスローモーションのように見える。弾くのは容易い。

光波一閃こうはいっせん!」

 おびただしい光の奔流に薙ぎ払われたテリルは辛うじて受け身を取ったが流石にもう攻撃をしてくる程の力は残ってはいないだろう。

「いやはや、ここまで強いなら魔神に対抗できるかもしれない。ねぇ、ボクと一緒に魔神を斬ってくれないか?」

 一瞬だけ契約して何かにさせられるのかと考えてしまった……。いや、女の子じゃないし、既に魔法使いだからそれはないのだが。さて、ここで気にすべきは魔神というワードだろうか。魔王を統べる神なのか。そして、テリルはそいつを倒そうとしている……。いや、その前に……

「俺は仲間達を探さなくてはならないし、魔神には興味もない」
「それはキミの出現と同時に発せられた光の魔力と闇の魔力の二人のことかい? 光の方はそう遠くない場所にいる。でも……闇の方は魔神の根城にいるようだよ?」

 サリアが魔神の元に……。いや、アイツは魔王の娘……もしかしたら面識があるのかもしれない。それより、今は唯燈が先決だ。

「その光の魔力、追えるか?」

 テリルは頷くと、遠くに霞む城を指差した。恐らく、あれが魔神の根城なのだろう…。きっと唯燈はあれを目印に進んでいるはずだ。でも、それなら追い付くのは厳しいように思えるのだが……。

「向こうはかなり消耗しているみたい。こっちが急げば問題なく追いつける」

 ……俺もかなり消耗しているのだが…取り敢えず極光フォームを解除しよう。極光を灯していた剣を杖に戻し進み始める。一応、自然治癒力と体力を上げる魔法を使ってみた。ま、俺の魔法は攻撃特化型だから気休め程度にしかならないだろうがな。
 それから一時間近く跳んだり走ったりして、魔神域と呼ばれるこの魔界の一地域を駆けた。この世界には先住民のような人種は魔族のみで、テリルも含めて人々は異世界から飛ばされてきたらしい。その転移に魔族の血筋が関係しているらしく、魔神を倒せば帰れると迷信のように話が出回っているらしい。実際には魔神が倒されたことも誰かが元の世界に戻ったこともないという。

「まあ、俺もサリアが唱えた魔術でこっちに来たからな。その話はあながち間違ってはいないようだな。ただ、真実は魔神を倒さないと分からないか……」
「そうなりますね。お、ユフィさんの魔力が近付いてきました。ただ……魔物との戦闘中みたいです!」

なに……待ってろよ唯燈!
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