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最終話 君との空に春を結んで
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立成十八年三月下旬、私と小春ちゃんは春めかしい装いで一路小田原へ向かった。
その前の晩に夜通し愛し合ったせいか、寝坊してしまい到着したのはほぼお昼だった。もっとも、小田原まで一時間とちょっとで辿り着くというのは驚きだったのだけれど。
「うわぁ~すごいよ! 文緒ちゃん! 見てみて!!」
昨晩とうってかわって無邪気な声ではしゃぐ私の恋人を眺めて、自然と頬が緩む。今日の小春ちゃんは長い髪をピンク色のリボンでポニーテールにくくっている。スポーティな雰囲気を醸しつつも、ちらちら見えるうなじがなんだかセクシーだ。まぁ、そう思うのは私だけかもしれないし、きっと私だけでいい。
駅前の高層建築物に驚きつつも、私は小春ちゃんの手を握って徒歩五分程度だという小田原城へ向けて歩き出した。電車の車窓からも綺麗な桜並木は見てきたが、小田原城の桜もさぞかし綺麗に咲いているだろうなぁ。
天気は快晴、上着を少し薄めのカーディガンにしておいて正解だった。スマホの地図アプリを見ながら進むと、すぐに白いお城が姿を現した。小田原城と桜の景色、その美しさを全部表現するための語彙は生憎、持ち合わせていない。それに語彙を費やすくらいなら、私の恋人を褒め称えるために言葉を繰りたい。
「ねぇ、すごく綺麗だよ!!」
数歩駆けだして振り向く小春ちゃん。髪とスカートの裾がふわりと膨らむ。可愛い。彼女の愛らしさを語るためには、幾千の言葉よりもたった一言だけでいいのかもしれない。
「小春ちゃんも、綺麗だよ」
心が穏やかになる。小春ちゃんがまた走り出さないように、また手を繋いで敷地内を散策する。それから、芝生のエリアでレジャーシートを広げてお弁当を食べることにした。
レジャーシートは先月末に行われた、退寮する三年生たちが私物を売るフリーマーケットで購入した。お弁当の方は、予定では手作りするつもりだったのだけれど、寝坊してしまったから小田原駅で買ってきた。
「いただきます」
「いっただきまーす」
食べ終えると小春ちゃんは私の膝枕で少し休憩。人目もさほどなかったから、私は背中を丸めて小春ちゃんに口づけした。デザートみたいに甘い、なんてことは現実にはありえなくて、焼売につけた醤油の味がちょっとした。
部活が部活だし、足が痺れるなんてことはないけど、小春ちゃんが熟睡しそうになっちゃったから、休憩を切り上げてまた散策することにした。ちゃんと甘い物も欲しかったし。
ソフトクリームをシェアしながら桜を眺める。お花見なんて……ってちょっと軽んじていたところもあったけど、何を見るかよりも誰と見るかが大事なのかも知れない。そう思えるくらい、私の心は満たされていた。次は花火かな、なんて思いも湧く程度には。
「ねぇ。なんかあるよ!」
小春ちゃんの指差す先にあったのは二宮尊徳を祀ったとおぼしき神社があった。
「絵馬、書こうよ!」
小春ちゃんに手を引かれ、進んでいく。やはりそこは神社で、二宮尊徳を祀っているらしい。小田原にゆかりがあるというのは初めて知った。誰なのか詳しく知らないらしい小春ちゃんに、二宮金次郎のことだよと言ってあげたら分かってくれた。
きちんとお参りを済ませてから、絵馬を書くことにした。
「ねぇここ、絵馬の奉納の仕方が書いてあるよ」
絵馬は願い事を書いた面を表に、しかも人の視線の高さにかける必要があるらしい。あと、絵馬に奉納って書いておくこと。それらを見た上で、何を書くか考える。
私としては当然、小春ちゃんと最高にラブラブなままでいられますようにって書くつもりだが……ちょっぴり恥ずかしい。しかも人の目線に合わせた高さにかけるなんて。
少し悩んでから、願うよりも宣言をしていこう、恥ずかしがる必要なんてないと思い至り、小春ちゃんと最高にラブラブなままでいる! と書いて絵馬を奉納した。
私が少し悩んでいる間に、小春ちゃんはもう書いたらしい。すると、おもむろに髪を結っていたリボンを解いてしまった。
そのリボンを絵馬に結ぶ小春ちゃん。どういうことなんだろうと思って、私が声をかけようとすると、小春ちゃんが私の手を取って書けだしてしまった。
「ちょ、小春ちゃん!? え、ねぇ絵馬のあれ何?」
「秘密だよ~」
振り向いて満面の笑みを見せる彼女に、気にならなくなってしまった。だって、気持ちは通じ合っているんだって分かるから。
「お土産、何買おっか?」
今日という日を私はきっと忘れない。春の空に結ばれたピンクのリボンは、私と小春ちゃんの大切な思い出だから。
『ずっと文緒ちゃんと一緒! 西山小春』
君との空に春を結んで ――おしまい――
その前の晩に夜通し愛し合ったせいか、寝坊してしまい到着したのはほぼお昼だった。もっとも、小田原まで一時間とちょっとで辿り着くというのは驚きだったのだけれど。
「うわぁ~すごいよ! 文緒ちゃん! 見てみて!!」
昨晩とうってかわって無邪気な声ではしゃぐ私の恋人を眺めて、自然と頬が緩む。今日の小春ちゃんは長い髪をピンク色のリボンでポニーテールにくくっている。スポーティな雰囲気を醸しつつも、ちらちら見えるうなじがなんだかセクシーだ。まぁ、そう思うのは私だけかもしれないし、きっと私だけでいい。
駅前の高層建築物に驚きつつも、私は小春ちゃんの手を握って徒歩五分程度だという小田原城へ向けて歩き出した。電車の車窓からも綺麗な桜並木は見てきたが、小田原城の桜もさぞかし綺麗に咲いているだろうなぁ。
天気は快晴、上着を少し薄めのカーディガンにしておいて正解だった。スマホの地図アプリを見ながら進むと、すぐに白いお城が姿を現した。小田原城と桜の景色、その美しさを全部表現するための語彙は生憎、持ち合わせていない。それに語彙を費やすくらいなら、私の恋人を褒め称えるために言葉を繰りたい。
「ねぇ、すごく綺麗だよ!!」
数歩駆けだして振り向く小春ちゃん。髪とスカートの裾がふわりと膨らむ。可愛い。彼女の愛らしさを語るためには、幾千の言葉よりもたった一言だけでいいのかもしれない。
「小春ちゃんも、綺麗だよ」
心が穏やかになる。小春ちゃんがまた走り出さないように、また手を繋いで敷地内を散策する。それから、芝生のエリアでレジャーシートを広げてお弁当を食べることにした。
レジャーシートは先月末に行われた、退寮する三年生たちが私物を売るフリーマーケットで購入した。お弁当の方は、予定では手作りするつもりだったのだけれど、寝坊してしまったから小田原駅で買ってきた。
「いただきます」
「いっただきまーす」
食べ終えると小春ちゃんは私の膝枕で少し休憩。人目もさほどなかったから、私は背中を丸めて小春ちゃんに口づけした。デザートみたいに甘い、なんてことは現実にはありえなくて、焼売につけた醤油の味がちょっとした。
部活が部活だし、足が痺れるなんてことはないけど、小春ちゃんが熟睡しそうになっちゃったから、休憩を切り上げてまた散策することにした。ちゃんと甘い物も欲しかったし。
ソフトクリームをシェアしながら桜を眺める。お花見なんて……ってちょっと軽んじていたところもあったけど、何を見るかよりも誰と見るかが大事なのかも知れない。そう思えるくらい、私の心は満たされていた。次は花火かな、なんて思いも湧く程度には。
「ねぇ。なんかあるよ!」
小春ちゃんの指差す先にあったのは二宮尊徳を祀ったとおぼしき神社があった。
「絵馬、書こうよ!」
小春ちゃんに手を引かれ、進んでいく。やはりそこは神社で、二宮尊徳を祀っているらしい。小田原にゆかりがあるというのは初めて知った。誰なのか詳しく知らないらしい小春ちゃんに、二宮金次郎のことだよと言ってあげたら分かってくれた。
きちんとお参りを済ませてから、絵馬を書くことにした。
「ねぇここ、絵馬の奉納の仕方が書いてあるよ」
絵馬は願い事を書いた面を表に、しかも人の視線の高さにかける必要があるらしい。あと、絵馬に奉納って書いておくこと。それらを見た上で、何を書くか考える。
私としては当然、小春ちゃんと最高にラブラブなままでいられますようにって書くつもりだが……ちょっぴり恥ずかしい。しかも人の目線に合わせた高さにかけるなんて。
少し悩んでから、願うよりも宣言をしていこう、恥ずかしがる必要なんてないと思い至り、小春ちゃんと最高にラブラブなままでいる! と書いて絵馬を奉納した。
私が少し悩んでいる間に、小春ちゃんはもう書いたらしい。すると、おもむろに髪を結っていたリボンを解いてしまった。
そのリボンを絵馬に結ぶ小春ちゃん。どういうことなんだろうと思って、私が声をかけようとすると、小春ちゃんが私の手を取って書けだしてしまった。
「ちょ、小春ちゃん!? え、ねぇ絵馬のあれ何?」
「秘密だよ~」
振り向いて満面の笑みを見せる彼女に、気にならなくなってしまった。だって、気持ちは通じ合っているんだって分かるから。
「お土産、何買おっか?」
今日という日を私はきっと忘れない。春の空に結ばれたピンクのリボンは、私と小春ちゃんの大切な思い出だから。
『ずっと文緒ちゃんと一緒! 西山小春』
君との空に春を結んで ――おしまい――
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