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第6話
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六月の終わりが近づいたある日の放課後、陽乃ちゃんは生徒会選挙に立候補するための書類を職員室に届けに行った。教室には私一人が残り、授業中に取ったメモをノートに整理していた。外の空は曇り、雨が上がったばかりのせいか、薄明かりが教室に差し込んでいて、その光がどこかひんやりとした静けさを漂わせていた。
「ねえ、暮井さん?」
突然、背後から声がして、私は驚いて顔を上げた。そこにはミナミさんが、あからさまに挑戦的な笑みを浮かべながら、私の机に腰かけていた。その背後には、いつものグループの女子たちが、にやにやと笑いながらこちらを見ている。
「陽乃に応援演説頼まれたんでしょ? なんで断ったの?」
ミナミさんの声は穏やかそうでいて、どこか含みを持たせていた。その目が、じっと私を見つめているのがわかり、思わず一瞬戸惑ってしまう。私は黙って口を開けた。
「……そんな大役、私には無理だと思ったから」
その言葉を発すると、ミナミさんはわざとらしく息を吐きながら、小馬鹿にしたように笑った。
「ふぅん……無理ねぇ。でもさ、陽乃ってば、あんたのことすごく信頼してるみたいじゃん?」
ミナミさんの声はさらに低く、私をじっと見据えていた。その目には、どこか嫌な冷たさがにじみ出ている。
「信頼されてるのに、断るんだ。冷たいよね、あんた。可哀想だなぁ、陽乃。信頼している真白ちゃんに断られちゃって、大恥だよね?」
「そんなつもりじゃ……」
私は消え入りそうな声で答えたが、ミナミさんはその言葉を軽く振り払うように手を振って、話を続けた。
「まぁ、いいけどさ。代わりにうちがやることになったから。陽乃も結局、うちを頼ってくれてるんだし?」
その言葉に、ミナミさんの得意げな顔が見て取れた。しかし、私にはその目が、私が感じた微妙な表情をしっかり観察しているように思えた。
「でもさ、なんかモヤモヤするんだよね」
その声に、私は反射的に質問を返した。
「……何が?」
すると、ミナミさんは肩をすくめて、ため息混じりに言った。
「陽乃のそばにいるあんたが、邪魔っていうか」
その瞬間、取り巻きの女子たちが一斉に声を上げて笑った。
「それなー! 陽乃ちゃんとミナミにふさわしいのはうちらだよね!」
「そうそう! 真白ちゃんって、いつも陽乃ちゃんの隣でボソボソしてるだけだし!」
その言葉に、私は何も言い返せず、ただ沈黙を貫くしかなかった。教室に響く空虚な笑い声が、私の心を締め付けてくる。
その時、教室のドアが開き、陽乃ちゃんが戻ってきた。彼女の明るい声が教室に響く。
「あれ? みんな、何してるの?」
一瞬で、教室の空気が変わった。ミナミさんも取り巻きたちも、それまでの威圧的な態度をさっと引っ込め、普通のクラスメイトの顔をして陽乃ちゃんに向き直った。
「陽乃、おかえり! 真白ちゃんとちょっと話してたとこぉ」
ミナミさんは、屈託なく笑いながら言った。だが、その笑顔の裏には冷徹なものが見え隠れしていた。
「そっか。じゃあ、真白、帰ろう? ミナミたちも、また明日ね」
陽乃ちゃんは私の手を取って、さっと教室を出ようとする。私が後ろを振り返ると、ミナミさんの視線が一瞬冷たくなったことに気がついた。まるで、私を睨むような目だった。
そして、翌日からだ。私は明らかに、彼女たちの態度が変わり始めていることを感じていた。教室でのやり取りがあんなにあからさまだったのに、今度はそれが静かに、私の周囲に広がっていくのを感じる。ミナミさんの取り巻きたちは、私を見る目が以前と違う。だんだんと、私を無視するようになり、まるでいなくなったかのように扱われることが増えていった。
そしてそれはいつも、陽乃ちゃんがいない時のことだった……。
「ねえ、暮井さん?」
突然、背後から声がして、私は驚いて顔を上げた。そこにはミナミさんが、あからさまに挑戦的な笑みを浮かべながら、私の机に腰かけていた。その背後には、いつものグループの女子たちが、にやにやと笑いながらこちらを見ている。
「陽乃に応援演説頼まれたんでしょ? なんで断ったの?」
ミナミさんの声は穏やかそうでいて、どこか含みを持たせていた。その目が、じっと私を見つめているのがわかり、思わず一瞬戸惑ってしまう。私は黙って口を開けた。
「……そんな大役、私には無理だと思ったから」
その言葉を発すると、ミナミさんはわざとらしく息を吐きながら、小馬鹿にしたように笑った。
「ふぅん……無理ねぇ。でもさ、陽乃ってば、あんたのことすごく信頼してるみたいじゃん?」
ミナミさんの声はさらに低く、私をじっと見据えていた。その目には、どこか嫌な冷たさがにじみ出ている。
「信頼されてるのに、断るんだ。冷たいよね、あんた。可哀想だなぁ、陽乃。信頼している真白ちゃんに断られちゃって、大恥だよね?」
「そんなつもりじゃ……」
私は消え入りそうな声で答えたが、ミナミさんはその言葉を軽く振り払うように手を振って、話を続けた。
「まぁ、いいけどさ。代わりにうちがやることになったから。陽乃も結局、うちを頼ってくれてるんだし?」
その言葉に、ミナミさんの得意げな顔が見て取れた。しかし、私にはその目が、私が感じた微妙な表情をしっかり観察しているように思えた。
「でもさ、なんかモヤモヤするんだよね」
その声に、私は反射的に質問を返した。
「……何が?」
すると、ミナミさんは肩をすくめて、ため息混じりに言った。
「陽乃のそばにいるあんたが、邪魔っていうか」
その瞬間、取り巻きの女子たちが一斉に声を上げて笑った。
「それなー! 陽乃ちゃんとミナミにふさわしいのはうちらだよね!」
「そうそう! 真白ちゃんって、いつも陽乃ちゃんの隣でボソボソしてるだけだし!」
その言葉に、私は何も言い返せず、ただ沈黙を貫くしかなかった。教室に響く空虚な笑い声が、私の心を締め付けてくる。
その時、教室のドアが開き、陽乃ちゃんが戻ってきた。彼女の明るい声が教室に響く。
「あれ? みんな、何してるの?」
一瞬で、教室の空気が変わった。ミナミさんも取り巻きたちも、それまでの威圧的な態度をさっと引っ込め、普通のクラスメイトの顔をして陽乃ちゃんに向き直った。
「陽乃、おかえり! 真白ちゃんとちょっと話してたとこぉ」
ミナミさんは、屈託なく笑いながら言った。だが、その笑顔の裏には冷徹なものが見え隠れしていた。
「そっか。じゃあ、真白、帰ろう? ミナミたちも、また明日ね」
陽乃ちゃんは私の手を取って、さっと教室を出ようとする。私が後ろを振り返ると、ミナミさんの視線が一瞬冷たくなったことに気がついた。まるで、私を睨むような目だった。
そして、翌日からだ。私は明らかに、彼女たちの態度が変わり始めていることを感じていた。教室でのやり取りがあんなにあからさまだったのに、今度はそれが静かに、私の周囲に広がっていくのを感じる。ミナミさんの取り巻きたちは、私を見る目が以前と違う。だんだんと、私を無視するようになり、まるでいなくなったかのように扱われることが増えていった。
そしてそれはいつも、陽乃ちゃんがいない時のことだった……。
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