【R18】この世界の魔王はツンでクールな銀髪美少年だ

茅野ガク

文字の大きさ
2 / 7

少年よ、私を雇え

しおりを挟む
 私の名前は葉山莉乃はやまりの
 現代日本の小さな会社で事務員をしていた23歳だ。

 学生時代の友人たちがチラホラ結婚を決め始め、自分も婚カツをせねばと焦りだした時にピエレオス異世界に聖女として召喚された。

 この世界に召喚されたあの日。
 人生で初めての合コンに挑むはずだったあの日。
 二時間後に控えた合コン狩りのために気合いを入れてマスカラを塗っていたあの日。

 絶対に合コン相手狩り対象には見せられない目のかっぴらき具合で真剣にまつ毛を盛る私を鏡の中からぶ声がした。

 三年前に一人暮らしを始める時に買ったドレッサー。
 その鏡面から、私を喚ぶ声がする。

「この鏡、中にスピーカーでも入ってるんだっけ?」

 そう思って鏡に触れた瞬間。
 私の周りの景色がグニャリと歪み白く発光した。
 そのあまりの眩しさに瞼を閉じて、次に開けた時には私はもう自分の家にいなかった。

 あー。子供の頃お兄ちゃんとやったRPGのお城とやらがこんな感じだったわ。

 きんきら金の王様の椅子に、それに座る髭の王様。両脇に控える甲冑の兵士。ハゲ頭の大臣。青いローブの神官。赤い絨毯とシャンデリア。ゲーム画面で見たことのある光景にそっくりだ。そしてその絨毯の真ん中にマスカラを握りしめて立つ私。

 あれ、私、いつの間にかコスプレの撮影スタジオに紛れ込んじゃった?

「よくぞピエレオスに参られた! 異世界の聖女よ!」

 白く長い眉毛で目元が見えない神官(※推定)が高らかに告げてイベントが始まる。 
 
 ちょ、まっ、私、まだ片方しかマスカラ塗ってないんですけどっ!

 ──などと大勢の初対面の人間の中で突っ込めるはずもなく。
 私はまつ毛を片方だけ盛ったままの状態で自分がこの世界に喚ばれた理由、魔族が如何に人間へ悪影響を与えているか等の説明を受けたのだった。

 ……うん、服と髪型はバッチリ合コン戦闘仕様だったのが救いかな!



*



「──で? あの時あんたたちが私に説明した『ピエレオスの自然破壊や貧困格差の原因は魔族』って言うのは真っ赤な嘘で? 自分たち王族の悪政のせいだってわかってたのに? 民衆の怒りの矛先を魔王に向けさせてたってことで間違いないのよねそこのボンクラ王子?」

 魔王の座る玉座の横に立ち、さっきまで自分がいた位置に這いつくばる王子とかつての仲間を見下ろす。

 金髪で典型的王族スタイルなこの国の第一王子。
 正直、一緒に旅をする中でもしかしたら愛が生まれちゃうかも。そしたら私、玉の輿じゃない? 人気の異世界ロマンスじゃない? 王子、25歳だし年齢差もちょうどよくない? 私は愛のためなら残りの人生を異世界でだって生きていくわ! ……なんて思ってた時期もあったけど、3ヶ月という期間を魔王討伐のために行動を共にしてもイマイチ人間として好きになれなかった。
 それは旅の途中で泊まった宿屋でのお店の人への横柄な態度だったり、ちょっとした言葉の使い方だったり。どこか引っかかる部分があったのだ。

「違うんだリノ……! 君は魔王ヴァルシュに騙されて……!」
「うるせぇ。ゴタゴタ言わずにイエスかノーで答えろ」
「…………イエスです……」

 がっくりと項垂れるその金髪をむしって十円ハゲを作ってやりたい。

「リノ! 王子になんて無礼な口をきくのよ! それに貴女、今までとずいぶん態度が違うじゃないっ!」

 王子と同じく、私の立つ場所より数段低い位置で床に転がっていた魔術師メノウが彼を庇う。

「怒りのあまり被ってた猫が逃げってったのよ。後で探しとくから大丈夫、気にしないで。本当の私は兄の影響で口が悪いの」

 メノウ。ストレートの黒髪と褐色の肌がエキゾチックな18歳。
 若くして最高位の魔術師になった彼女は気むずかしいところもあったけれど、女同士仲良くできたらと思っていた。

「……メノウ。貴女はいつもどこか私に壁があるような気がしていたけれど、それは私に隠していることがあったからなのね? 魔術師たちは魔王を倒したら私を日本元の世界へ送還してくれると言っていたけれど、本当はあなたたちにそんな力ない。私を喚ぶだけで精一杯だったんだ」

「……っ!」

 真実を言い当てられたメノウが榛色の瞳を潤ませる。泣きたいのはずっと騙されていた私の方だ。

「すまなかったリノ! だが無事に魔王を倒した暁には俺たちは君の今後の王都での生活をちゃんと保証するつもりで……!」

 戦士アカギがその巨軀に相応しい重低音の声で叫ぶ。
 アカギ、あんたのことは気の良いオッサンだと思っていたわ。

「財政が火の車で傾きかけたピエレオスでの今後の生活? 魔王を倒したって何の解決にもならないのに? ……って言うかアカギ。そう言うってことはあんたもグルで、私を魔王討伐のデモンストレーションに利用してたのね」

 ピエレオスの草木が枯れるのも作物が上手く育たないのも。税が重いのも民衆の生活が楽にならないのも。全ては魔族のせいで。全ては魔王のせいで。
 この国の中枢部の連中は魔族を悪に仕立てることで民の不満を自分たちから逸らしてきた。聖女を召喚し、魔王を打ち倒すことで王族の信頼を回復しようとしていた。あわよくば魔族の土地や財宝を掠め取ろうとまで計画して。

 なんて浅はか。
 なんてくだらない。

 こんな人たちより、私に真実を教えてくれた魔王の方がよっぽど信頼できるじゃない。


「……ねぇ。そろそろ帰って欲しいんだけど、この修羅場まだ続くの? と言うかなんで人間同士の仲間割れに僕が巻き込まれてるわけ?」

 私の隣で座る少年が呆れを隠さない声でぼやく。

「悪いわね少年。でも今は一人の成人女性の、私の人生の岐路なの。今ここで選択を誤ったら私の今後が詰むの。あなたも王を名乗るなら聖女に仕立てあげられたこの哀れな女の決断を見守ってちょうだい。……って言うかこっちの都合まる無視で突然呼び寄せて魔王討伐なんて危険な仕事させるとかコレって拉致とか詐欺とか犯罪にあたるんじゃないの? あーやっぱ無理。本気で無理。コイツらと同じ国に戻って生きてくとか、無理。あと少年お腹殴ってごめんね」

 そう。日本に帰る術がないとしても、この王子クソ野郎たちとまた旅をしてあの国に戻ることなど、あり得ない。

「王子、メノウ、アカギ。ここでお別れよ。あんたたちはさっさっとピエレオスに帰って自力で国を建て直しなさい」

「そんなっ君はどうするんだリノ!」

「だからうるせぇって言ってんだろ。自分たちの罪悪感を軽くするために私の心配をして見せるくらいなら最初からくだらない嘘つくんじゃねぇよこのボンクラ王子ども。あ、この『聖女の杖』返すわ。オーブは取れちゃったけど傷はついてないから後はそっちでどーにかして」

「そのオーブ、人間の持ち物にしてはそこそこ価値のある石みたいだけど返しちゃって良いの? 慰謝料として貰っておいたら?」

「いらない。婚カツ頑張って、いつか本物の王子様にもっと良い宝石のついた指輪貰う」

 そう言って『婚カツ』という耳慣れない言葉に首を傾げる少年王に向き直る。


「──と言うことで少年。私をこの城で雇ってちょーだい」


 なんで僕が?! と魔族の王たる美貌の少年は、その不思議な青色の瞳を見開いた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

勇者のハーレムパーティー抜けさせてもらいます!〜やけになってワンナイトしたら溺愛されました〜

犬の下僕
恋愛
勇者に裏切られた主人公がワンナイトしたら溺愛される話です。

淫紋付きランジェリーパーティーへようこそ~麗人辺境伯、婿殿の逆襲の罠にハメられる

柿崎まつる
恋愛
ローテ辺境伯領から最重要機密を盗んだ男が潜んだ先は、ある紳士社交倶楽部の夜会会場。女辺境伯とその夫は夜会に潜入するが、なんとそこはランジェリーパーティーだった! ※辺境伯は女です ムーンライトノベルズに掲載済みです。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...