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第二十三話「街道の脅威と商人の誘い」
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スターレットの村から南東へ伸びる街道は、クルーア・ダンジョンの周辺とは異なり、日中は比較的平穏だった。空には白い雲が浮かび、柔らかな陽射しが、一行を包み込む。ナオたちは馬車三台を護衛しながら、順調に旅を進めていた。
「この調子なら、予定通り宿場町に着きそうだな」
先頭の馬車の横を歩いていたクレスにそう声をかけるラディ。クレスは自信に満ちた表情で頷いた。
「だな! ダンジョンと違って、開けた道なので周囲の警戒もしやすい」
クレスの言葉に安堵が広がる中、草むらからガサガサと物音が聞こえた。次の瞬間、みずぼらしい革鎧をまとったゴブリンが三体、飛び出してきた。
「ゴブリンだ!」
「クレス、落ち着け。数は?」
隊商の右前方から接近するゴブリンに気付き、クレスが抜剣するが、それに気づいたナオが報告を求める。
「数は五体! 俺とラディが仕掛けます」
ナオからも見えるほどに接近したゴブリンの一体にクレスが剣で先制する。さらにラディがナイフで刺し貫き、続く二体目はフィオが矢で射抜く。
ナオもまた剣を抜き、ゴブリンを迎え撃つ。一体のゴブリンが刃こぼれしたナイフを振りかぶってクレスに襲いかかるが、クレスは盾で攻撃を受け止め、そのまま体当たりを仕掛けてゴブリンを転倒させた。
「やぁっ!」
その隙を逃さず、ラディの短剣がゴブリンの脇腹を素早く突き刺す。悲鳴を上げながらゴブリンが倒れ、残る二体はラディの素早い動きに怯み、後ずさり始めた。
「ウィンドカッター!」
シエルが放った風の刃が、二体のゴブリンを切り裂く。戦闘はあっという間に終わった。
「お見事!」
馬車の中から、エルドールが感嘆の声を上げた。彼の顔からは、もう不安の色は消え、代わりにナオたちへの信頼が芽生えているようだった。
「よし、解体は後回しにして、先に進むぞ」
ナオはそう言って、倒れたゴブリンに近づくと、その亡骸に手をかざす。次の瞬間、ゴブリンの亡骸は霧のように消え、ナオの収納へと収まっていった。
「な、なんですか今のは!?」
エルドールは目を丸くしてナオの元へ駆け寄ってきた。
「あぁ、収納に入れたんです。解体する時間が惜しいですし、血の臭いで他の魔物が来ても嫌なので。幸い俺の収納ならこの程度は問題なく入りますし」
「なんて素晴らしい! 素材を鮮度の高いまま持ち運べる……! ナオ殿、あなたのそのスキルは、商人にとっては宝ですよ! 収納スキルを持つ者は居るには居ますが、ナオ殿の収納にはどれだけ入るのですか!?」
エルドールの言葉は熱を帯びていた。そして、彼はナオの肩に手を置き、真剣な眼差しで語り始めた。
「失礼を承知で申し上げます。ナオ殿、よろしければ私と専属契約を結んでいただけませんか?冒険者として働くよりも、ずっと大きな富と名声をお約束しましょう。私の持つ積荷をあなたならより早く、より安全に目的地まで運ぶことができる。もちろん、専属契約を結んでくださるなら、あなたに合った報酬をご用意いたします」
突然の引き抜き交渉に、ナオは苦笑いを浮かべた。しかし、その誘いに乗るつもりはない。ナオが求めるのは、金や名声ではなく、錬金術師としての成長だ。
「お気持ちはありがたいのですが、お断りさせてください」
ナオは穏やかに、しかしきっぱりとそう答えた。
「これは、錬金術師としての私の旅です。まだ見ぬ素材や、新しい発見が、私には必要なんです。それに、俺には冒険者として、一緒に戦ってくれる大切な仲間がいますから」
ナオがそう言って振り返ると、シエルが、フィオが、そしてクレスたちが、それぞれの持ち場で彼を見守っていた。彼らの視線は、ナオへの信頼と、この旅を成功させようとする決意に満ちていた。
「それに、今回の依頼、まだまだ終わりじゃありませんからね。さあ、行きましょう!」
ナオはエルドールにそう言って微笑みかけると、再び街道へと向き直った。その背中には、冒険者としての確固たる意志と、仲間への深い信頼が感じられた。エルドールは、ナオの答えに少しがっかりした様子を見せたが、その表情には、どこか納得したような、清々しいものが浮かんでいた。
「この調子なら、予定通り宿場町に着きそうだな」
先頭の馬車の横を歩いていたクレスにそう声をかけるラディ。クレスは自信に満ちた表情で頷いた。
「だな! ダンジョンと違って、開けた道なので周囲の警戒もしやすい」
クレスの言葉に安堵が広がる中、草むらからガサガサと物音が聞こえた。次の瞬間、みずぼらしい革鎧をまとったゴブリンが三体、飛び出してきた。
「ゴブリンだ!」
「クレス、落ち着け。数は?」
隊商の右前方から接近するゴブリンに気付き、クレスが抜剣するが、それに気づいたナオが報告を求める。
「数は五体! 俺とラディが仕掛けます」
ナオからも見えるほどに接近したゴブリンの一体にクレスが剣で先制する。さらにラディがナイフで刺し貫き、続く二体目はフィオが矢で射抜く。
ナオもまた剣を抜き、ゴブリンを迎え撃つ。一体のゴブリンが刃こぼれしたナイフを振りかぶってクレスに襲いかかるが、クレスは盾で攻撃を受け止め、そのまま体当たりを仕掛けてゴブリンを転倒させた。
「やぁっ!」
その隙を逃さず、ラディの短剣がゴブリンの脇腹を素早く突き刺す。悲鳴を上げながらゴブリンが倒れ、残る二体はラディの素早い動きに怯み、後ずさり始めた。
「ウィンドカッター!」
シエルが放った風の刃が、二体のゴブリンを切り裂く。戦闘はあっという間に終わった。
「お見事!」
馬車の中から、エルドールが感嘆の声を上げた。彼の顔からは、もう不安の色は消え、代わりにナオたちへの信頼が芽生えているようだった。
「よし、解体は後回しにして、先に進むぞ」
ナオはそう言って、倒れたゴブリンに近づくと、その亡骸に手をかざす。次の瞬間、ゴブリンの亡骸は霧のように消え、ナオの収納へと収まっていった。
「な、なんですか今のは!?」
エルドールは目を丸くしてナオの元へ駆け寄ってきた。
「あぁ、収納に入れたんです。解体する時間が惜しいですし、血の臭いで他の魔物が来ても嫌なので。幸い俺の収納ならこの程度は問題なく入りますし」
「なんて素晴らしい! 素材を鮮度の高いまま持ち運べる……! ナオ殿、あなたのそのスキルは、商人にとっては宝ですよ! 収納スキルを持つ者は居るには居ますが、ナオ殿の収納にはどれだけ入るのですか!?」
エルドールの言葉は熱を帯びていた。そして、彼はナオの肩に手を置き、真剣な眼差しで語り始めた。
「失礼を承知で申し上げます。ナオ殿、よろしければ私と専属契約を結んでいただけませんか?冒険者として働くよりも、ずっと大きな富と名声をお約束しましょう。私の持つ積荷をあなたならより早く、より安全に目的地まで運ぶことができる。もちろん、専属契約を結んでくださるなら、あなたに合った報酬をご用意いたします」
突然の引き抜き交渉に、ナオは苦笑いを浮かべた。しかし、その誘いに乗るつもりはない。ナオが求めるのは、金や名声ではなく、錬金術師としての成長だ。
「お気持ちはありがたいのですが、お断りさせてください」
ナオは穏やかに、しかしきっぱりとそう答えた。
「これは、錬金術師としての私の旅です。まだ見ぬ素材や、新しい発見が、私には必要なんです。それに、俺には冒険者として、一緒に戦ってくれる大切な仲間がいますから」
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