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#6 花弁は高く風に舞う
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翌日の放課後、暁海はやはり地紋とかいう転校生の案内のために遅くなるようだった。
やや駆け足気味に帰宅した俺は、悪い考えを追い払うように全力でオムライス作りにとりかかった。暁海に想いを告げる覚悟はできた……と思う。少なくとも、今の関係は崩れるだろう。だが、本当に暁海が俺に好意を抱いていないのかを、確認したい。
「これ以上引きずるわけにはいかないよな」
でも、それを行う時点で、俺たちの間にズレが生じるのではなかろうか。一本でも抜いてしまったら崩れるジェンガのように、ギリギリの状態だとしたら……手詰まり感が否めない。
けれどもいい方向に、もし俺が望む方向に転がるとしたら……いや、これは期待や願いじゃなくて妄想だ。妄想癖は昔からあったのも否定できない。ライトノベルの主人公に自身を重ね…その時、ヒロインは大抵アイツだった。主人公にとってのヒロインはいつも暁海だった。それは今でも同じだ。だからこそ……ここではっきりとさせたい。そうしなきゃいけないんだ!
「お兄ちゃん、覚悟を決めた顔してる。カッコいいよ。まぁ、振られると思うけど」
「やってみなきゃ分からないだろ!」
居ても立っても居られず、俺は暁海に電話を掛けた。
『もしもし~。どうしたの、寿杜?』
「えっと……暁海、今どのへんだ?」
『え? ちょうど学校でたとこ。なんか買っていこうか?』
「いや、ちょっと話したいことがあるんだ。寿理には聞かれたくなくてさ、ほら……あの公園で待っててくれないか?」
『オッケー。ちょっと寒いから早めにね』
「分かったよ」
寿理には、オムライスが出来上がってるから適当に食べるよう言って玄関へ向かう。
そんな俺を寿理が引き止めた。
「お兄ちゃん!」
「なんだ!?」
「寿理はお兄ちゃんのこと、大好きだからね! これだけは覚えておいてよ!」
「あ、あぁ。分かってるよ! 行ってくる!」
「頑張って。行ってらっしゃい」
あれだけ振られると連呼しておきながら、最後は応援してくれるし背中を押してくれる寿理。そんな妹に見送られ、俺は思い出の多い児童公園へ向かった。
「お待たせ、暁海」
太陽は沈みかけ、辺りを橙に染めている。時間も時間なため、周囲に子供はいない。ブランコに座っていた暁海が俺の側まで歩み寄る。
「そんなに待ってないよ。で、急に呼び出してどうしたの?」
単刀直入に、俺は話を切り出す。本当はもっと話したいことがある。でも……巧く話せないんだ。
「暁海は……俺のことをどう思っているんだ?」
「どうって……やっぱり、幼馴染みかなぁ。気の置けない親友って感じ? それとも……寿理ちゃんも含めて三人で兄妹かなぁ。寿杜お兄ちゃんって呼んであげようか?」
「茶化さないでくれ……」
ごめんと笑う暁海、何となくだが寿理が予想していたことが事実に思えてきた。
だから、もっと素直に言わないと……。
「暁海! 俺は……親友以上になれないの……か?」
言葉に勢いがない。尻すぼみになってしまっている。暁海は昔からマイペースでおっとりしている。でも……それが時に、つかみどころがないように感じられる。今がまさにそれだ。どこか飄々としていて、話を聴いているかさえも定かでない。
「ねぇ? 寿杜は私の……なに? 幼馴染みでしょ? 彼氏でも、ましてや旦那でもない」
聴きたくなかった。その言葉だけは。甘くて優しかったその声が、今は何よりも凶器に思える。事実だ……暁海が言った言葉は全て事実なんだ。でも……今までの時間を全てなかったことにされたような、俺たちの関係を一蹴された気分になる。それだけは……イヤなんだよ。
「確かにそうだよ。俺は暁海の彼氏でも何でもない。だがな……俺はお前が大好きなんだよ!」
何年も言えなかった言葉が静寂に響く。それでも、暁海は普段通りの表情だった。
「やっぱりそうなんだ。でもね、私は寿杜を恋愛対象に思えない。そう……気持ちは嬉しいけど、何かが違うの」
答えはある意味では想定の範囲内だ……納得はできないが。
「俺たちはずっと一緒だった。なのに、どうしてこれからも、一緒にいたいと思ってくれないんだよ!?」
そう、理由を聞かないと納得できない。だって……理由もなしに断られるなんて……理不尽じゃないか。そんなの認めたくない。
「別に女の子が好きとか、あるいはどっちも好きにならないとか、そういうのじゃない。いつかは彼氏ができるのかなとか思ってるけど、それは寿杜じゃない。寿杜には、いつか私が誰かと結ばれるときに、祝福してほしいんだ。だから、今日のこれは無かったことにしよう」
「どういう……意味だよ?」
声が震えているのが分かる。怒りなのか悲しみなのか。負の感情が渦を巻いている……。俺のこの感情まで、無かったことにしようって言うのかよ。
「そのままの意味だよ。寿杜とはこれまで通りの関係でいたい。ねぇ寿杜……夜空ちゃんを好きになってよ。私なんか忘れて。ね? それが幸せなんだよ。ほら、一緒に寿理ちゃんのところへ帰ろう?」
「いや、少し一人にしてくれ。……その、なんだ、オムライスは作ってあるから、好きなだけ食ってくれ」
「うん……その、寿杜。また明日」
そう言って暁海は公園を……俺の元から去っていった。力無い足取りで、さっきまで暁海がいたブランコに座り込む。涙すら出ない……って、思いたかった。現実には……視界が湿っていき、頬に暖かな雫が伝った
やや駆け足気味に帰宅した俺は、悪い考えを追い払うように全力でオムライス作りにとりかかった。暁海に想いを告げる覚悟はできた……と思う。少なくとも、今の関係は崩れるだろう。だが、本当に暁海が俺に好意を抱いていないのかを、確認したい。
「これ以上引きずるわけにはいかないよな」
でも、それを行う時点で、俺たちの間にズレが生じるのではなかろうか。一本でも抜いてしまったら崩れるジェンガのように、ギリギリの状態だとしたら……手詰まり感が否めない。
けれどもいい方向に、もし俺が望む方向に転がるとしたら……いや、これは期待や願いじゃなくて妄想だ。妄想癖は昔からあったのも否定できない。ライトノベルの主人公に自身を重ね…その時、ヒロインは大抵アイツだった。主人公にとってのヒロインはいつも暁海だった。それは今でも同じだ。だからこそ……ここではっきりとさせたい。そうしなきゃいけないんだ!
「お兄ちゃん、覚悟を決めた顔してる。カッコいいよ。まぁ、振られると思うけど」
「やってみなきゃ分からないだろ!」
居ても立っても居られず、俺は暁海に電話を掛けた。
『もしもし~。どうしたの、寿杜?』
「えっと……暁海、今どのへんだ?」
『え? ちょうど学校でたとこ。なんか買っていこうか?』
「いや、ちょっと話したいことがあるんだ。寿理には聞かれたくなくてさ、ほら……あの公園で待っててくれないか?」
『オッケー。ちょっと寒いから早めにね』
「分かったよ」
寿理には、オムライスが出来上がってるから適当に食べるよう言って玄関へ向かう。
そんな俺を寿理が引き止めた。
「お兄ちゃん!」
「なんだ!?」
「寿理はお兄ちゃんのこと、大好きだからね! これだけは覚えておいてよ!」
「あ、あぁ。分かってるよ! 行ってくる!」
「頑張って。行ってらっしゃい」
あれだけ振られると連呼しておきながら、最後は応援してくれるし背中を押してくれる寿理。そんな妹に見送られ、俺は思い出の多い児童公園へ向かった。
「お待たせ、暁海」
太陽は沈みかけ、辺りを橙に染めている。時間も時間なため、周囲に子供はいない。ブランコに座っていた暁海が俺の側まで歩み寄る。
「そんなに待ってないよ。で、急に呼び出してどうしたの?」
単刀直入に、俺は話を切り出す。本当はもっと話したいことがある。でも……巧く話せないんだ。
「暁海は……俺のことをどう思っているんだ?」
「どうって……やっぱり、幼馴染みかなぁ。気の置けない親友って感じ? それとも……寿理ちゃんも含めて三人で兄妹かなぁ。寿杜お兄ちゃんって呼んであげようか?」
「茶化さないでくれ……」
ごめんと笑う暁海、何となくだが寿理が予想していたことが事実に思えてきた。
だから、もっと素直に言わないと……。
「暁海! 俺は……親友以上になれないの……か?」
言葉に勢いがない。尻すぼみになってしまっている。暁海は昔からマイペースでおっとりしている。でも……それが時に、つかみどころがないように感じられる。今がまさにそれだ。どこか飄々としていて、話を聴いているかさえも定かでない。
「ねぇ? 寿杜は私の……なに? 幼馴染みでしょ? 彼氏でも、ましてや旦那でもない」
聴きたくなかった。その言葉だけは。甘くて優しかったその声が、今は何よりも凶器に思える。事実だ……暁海が言った言葉は全て事実なんだ。でも……今までの時間を全てなかったことにされたような、俺たちの関係を一蹴された気分になる。それだけは……イヤなんだよ。
「確かにそうだよ。俺は暁海の彼氏でも何でもない。だがな……俺はお前が大好きなんだよ!」
何年も言えなかった言葉が静寂に響く。それでも、暁海は普段通りの表情だった。
「やっぱりそうなんだ。でもね、私は寿杜を恋愛対象に思えない。そう……気持ちは嬉しいけど、何かが違うの」
答えはある意味では想定の範囲内だ……納得はできないが。
「俺たちはずっと一緒だった。なのに、どうしてこれからも、一緒にいたいと思ってくれないんだよ!?」
そう、理由を聞かないと納得できない。だって……理由もなしに断られるなんて……理不尽じゃないか。そんなの認めたくない。
「別に女の子が好きとか、あるいはどっちも好きにならないとか、そういうのじゃない。いつかは彼氏ができるのかなとか思ってるけど、それは寿杜じゃない。寿杜には、いつか私が誰かと結ばれるときに、祝福してほしいんだ。だから、今日のこれは無かったことにしよう」
「どういう……意味だよ?」
声が震えているのが分かる。怒りなのか悲しみなのか。負の感情が渦を巻いている……。俺のこの感情まで、無かったことにしようって言うのかよ。
「そのままの意味だよ。寿杜とはこれまで通りの関係でいたい。ねぇ寿杜……夜空ちゃんを好きになってよ。私なんか忘れて。ね? それが幸せなんだよ。ほら、一緒に寿理ちゃんのところへ帰ろう?」
「いや、少し一人にしてくれ。……その、なんだ、オムライスは作ってあるから、好きなだけ食ってくれ」
「うん……その、寿杜。また明日」
そう言って暁海は公園を……俺の元から去っていった。力無い足取りで、さっきまで暁海がいたブランコに座り込む。涙すら出ない……って、思いたかった。現実には……視界が湿っていき、頬に暖かな雫が伝った
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