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二学期といえば文化祭だよね
#52 月明かりの下で
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「楽しかったね」
「うん」
支倉家を後にしたボクたち。夕食は大きな鍋ですき焼きだった。明音さんのお母さん独自の割り下で味付けされた牛肉は柔らかくてジューシー。仕込みを長時間していたのか白菜、エノキ、椎茸らも凄く味が染みていて美味しかった。ご飯もいいお米を使っているのか、炊き方がいいのか、ふっくら甘くて少し食べ過ぎてしまったくらいだ。食後にはこれまた手作りだという杏仁豆腐まで頂いてしまった。滑らかで、優しい甘さとフルーツの酸味が相性抜群で、レシピまで教えてもらって……今までにないくらい楽しい誕生日を迎えられた。
「スピード、気をつけてね」
「もちろん! 大事なお姫様を乗せているからね」
そんなボクは今、麻琴が漕ぐ自転車の後ろで横座りしている。お回りさんに見つからないことを祈るばかりだ。ただ、麻琴にぎゅっと抱きついていられる今は少し嬉しい。凄く落ち着くし安心できる。吹き付ける秋風は少し冷たいけれど、麻琴の温もりをより強く感じられる。
「悠希、人気だからプレゼント一杯だね」
麻琴の自転車のカゴには皆から貰ったプレゼントが入っている。夕食直前には澄乃ちゃんやメグちゃんもプレゼントを持って来てくれた。明音さんが連絡していたそうだ。
「話は変わるけど、明音っちのお母さん、若かったね」
「本当に変わるね。でも確かに……明音さんとも凄く似ていた」
明音さんのお母さんとメグちゃんのお母さんが双子なのは聞いていたけど、年齢云々とかは全然聞いていなかった。だから、初めて会った時はその若さに驚いてしまった。うちのお母さんの溌剌とした若さとは別の、言葉にしがたい雰囲気だった。性格は母娘で少し異なり、お母さんは流石に大人の落ち着きがあった。明音さんもしっかり者ではるけれども。
「はい、到着」
下り坂ばかりであっという間に家に着いた。時刻は九時前。空を見上げれば満月が輝いていた。そんな満月を、玄関扉の前で麻琴と並んで見上げる。
「今夜は月が綺麗だね」
不意に、麻琴が呟いた。
「それって……」
「意味を知ってて言ってるよ。一応、あたし文系だし」
気恥ずかしそうに頭を掻く麻琴。夏休みに一悶着あって以来、麻琴が素直な想いをボクに言ってくることが減っていた。お互いに片想いをしているような感覚だった。でも……
「実はあたし、悠姫へのプレゼント用意していないんだ。ねぇ、何が欲しい?」
優しい笑みを浮かべながら問いかける麻琴。不思議と、ボクが欲しがっているものを知っているようにも見える。だから、かなぁ……。
「じゃあ、そのぉ――――」
何も考えずにボクの言った言葉に、麻琴が素早く反応したのは。
「「――ちゅ」」
二回目……だろうか。こうして麻琴と唇を重ねるのは。柔らかな感触に心まで包まれるような、そんな感覚がボクを満たす。だが、
「お姉ちゃん……麻琴さん……」
引き戸の開く音と共に、聞きなれてきた低い少年の声が聞えた。
「……夏、希」
「そんな……そんなのって!!」
ボクと麻琴の間を割って駆け出す夏希。ロードワークに行くつもりだったのだろう。玄関にはストップウォッチが落ちていた。それがまるで、ボクたちの時間が止まってしまったかのように思わせた。
「うん」
支倉家を後にしたボクたち。夕食は大きな鍋ですき焼きだった。明音さんのお母さん独自の割り下で味付けされた牛肉は柔らかくてジューシー。仕込みを長時間していたのか白菜、エノキ、椎茸らも凄く味が染みていて美味しかった。ご飯もいいお米を使っているのか、炊き方がいいのか、ふっくら甘くて少し食べ過ぎてしまったくらいだ。食後にはこれまた手作りだという杏仁豆腐まで頂いてしまった。滑らかで、優しい甘さとフルーツの酸味が相性抜群で、レシピまで教えてもらって……今までにないくらい楽しい誕生日を迎えられた。
「スピード、気をつけてね」
「もちろん! 大事なお姫様を乗せているからね」
そんなボクは今、麻琴が漕ぐ自転車の後ろで横座りしている。お回りさんに見つからないことを祈るばかりだ。ただ、麻琴にぎゅっと抱きついていられる今は少し嬉しい。凄く落ち着くし安心できる。吹き付ける秋風は少し冷たいけれど、麻琴の温もりをより強く感じられる。
「悠希、人気だからプレゼント一杯だね」
麻琴の自転車のカゴには皆から貰ったプレゼントが入っている。夕食直前には澄乃ちゃんやメグちゃんもプレゼントを持って来てくれた。明音さんが連絡していたそうだ。
「話は変わるけど、明音っちのお母さん、若かったね」
「本当に変わるね。でも確かに……明音さんとも凄く似ていた」
明音さんのお母さんとメグちゃんのお母さんが双子なのは聞いていたけど、年齢云々とかは全然聞いていなかった。だから、初めて会った時はその若さに驚いてしまった。うちのお母さんの溌剌とした若さとは別の、言葉にしがたい雰囲気だった。性格は母娘で少し異なり、お母さんは流石に大人の落ち着きがあった。明音さんもしっかり者ではるけれども。
「はい、到着」
下り坂ばかりであっという間に家に着いた。時刻は九時前。空を見上げれば満月が輝いていた。そんな満月を、玄関扉の前で麻琴と並んで見上げる。
「今夜は月が綺麗だね」
不意に、麻琴が呟いた。
「それって……」
「意味を知ってて言ってるよ。一応、あたし文系だし」
気恥ずかしそうに頭を掻く麻琴。夏休みに一悶着あって以来、麻琴が素直な想いをボクに言ってくることが減っていた。お互いに片想いをしているような感覚だった。でも……
「実はあたし、悠姫へのプレゼント用意していないんだ。ねぇ、何が欲しい?」
優しい笑みを浮かべながら問いかける麻琴。不思議と、ボクが欲しがっているものを知っているようにも見える。だから、かなぁ……。
「じゃあ、そのぉ――――」
何も考えずにボクの言った言葉に、麻琴が素早く反応したのは。
「「――ちゅ」」
二回目……だろうか。こうして麻琴と唇を重ねるのは。柔らかな感触に心まで包まれるような、そんな感覚がボクを満たす。だが、
「お姉ちゃん……麻琴さん……」
引き戸の開く音と共に、聞きなれてきた低い少年の声が聞えた。
「……夏、希」
「そんな……そんなのって!!」
ボクと麻琴の間を割って駆け出す夏希。ロードワークに行くつもりだったのだろう。玄関にはストップウォッチが落ちていた。それがまるで、ボクたちの時間が止まってしまったかのように思わせた。
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