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凍った心の闇
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屋上へ向かう綾音を見送った梓は教室へと足を向けた。保健室は一階に位置し、教室に戻るためには昇降口の前を通る必要があるのだが…。
「な、なんでここに……」
そこには一体の魔物……。千夏や理紗が飛び出していった戦闘の生き残りだろうか? 直面する恐怖がかえって梓に思考の冷静さを取り戻させる。
「や、槍を……構えなきゃ」
彼女が思い出すのは、綾音の魔力を杖に込める時に舞斗が言った言葉。
『槍は扱い易さに反して、強さに限りがない。渡瀬の力になりたい……いや、追いかけたい背中があるのだろう?』
思い出した言葉に頬を朱に染める。
(おっと、後半はいらない。今は、目の前の敵に集中するんだ!)
「えい! それ! だぁ!」
梓が振るう槍は俊敏な魔物に当たることはない。焦りを感じる梓の攻撃の軌跡に、青紫色の波動が伴った。 あまりに一瞬だったが、学級委員を務める才女は、その一瞬すら逃さなかった。
「輪氷槍!」
水平方向の回転を伴う氷属性の攻撃、これで終わる筈だったのだが……。
「梓さん、上! くっ、連氷牙!」
そう、魔物はジャンプで回避していたのだ。そこに響いた声…そして、氷柱のような刃が飛んできて魔物を貫いた。
「無事かい?」
声の主――小川砦人が梓に声をかける。
「えぇ。砦人くんこそ、なんでここに?」
砦人は、魔力暴走の件をクラスのみんなに説明していたはずだったのだが……。
「説明が終わったから、綾音さんのお見舞いをと思ってさ」
(そっか……。私を迎えに来てくれた訳はないもんね。もし、砦人くんが綾音ちゃんを好きだとしたら……苦しいな…)
恋する少女の心に巣食う靄……その奥に梓は何かを見出そうとしていた。
「ちょっと外にでない? あと、私と戦ってほしい」
優しい彼は驚くだろう。だが人の深意を考えられる彼だからこそ、着いてきてくれると梓は思っていた。その察しのよさが、恋愛沙汰にまで働かないのが、万能委員長である小川砦人の最大の難点だった。
「さて、目的は何かな?」
「さっき、技を外したのを見たでしょう? 成功させたいのよ」
真意は他にあるが、それを伝えられるか、伝えていいのか、梓は困惑していた。それでも、何もせずにはいられない。何も感じられない青空の下、小川の三歩後ろを梓は歩く。そして、
「分かったよ。適当に動けばいい?」
二人が選んだのは体育館の裏。まるで愛の告白をするような場所だが、あながち間違ってはいないだろう。
「は、せぃ!」
槍は突くだけじゃない。汎用性を全面に押し出す。なんとなくの感覚が、それを既に把握している。そんな中、梓は砦人に問いかける。
「ねぇ、砦人くんにとって私は何者?」
「え、えっと。頼れる相棒……かな?」
「それは、学級委員として、なんだよね?」
頷く彼に心なしか攻撃の手が強まる。それに伴うは黒い波動……。
「妬黒槍!」
溜めの動作から放たれた突きの一撃に、螺旋を描くかの如き宵闇色が追従する。あまりの禍々しさに砦人が飛び退く。放った梓自身も槍を落としそうになった。二人を包む静寂……それを破ったのは砦人だった。
「梓さん、後ろ! 大きな魔物が体育館に……」
我に返った梓が振り返ると、狼とは比べ物にならない大きさの獣系の魔物が体育館を目掛けて走って行った。
「ここは一旦退こう!」
砦人は梓の手を掴んで走りだした。
(なんで好きでもない相手の手を握れるの? 私の心は……醜い)
前を走る彼に、頬を伝う少女の涙は見えない……。
「な、なんでここに……」
そこには一体の魔物……。千夏や理紗が飛び出していった戦闘の生き残りだろうか? 直面する恐怖がかえって梓に思考の冷静さを取り戻させる。
「や、槍を……構えなきゃ」
彼女が思い出すのは、綾音の魔力を杖に込める時に舞斗が言った言葉。
『槍は扱い易さに反して、強さに限りがない。渡瀬の力になりたい……いや、追いかけたい背中があるのだろう?』
思い出した言葉に頬を朱に染める。
(おっと、後半はいらない。今は、目の前の敵に集中するんだ!)
「えい! それ! だぁ!」
梓が振るう槍は俊敏な魔物に当たることはない。焦りを感じる梓の攻撃の軌跡に、青紫色の波動が伴った。 あまりに一瞬だったが、学級委員を務める才女は、その一瞬すら逃さなかった。
「輪氷槍!」
水平方向の回転を伴う氷属性の攻撃、これで終わる筈だったのだが……。
「梓さん、上! くっ、連氷牙!」
そう、魔物はジャンプで回避していたのだ。そこに響いた声…そして、氷柱のような刃が飛んできて魔物を貫いた。
「無事かい?」
声の主――小川砦人が梓に声をかける。
「えぇ。砦人くんこそ、なんでここに?」
砦人は、魔力暴走の件をクラスのみんなに説明していたはずだったのだが……。
「説明が終わったから、綾音さんのお見舞いをと思ってさ」
(そっか……。私を迎えに来てくれた訳はないもんね。もし、砦人くんが綾音ちゃんを好きだとしたら……苦しいな…)
恋する少女の心に巣食う靄……その奥に梓は何かを見出そうとしていた。
「ちょっと外にでない? あと、私と戦ってほしい」
優しい彼は驚くだろう。だが人の深意を考えられる彼だからこそ、着いてきてくれると梓は思っていた。その察しのよさが、恋愛沙汰にまで働かないのが、万能委員長である小川砦人の最大の難点だった。
「さて、目的は何かな?」
「さっき、技を外したのを見たでしょう? 成功させたいのよ」
真意は他にあるが、それを伝えられるか、伝えていいのか、梓は困惑していた。それでも、何もせずにはいられない。何も感じられない青空の下、小川の三歩後ろを梓は歩く。そして、
「分かったよ。適当に動けばいい?」
二人が選んだのは体育館の裏。まるで愛の告白をするような場所だが、あながち間違ってはいないだろう。
「は、せぃ!」
槍は突くだけじゃない。汎用性を全面に押し出す。なんとなくの感覚が、それを既に把握している。そんな中、梓は砦人に問いかける。
「ねぇ、砦人くんにとって私は何者?」
「え、えっと。頼れる相棒……かな?」
「それは、学級委員として、なんだよね?」
頷く彼に心なしか攻撃の手が強まる。それに伴うは黒い波動……。
「妬黒槍!」
溜めの動作から放たれた突きの一撃に、螺旋を描くかの如き宵闇色が追従する。あまりの禍々しさに砦人が飛び退く。放った梓自身も槍を落としそうになった。二人を包む静寂……それを破ったのは砦人だった。
「梓さん、後ろ! 大きな魔物が体育館に……」
我に返った梓が振り返ると、狼とは比べ物にならない大きさの獣系の魔物が体育館を目掛けて走って行った。
「ここは一旦退こう!」
砦人は梓の手を掴んで走りだした。
(なんで好きでもない相手の手を握れるの? 私の心は……醜い)
前を走る彼に、頬を伝う少女の涙は見えない……。
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