【R18】魔法少女は御曹司を許さない

茅野ガク

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魔法少女ハニー・ムーン

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 突然はじまったハロウィンイベントのコスプレショー。
 紫とオレンジで飾られた会場にいるお客さんのほとんどはそう思っただろう。

 だって。

「レオンバルト! なんでそんなデッカイ図体して小回り効くのよ! チョロチョロしてないで私のこの『ハニームーンすぺしゃるボンバー光線』を食らってさっさっと地球から出て行きなさいよ!」

 そう叫ぶ私の髪はふわふわピンクのロングヘアー。
 着ている服だって、鮮やかな赤と白を基調にした中華風ロリィタのミニのワンピース。略して華ロリと呼ぶらしい。
 必殺技を繰り出そうと振り回しているステッキも赤と白でデザインされていて先端がハート型だ。

 現代の日本人の感覚からしたら完全にチャイナっ娘の魔法少女のコスプレだろう。

「別にチョロチョロしているつもりは無いんだけど……。ふわふわ風船みたいに飛んで来る光を避けて左右にずれてるだけだし」
 
 私が魔法少女のコスプレならば、無表情で憎たらしく答えるレオンバルトの服装も完全に悪役のコスプレ衣装だ。

 190センチ近くあるであろうデカ過ぎる長身が身に付けるのは黒の軍服。風になびくマントは外側が黒で内側が赤。
 ウィッグではない長めの金髪がキラキラと野外ライトの光を弾いている。今は距離が離れていて見えないけど、瞳の色も緑と青のオッドアイという二次元のキャラクターみたいな派手仕様。

「あの敵役の人カッコいいね? 新人の役者さんかなぁ」
「攻撃の光はプロジェクションマッピングとか?」
「あ、最近ゲリラ的にショー始める女の子と男の人がいるってSNSで見たことある! 新番組の宣伝なんじゃない?」

 10月の週末の夜。
 都内の広い公園で開かれている野外DJイベントに来ているお客さんは、ステージにいる私たちのことをそんな風に囁きあう。
 魔女、フランケン、吸血鬼。動物の着ぐるみに有名アニメのキャラクター。自分たちも思い思いの衣装を身につけている観客は楽しそうに拳を突き上げた。

「チャイナっ娘、頑張れ~!」
「イケメンのおにーさんも負けるなー!」

 ステージ袖にいるイベントスタッフが「こんなショーの予定有ったっけ」と進行表を確認しているのが目に入るけど、いくら探してもそんな予定ショーの文字はどこにも書いてあるはすがない。

 何故ならこれは、本物の魔法少女と、宇宙からやって来た異星人の戦闘バトルなのだから。



*



 世界は広い。
 私たち人間がまだ出会ったことのない生き物や植物。まだまだ解明されていない不思議な現象。
 そんな驚きで世界は溢れてる。

 私も自分が魔法少女として就職するまで、実は地球に宇宙人がたくさん住んでいるなんて知らなかった。

 ……『少女』と言っても、私は就職した時点で19歳、現在は二十歳の成人済みなのだけれどそこは便宜上ぼんやりぼかして魔法少女と名乗らせて欲しい。


「ティエラ星の御曹司の接待、ですか」


 そんな魔法少女の私が上司に呼び出されたのは、緑が鮮やかな初夏の頃だった。

 時任ときとうグループ地球防衛部門魔法少女課。
 都心のど真ん中に建てられた高層ビルの中のオフィスで私は上司の指令を確認する。

 時任グループ。
 駄菓子屋経営から輸入業、環境保護活動にエクソシストの派遣など。幅広く手掛ける日本が誇る世界的大企業。
 魔法少女課はその時任グループの事業の一つだ。
 ちなみにこのデッカイ高層ビルも時任グループの持ち物らしい。

「そう。時任グループとも取り引きの有るティエラ星の企業の御曹司、レオンバルト君。御年27歳。今回の来日は2回目。なんか前回東京に来た時にハニームーンの仕事現場に居合わせてファンになったんだって。それで今回どうしても君と食事する機会が欲しいって社長に交渉したらしくてさぁ。本来なら原則そーゆーのは許可できないんだけど。だってほら、魔法少女の普段の姿とかバレたら始末書ものだし」

 でもそこら辺はコネとか取引上の関係とかいろいろ有ってさー。って言うか社長がオッケー出しちゃってるんだから始末書も何も関係ないんだけどー。……と普段から妙に軽いノリの糸目の上司は笑う。

「まぁ別にハニームーンの姿で食事するくらいなら構いませんけど……。ティエラ星は友好星ですし。あそこの御曹司ならマナーも日本とそう変わりませんし」

 美形なのは確実ですし。

 そう。ティエラ星人は言ってしまえば宇宙人だけれど、見た目も文化もほぼ地球と変わらない種族の人たちだ。
 むしろ日本人の感覚からするとティエラ星人は超美形揃い。
 ここだけの話、地球人として芸能界で活躍しているティエラ星の人もけっこうな人数いるらしい。
 それくらい、宇宙人は私たちのすぐそばで暮らしている。
 隣の席の同級生だって、外を歩いている野良猫だって、植物園に生えている珍しい木だって。実は地球外生命体かもしれないのだ。

「あ、本当ー? じゃあ今晩よろしくね! 明日は有給取ってくれて良いし、場所は時任のホテルのフランス料理の個室を用意してあるから」
「わっ。あそこのお店のデザート大好きなんですよ。嬉しい」

 会社のお金で飲み食いできてラッキー。しかも急きょ明日が休みになった!

 ……なんて能天気に喜んだあの時の自分の胸ぐらを掴んで揺さぶりたい。

「……あ、君、酒癖悪いんだから飲み過ぎないようにね」
「失礼な。いくら私でも接待の席で酔っぱらうなんてバカな真似しませんよ」

 ……それがバカだったんだよなー。

 あの時の私、聞いとけ。上司の言葉はちゃんと聞いとけ。
 おまえ、後で死ぬほど後悔するから上司の言葉はちゃんと聞いとけ!!


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