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ドレスアップ
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入浴を終えたサフィアはメイドたちにきっちりと水気を拭かれ髪を乾かした後、別邸の衣装部屋へとやってきた。婚姻の儀式で着用するドレスの調整を始めるため、祖母、女官長ミーア、そして若いメイドたちが集まった部屋に向かった。
部屋には白いシルクのカーテンが穏やかな風に揺れ、外の光が柔らかく差し込んでいた。室内は高い天井と重厚な家具で囲まれ、優雅な雰囲気が漂っている。ドレスの調整を行うには完璧な環境だ。
サフィアは鏡の前に立ち、まずは祖母から手渡されたドレスを広げた。それは母方の家系から受け継がれてきた特別なもの。サフィアが手に取ると、素材の良さと細やかな刺繍が際立っていたが、多少の時を経て少しだけ型が崩れていることがわかる。ドレスは薄い金色と銀の刺繍が施され、複雑でありながら上品なデザインが光る。
「これが代々受け継がれてきたドレスなのですね」
サフィアは少し緊張しながら尋ねた。祖母はサフィアに優しく微笑みかけ、すぐに返事をした。
「もちろんよ、サフィア。このドレスはただの衣装じゃない。あなたが結婚するという特別な日を彩るものだから、今のあなたにぴったりに直さなくてはね」
祖母は軽く頷き、手を広げてメイドたちに指示を出した。
「さぁあなたたち、サフィアのサイズにぴったり合うように直すのよ」
メイドたちは素早く動き、手に持った巻き尺でサフィアのサイズを測っていく。ミーアも近くに立ち、丁寧にサフィアの肩幅を測ったり、二の腕の太さを測ったりする。その様子を見ながら、祖母がサフィアに問う。
「サフィアは少し華奢ね。ちゃんと食べてたの?」
「え、えぇ。……確かに、同年代の子に比べると、少し、寂しいかもしれないわ」
胸元に手を当てながら零すサフィア。その表情を見逃さなかったミーアは、ドレスの胸元に薄く布を重ねる提案をする。
「そうね、それで進めてちょうだい」
採寸が完了し、ドレスのアレンジについての相談も終わると、祖母が首から提げていたとある鍵をサフィアに手渡す。
「ドレスの調整が済んだら、次はアクセサリーよ。これは宝飾庫の鍵」
祖母が声をかけると、サフィアは少し驚きながらも頷いた。アクセサリーを選ぶのもまた大切な準備の一部だ。
サフィアは、衣装部屋の隅に置かれた大きな金庫に近づき、鍵を差し込む。
金庫の中には数多くの宝石が並び、それぞれが異なる色を放っている。だが、この世界における宝石は、単に美しさを競うものではない。特に貴族の間では、その宝石が持つ逸話や歴史も重要な意味を持つ。
サフィアは棚に並ぶ数々の宝石を見て、少し考えた後、祖母に尋ねた。
「おばあ様、この日のために選ぶべき宝石は、どれが相応しいかしら?」
「それはあなた自身で決めるのよ」
諭すように言われ、サフィアは大きく深呼吸してから一つの宝石に手を伸ばした。吸い寄せられるように選んだそれは、一粒の大きなサファイアがペンダントトップとして輝く、ネックレスだった。サファイアは深い青色で、まるで空の一部を切り取ったかのような美しさを湛えている。
「これは私も祖母から受け継いだジュエリーよ」
祖母は微笑んで言った。
「これは、侯爵家四女だった祖母がどうしてもと言って婚姻時に嫁ぎ先へ持ち込まれたものよ。嫁ぎ先が男爵位だったことから過分な逸品と言われていたの。でも、いつかこの宝石を持つ家が再び侯爵家になりますようにと、ハディアン子爵家に嫁ぐ際に私が祖母から託されたの。私は男の子しか生まなかったから、娘を送り出す機会がなかったけど、こうしてあなたが伯爵家に嫁ぐことになって、これを選んでくれた。それが、なんだかとっても嬉しいわ」
サフィアはその言葉に心を打たれ、しばらくそのサファイアを手に取って眺めた。その青の深さに吸い込まれそうになる感覚を覚えながら、
「これを身に着けることができるのは光栄です」
と素直に感謝の気持ちを伝えた。
「このサファイアは、家族の名誉を背負っているという証でもあるから、慎重に使わなければならないわ」
サフィアはその言葉をしっかりと胸に刻んだ。ウィスティオ家との婚姻において、この宝石はただの装飾ではなく、重い意味を持っているのだと再認識した。手に取ったサファイアは、思っていた以上に大きな責任を伴うものだと感じた。
「ふふ、あなたの父親は産まれたばかりのあなたの瞳に、この宝石の色を思い出して、サフィアと名付けたそうよ」
「そ、そうなのですか!? ……初めて知りました」
サフィアは深く息をついてから、祖母に向かって静かに言った。
「このサファイアを身に着けます。家族と、自分自身の誇りの証として」
「えぇ、これはあなたにこそ相応しいわ」
サフィアの蒼く澄んだ瞳に祖母の温かな笑みが映った。
部屋には白いシルクのカーテンが穏やかな風に揺れ、外の光が柔らかく差し込んでいた。室内は高い天井と重厚な家具で囲まれ、優雅な雰囲気が漂っている。ドレスの調整を行うには完璧な環境だ。
サフィアは鏡の前に立ち、まずは祖母から手渡されたドレスを広げた。それは母方の家系から受け継がれてきた特別なもの。サフィアが手に取ると、素材の良さと細やかな刺繍が際立っていたが、多少の時を経て少しだけ型が崩れていることがわかる。ドレスは薄い金色と銀の刺繍が施され、複雑でありながら上品なデザインが光る。
「これが代々受け継がれてきたドレスなのですね」
サフィアは少し緊張しながら尋ねた。祖母はサフィアに優しく微笑みかけ、すぐに返事をした。
「もちろんよ、サフィア。このドレスはただの衣装じゃない。あなたが結婚するという特別な日を彩るものだから、今のあなたにぴったりに直さなくてはね」
祖母は軽く頷き、手を広げてメイドたちに指示を出した。
「さぁあなたたち、サフィアのサイズにぴったり合うように直すのよ」
メイドたちは素早く動き、手に持った巻き尺でサフィアのサイズを測っていく。ミーアも近くに立ち、丁寧にサフィアの肩幅を測ったり、二の腕の太さを測ったりする。その様子を見ながら、祖母がサフィアに問う。
「サフィアは少し華奢ね。ちゃんと食べてたの?」
「え、えぇ。……確かに、同年代の子に比べると、少し、寂しいかもしれないわ」
胸元に手を当てながら零すサフィア。その表情を見逃さなかったミーアは、ドレスの胸元に薄く布を重ねる提案をする。
「そうね、それで進めてちょうだい」
採寸が完了し、ドレスのアレンジについての相談も終わると、祖母が首から提げていたとある鍵をサフィアに手渡す。
「ドレスの調整が済んだら、次はアクセサリーよ。これは宝飾庫の鍵」
祖母が声をかけると、サフィアは少し驚きながらも頷いた。アクセサリーを選ぶのもまた大切な準備の一部だ。
サフィアは、衣装部屋の隅に置かれた大きな金庫に近づき、鍵を差し込む。
金庫の中には数多くの宝石が並び、それぞれが異なる色を放っている。だが、この世界における宝石は、単に美しさを競うものではない。特に貴族の間では、その宝石が持つ逸話や歴史も重要な意味を持つ。
サフィアは棚に並ぶ数々の宝石を見て、少し考えた後、祖母に尋ねた。
「おばあ様、この日のために選ぶべき宝石は、どれが相応しいかしら?」
「それはあなた自身で決めるのよ」
諭すように言われ、サフィアは大きく深呼吸してから一つの宝石に手を伸ばした。吸い寄せられるように選んだそれは、一粒の大きなサファイアがペンダントトップとして輝く、ネックレスだった。サファイアは深い青色で、まるで空の一部を切り取ったかのような美しさを湛えている。
「これは私も祖母から受け継いだジュエリーよ」
祖母は微笑んで言った。
「これは、侯爵家四女だった祖母がどうしてもと言って婚姻時に嫁ぎ先へ持ち込まれたものよ。嫁ぎ先が男爵位だったことから過分な逸品と言われていたの。でも、いつかこの宝石を持つ家が再び侯爵家になりますようにと、ハディアン子爵家に嫁ぐ際に私が祖母から託されたの。私は男の子しか生まなかったから、娘を送り出す機会がなかったけど、こうしてあなたが伯爵家に嫁ぐことになって、これを選んでくれた。それが、なんだかとっても嬉しいわ」
サフィアはその言葉に心を打たれ、しばらくそのサファイアを手に取って眺めた。その青の深さに吸い込まれそうになる感覚を覚えながら、
「これを身に着けることができるのは光栄です」
と素直に感謝の気持ちを伝えた。
「このサファイアは、家族の名誉を背負っているという証でもあるから、慎重に使わなければならないわ」
サフィアはその言葉をしっかりと胸に刻んだ。ウィスティオ家との婚姻において、この宝石はただの装飾ではなく、重い意味を持っているのだと再認識した。手に取ったサファイアは、思っていた以上に大きな責任を伴うものだと感じた。
「ふふ、あなたの父親は産まれたばかりのあなたの瞳に、この宝石の色を思い出して、サフィアと名付けたそうよ」
「そ、そうなのですか!? ……初めて知りました」
サフィアは深く息をついてから、祖母に向かって静かに言った。
「このサファイアを身に着けます。家族と、自分自身の誇りの証として」
「えぇ、これはあなたにこそ相応しいわ」
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