拳撃の聖女が送る人生三度目の正直

楠富 つかさ

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006 Midnight 祝勝会

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 戦闘を終え村に戻ったのは真夜中だった。夕暮れに始まった決戦は死者なく終わった。これまで度々負傷者を出しながら追い返すことしか出来なかったというのに、ついに討伐せしめたという事実は真夜中であるにも関わらずエヒュラ村を大賑わいにさせるには充分すぎるものだった。

「ライカ! 凄いわ!! 本当に倒してしまうなんて。シスター・ライカはエヒュラ村の救世主だわ!! 今回ばかりはもうどうにもならないと思っていたから……。良かった、本当に良かった」

 村に戻るとリーナが熱い抱擁で出迎えてくれた。柔らかな温もりとやけに香ばしい匂いが疲れをぬぐい去る。

「く、苦しい……」

 興奮しているのか、抱きしめる力が増すリーナの背中をとんとんと叩く。表示を出さずとも生命力の減少が感じ取れる。

「っぷは、ふぅ……。なんか、リーナ香ばしい匂いがする」
「あ、焦げ臭かったかしら? 火炎魔法が私の専門なの」
「臭くはないよ。あの炎はリーナだったんだ。すっごく助かったよ」

 草原の覇者を倒すために一撃に力を込められたのは、それだけの隙があったからにほかない。その隙を作ってくれたのがリーナだったのだから、感謝してもしきれない。するとリーナの奥から村長が姿を現した。

「おうおう、聖女殿。草原の覇者を本当に倒してしまうとはお見それしました。まさかやはり天使なのでは?」
「人間ですよ。それに聖女様というのもやはり……」
「ならば救世主さまかのぅ」

 仰々しいのは変わらないらしい。内心でため息をついていると、村長は思い出したかのように口を開いた。

「食事が出来ております。残り少ない備蓄ですが、放出しましたので心ゆくまで食べてくださいまし」

 それはありがたい。お茶と一緒にクッキーのようなものを食べていたけれど、すっかりお腹が空いてしまった。リーナと二人、村の中心部に行くと恰幅のいいおばさんが大釜でスープを作っていた。木の器で受け取ると、優しい匂いが鼻腔をくすぐる。スープの中身は赤カブみたいな野菜に緑色の葉っぱ、タマネギかセロリみたいな半透明の野菜、干し肉、そしてパンのようなものだ。

「堅いパンをスープに入れると、食べやすくなるしお腹にたまるからいいの。干し肉入りなんて久しぶりだわ。もう残ってないと思っていたのに」
「……うん、美味しい。優しい味がする」
「明日はもっとすごいよ」

 断定的な口ぶりなリーナに何でと問いかける。

「草原の覇者はね、すごく美味しいの」
「わーお」

 あの巨大な化物を食べるというのか。流石異世界、ワイルド。食うか食われるかの世界というのはまさにこういうことか。
 食事を済ませ心身の回復を実感した私は、のしかかる疲労感を押し殺して最低限の治療しかしていなかった村の男衆の全快に努めた。二度目の人生でシスターとして修行をしていた私は、治癒術のみならず薬草学にも精通している。幸いなことに、二週目の世界と三週目……この世界の薬草には似通ったところがあり、シスター・ジーンの助けもあり全員を治療し終えたのは宴もたけなわな真夜中だった。

「つ、疲れた……」

 ミュラとリューンのところへ行こうかと思ったけど、リューンが寝ていたら起こしてしまいかねないと思って、二次会なのか三次会なのかは分からないけど、未だ明るい村長邸へ向かった。倒れ込むように扉を開けて、その先はちょっと覚えていない。



そして よが あけた
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