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第1話/自問/はじまり
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恋愛はいい。心を豊かにしてくれる。けれど、相手との相性がすごく大事で……私まだ、互いを求め合う恋愛をしていない。私が求めては相手が離れ、求められてもその心に応えられない。だからこそ、もっと知りたい。恋とは、愛とは。そして幸せって何なのか。だから私は今日も……。
「ねぇ君、ちょっと時間ない? お茶なんてどう?」
ナンパをしている。それも女子中学生を相手に。
私が通う星花女子学園は中高一貫の私立女子校。私がそれまで知らなかった女の子同士の恋愛がここにはあった。
「ご、ごめんなさい。急いでて……」
「そっか。またね」
季節は新春、温暖な空の宮市らしい短い冬休みを経た三学期。温暖とはいえ底冷えする廊下を冬服の少し厚みのあるスカートを翻しながら歩く。向かう先は図書室。年末に借りて読み終えた漫画版の源氏物語を返却するためだ。いやはや、さすがは最古参の恋愛物語と言われるだけはある含蓄に富む作品だった。ジャンル恋愛な本は浅く広く読んできたけれど、古典も面白いかもしれない。次はあれを借りよう、あれ、在原業平が主人公の……なんだっけ。まぁ、図書委員の人に聞けばいいか。
星花女子の図書室は大講堂と同じ棟の二階と三階を占めていてほぼ図書館と言って差し支えないと思う。入り口すぐの所にあるカウンターに座る先輩に、在原業平が主人公の古典があるか訊ねる。ちなみに、相手の学年は校章の色で判断できる。高一の私は黄色で目の前にいる先輩は臙脂、高三だ。卒業も近いのにお仕事だなんて大変だ。
「伊勢物語は厳密に言えば在原業平を主人公とした作品ではなく、彼の和歌を多く収録している本なんです。異名が文中に登場するとはいえ、名指しで業平を示す表現はないそうですし。とはいえ、おそらくお探しの本は伊勢物語でしょうし漫画版もございますので、棚に案内しますね」
そう言って先輩が立ち上がる。なお伊勢物語について話しつつきちんと源氏物語の返却手続きが済まされているから素晴らしい。にしてもこの先輩、非常に美人である。なんども図書館には来ているし月に何度か見かけてきたけれど、ハーフアップにまとめられた髪はさらっさらだし、女性らしい丸みとくびれを両立させた体つきもすごく魅力的だ。とはいえ今は年下の女の子に興味があるから特に何もアクションを起こさないけれど。
「こちらですね。通常期間ですので二冊まで一週間となります」
休みの間とは貸し出し期間や冊数に違いがあるからね。まあ普通に授業もあるなかそう何冊も読めないけどさ。貸し出し手続きを済ませふと備え付けのテーブル区画に目をやると、見知った同級生がそこにいた。
「ごきげんよう城咲さん」
「ごきげんよう五百旗頭さん」
城咲紅葉さんはクラスメイトで、凜としたオトナの雰囲気を漂わせる美人さんだ。所属している部活は茶道部とのことだが、小説を書いていてよく図書館にいる。
「五百旗頭さん、さっきお姉さまをイヤらしい目で見てませんでしたか?」
「へ? お姉さま?」
「そうです。あのカウンターで業務をされているのは、私の恋人。水藤叶美先輩よ」
それは驚き。いや、知らなかった。何度も来ているのに……でも言われてみれば城咲さんがいる時はカウンター業務の担当があの先輩だった割合が高い気がする。え、でも。
「城咲さんの恋人って年下の元ルームメイトじゃ?」
「私たちは三人で恋人だから」
言葉を咀嚼するのに少しだけ時間を要した。なるほど、そういう愛の形があるのか。参考になるような、ならないような。
「また恋愛の研究? 和歌は恋愛の詩が多いそうね」
「そう、古典も面白いと思って」
何かを詳しく知ることは楽しい。それが答えの不明瞭なものなら尚更だ。いっぱい考えて自分なりにまとめて、それが他の人とどう違うか、人の意見を盛り込んで自分の意見をもっとよく出来るんじゃないか。考えたり工夫したりするのが好きみたいだ。だからこそ本を読むのは楽しいし、恋愛は奥が深いんだと思う。
「城咲さんのお話も完成したら読ませてね」
「えぇ、それは勿論」
約束をして、私は図書館を後にした。
「ねぇ君、ちょっと時間ない? お茶なんてどう?」
ナンパをしている。それも女子中学生を相手に。
私が通う星花女子学園は中高一貫の私立女子校。私がそれまで知らなかった女の子同士の恋愛がここにはあった。
「ご、ごめんなさい。急いでて……」
「そっか。またね」
季節は新春、温暖な空の宮市らしい短い冬休みを経た三学期。温暖とはいえ底冷えする廊下を冬服の少し厚みのあるスカートを翻しながら歩く。向かう先は図書室。年末に借りて読み終えた漫画版の源氏物語を返却するためだ。いやはや、さすがは最古参の恋愛物語と言われるだけはある含蓄に富む作品だった。ジャンル恋愛な本は浅く広く読んできたけれど、古典も面白いかもしれない。次はあれを借りよう、あれ、在原業平が主人公の……なんだっけ。まぁ、図書委員の人に聞けばいいか。
星花女子の図書室は大講堂と同じ棟の二階と三階を占めていてほぼ図書館と言って差し支えないと思う。入り口すぐの所にあるカウンターに座る先輩に、在原業平が主人公の古典があるか訊ねる。ちなみに、相手の学年は校章の色で判断できる。高一の私は黄色で目の前にいる先輩は臙脂、高三だ。卒業も近いのにお仕事だなんて大変だ。
「伊勢物語は厳密に言えば在原業平を主人公とした作品ではなく、彼の和歌を多く収録している本なんです。異名が文中に登場するとはいえ、名指しで業平を示す表現はないそうですし。とはいえ、おそらくお探しの本は伊勢物語でしょうし漫画版もございますので、棚に案内しますね」
そう言って先輩が立ち上がる。なお伊勢物語について話しつつきちんと源氏物語の返却手続きが済まされているから素晴らしい。にしてもこの先輩、非常に美人である。なんども図書館には来ているし月に何度か見かけてきたけれど、ハーフアップにまとめられた髪はさらっさらだし、女性らしい丸みとくびれを両立させた体つきもすごく魅力的だ。とはいえ今は年下の女の子に興味があるから特に何もアクションを起こさないけれど。
「こちらですね。通常期間ですので二冊まで一週間となります」
休みの間とは貸し出し期間や冊数に違いがあるからね。まあ普通に授業もあるなかそう何冊も読めないけどさ。貸し出し手続きを済ませふと備え付けのテーブル区画に目をやると、見知った同級生がそこにいた。
「ごきげんよう城咲さん」
「ごきげんよう五百旗頭さん」
城咲紅葉さんはクラスメイトで、凜としたオトナの雰囲気を漂わせる美人さんだ。所属している部活は茶道部とのことだが、小説を書いていてよく図書館にいる。
「五百旗頭さん、さっきお姉さまをイヤらしい目で見てませんでしたか?」
「へ? お姉さま?」
「そうです。あのカウンターで業務をされているのは、私の恋人。水藤叶美先輩よ」
それは驚き。いや、知らなかった。何度も来ているのに……でも言われてみれば城咲さんがいる時はカウンター業務の担当があの先輩だった割合が高い気がする。え、でも。
「城咲さんの恋人って年下の元ルームメイトじゃ?」
「私たちは三人で恋人だから」
言葉を咀嚼するのに少しだけ時間を要した。なるほど、そういう愛の形があるのか。参考になるような、ならないような。
「また恋愛の研究? 和歌は恋愛の詩が多いそうね」
「そう、古典も面白いと思って」
何かを詳しく知ることは楽しい。それが答えの不明瞭なものなら尚更だ。いっぱい考えて自分なりにまとめて、それが他の人とどう違うか、人の意見を盛り込んで自分の意見をもっとよく出来るんじゃないか。考えたり工夫したりするのが好きみたいだ。だからこそ本を読むのは楽しいし、恋愛は奥が深いんだと思う。
「城咲さんのお話も完成したら読ませてね」
「えぇ、それは勿論」
約束をして、私は図書館を後にした。
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