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第四章 冥王決定戦篇

冥王決定戦 決勝トーナメント 三回戦

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参加者は100を切った。一回戦終わるたびに、次の試合とのインターバルは縮まる。二回戦を昨日終えたばかりだというのに、今日はもう三回戦。これでは魔力掌握の札を作る猶予すらない。ましてや身を休める時間などもっとない。

『昨日の試合では剣技をも見せたクライト選手、三回戦の相手は冥界に現れた死神ホーザン選手だ!』

ここから先の試合はある意味サバイバルだ。対戦中に両者が戦闘不能になっても主催者には何ら関係ない。

「久々に嫌な予感……」

目の前にいるのは質素な甲冑に身を包んだ白骨。ただしその骨は太く、剣の一撃では決して折れることはないだろう。今回の対戦相手、ホーザンだ。背と腰に剣を携えている。どんな戦闘スタイルなのだろうか。

『試合、開始!』

聞きなれてきた合図と共に、クロディアンを剣形態へ変化させる。

「光波斬!」

剣から迸る光の魔力を衝撃波へ変換する技で牽制。だがその衝撃波は、ホーザンが腰から抜いた剣により弾かれる。

「せああ!」

光波を弾くために右下へ振られた剣。隙だと判断して一気に踏み込み上段から袈裟斬りにしようと剣を振るう。

「効かん!」

声帯のない人骨が、何処からか声を発し、俺の剣を左手で受け止める。奴の右手に握られた剣が俺の横腹を狙ってくるが、ホーザンの顎を蹴ることで回避。ついでに炎弾を一発打ち込んだ。

「我に更なる力を! アクセルフォース!」

……アクセルフォースを詠唱して使うのは初めてな気がする。だがそんなことはどうでもいい。開いた間合いを一気に詰めて、剣戟の下に沈める!

「瞬光裂牙斬しゅんこうれつがざん!」

輝きを増した剣から繰り出される一撃は、確かにホーザンの鎖骨から肋骨にかけて命中した。実際、質素な甲冑の砕ける音もした。骨の砕ける音も、だ。

「若造が……はぁあ!」

だがそれだけでは撃破ならず、ホーザンは再び剣を構える。俺は一度飛び退き、相手の出方を見る。そもそも、若造なんて言い方をするような爺くさい
声ではないのだがな。

「ふん!」

垂直に振り下ろされた剣からは闇属性の衝撃波が繰り出され、真っ直ぐこちらに向かっている。それを躱そうとしたのだが……。

「その一撃を逃れることは出来ん!」
「追尾系か! 詠唱破棄、リジェクトウォール!」

俺が進むほうへ衝撃波も続く。ホーミング性能をもつ衝撃波を相手に、回避は不可能と判断し、障壁魔法を発動する。

「せりゃあ!!」

何合も剣を合わせながら、俺たちはダメージを負っている。俺の体にも紅い筋が走り、ホーガンの骨も何箇所かは亀裂が走り、肋骨に至ってはとっくに砕けている。

「強者、出会えたことを感謝だ。抜かせてもらう、二振り目!」

背中の剣も引き抜き、二刀を構えるホーガン。厚みも形状も異なる剣を向けられ、自身も形状が違う二刀で戦った身であることを再確認する。

「二刀……か」

ブライトスターを思い浮かべたが、ここで切り札を出すわけにもいかない。

「陽槍!」

相手の間合いに入らないために、クロディアンを槍形態にする。

「斬牙! 爆砕だ!」

斬撃から突きを繰り出す技を放ち、そこに生じた隙を狙って札を叩きつける。札が術式を完成させると、炎属性の爆発術が放たれる。

「ぐぁぁぁ!!!」

流石に大爆発を絶え凌ぐ強度が骨にあるわけもなく、勝負がついた。否、つく筈だったのだが。

「ふはははは!! いいぞ、いいぞ!!」

胸骨も肋骨も失ったスケルトンは尚も両の手に剣を持ち、立ち上がる。

『信じられない強度を誇るホーザン選手! あの大爆発を耐え抜いた!!』

久々に実況が口を開いた。確かに……信じられない強度だ。どんな骨密度だよ。そもそも、どんな生前だったのやら。だが、そんなことはどうでもいい!!

剛瞬連破槍ごうしゅんれんはそう!!」

どこを潰せば勝てるのか分からない。だがしかし、俺は頭蓋骨と頚骨の間接部分を狙って槍を放つ。これが決まれば……。

「――!! させん!!」

今、確実に奴は焦りを感じたはず。そこが弱点なのだろう。まぁ、首と胴体が分断されて尚、戦闘を続行できるようなら勝ち目がないと思ってもしょうがなさそうだが。

「魔力掌握、フローズンショット」

魔神域でテリルが使っていた投げナイフを元に生み出した魔術。精度が低いことを除けば優秀な術なのだが……今回ばかりは精度が求められるのだが。札を握る左手の指先に力を込めて、術式を完成させる。

「飛び道具か!?」

双剣も用いて氷柱サイズの刃を弾くホーザン。だが、彼の剣もまた、骨と同様にクラックが入っている。

「ここだ、極光!」

クロディアンを再び剣形態に戻し、剣先に力を溜めて上向きに振りぬく。揺らめくことのないオーロラがホーザンを襲う。だが、神経があることすら異常である彼は、素早い反応で防御姿勢をとる。それでも……。

「なぬ!?」

形有る物は壊れる。時は戻らない。それはあらゆる次元における真理であり、冥界にも通用することだ。ホーザンが十字を作るように構えていた剣は二本とも極光の衝撃に耐え切れずに折れた。折れる寸前で横へ飛び、極光の衝撃をダイレクトに受けることはなかったが、

「降参しろ」

ホーザンの首筋に剣を当てて降参を促す。

「断る」

返事はあっさりしたものだった。

「剣を失った剣士を斬りたくない」
「それは小僧の勝手だ」
「そうかよ……。じゃあな」

最後まで意志を貫く骸骨剣士に弔いを。常夜の月明かりの下、頭蓋が弧を描き地に落ちる。また一つ、次元から存在が失われた。

『勝者! クライト・ディアライト!!』
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