【R18】急募!偏食淫魔のご主人様

茅野ガク

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ちょっと精気を吸うくらいの種族です

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「おぉ~! 大きくなってるぅー!」

サーヤとして生まれて二年。現世で初めて味わう満腹感に私はご機嫌だった。
広いバスルームの大きな鏡に全身を映して成長した自分の姿を点検する。

鏡の中の少女は高校生くらいだろうか?
背中を覆うサラサラの黒髪。小さな顔にスラリと伸びた細い手足。
幼女の頃の面影を残しながらも、既に色香を漂わせ始めた美少女がそこに居た。
(義務教育飛び越えたのにまだAカップで余裕そうなのが気になるけど……)

王様のくれた力で私が飛ばされたのは、都内の高級マンションの中に有るプールだった。
そして私を助けてくれた人はこのマンションの住人で、今私が入っているバスルームの部屋の持ち主だ。
──と言うか、プールを含めた最上階全部がその人のものらしい。
前世の私とそう年は変わらなそうなのに、生活環境が違い過ぎておののく。
(この壁とか床とかってたぶん、大理石……だよね? あと、もしかしてあれ、サウナ?)
材質も広さもシャワーの形も設備も、置いてある石鹸類も、まるでスパかホテルみたいだ。


人工呼吸を施した相手が突然成長するという事態に、その人はしばらく固まったあと「……えーと、救急車、呼ぶ?」と聞いてきた。
心配して貰っている最中だというのに、私の視線は無意識に高い鼻梁から形の良い顎に伝う水滴の動きを追う。
(こんな綺麗な男の人、テレビ以外で初めて見た)
濡れて張り付いた前髪の隙間から見える切れ長の目が色っぽい。

「やっぱり、意識が……?」
心配そうに至近距離で覗きこまれて思わず仰け反る。
「いえ! むしろ体調的には生まれて初めてってくらい絶好調なので大丈夫です!」
事実、溺れた直後なのにピンピンしていたので辞退させていただく。急に来た成長期のわりには成長痛も無い。
そんな私の様子に救急車を呼ぶのを止めた彼は、代わりにこう提案した。
「じゃあ、タオル……嫌じゃなかったら、お風呂、使う?」

そういうわけで私は今こうしてお風呂に入っている。
初対面の相手の家の風呂を使うなど前世の私だったらとてもじゃないけどできないが、今の私は淫魔だ。風呂ぐらい入れなくてどうする。

しかし目の前に突如現れた幼女が少女になっても、人というものはとりあえずズブ濡れの相手は温めなければと思うらしい。
もっと大騒ぎされるかと思ったけど淡々と家に案内され淡々とバスルームに通された。
それとも彼なりの現実逃避だろうか?
ちなみに恩人である家主より先に温まるのはさすがに遠慮したら、もう一つお風呂が有るから大丈夫と言われた。

飽きずに自分の姿を眺めていた私にドアの外から声がかけられる。
「ごめん。君の着ていたワンピース、乾燥機にかけてみるけど破れちゃってるから、とりあえず俺のTシャツ置いておくね」
「すみませんありがとうございますー!」

遠慮しない私も私だけど、この人イイ人過ぎやしないか。
お互いまだ名前も知らないのに親切過ぎる。
こんな怪しい存在(私だ)にこんな豪華なバスルーム提供した上に服まで貸してくれちゃって大丈夫なのか。
お人好し過ぎて詐欺の対象になったりしないだろうか。

とにかく温まったからには、きちんと自己紹介をして改めてお礼を言わなければ。
そして、もし叶うなら、あの甘い『気』を、もう一度吸わせて貰えないだろうか──。
今の私のことをどうやって説明しようか考えながらドアを開けた。




「先程は色々と助けていただき本当にありがとうございました。私はサーヤ。ご覧になったとおり人間ではありません」
これまた広いリビングの大きなソファで向かい合って腰かけて深々と頭を下げる。
どんな反応が返ってくるだろうか。危害を加えられそうになったら淫魔のフェロモンでどうにかしようと思いつつドキドキした。
いきなり正体をばらすのは早計だとわかっている。
でも何故か、この恩人にはなるべく誠実に接したいと思った。

「俺は時任累ときとうるい。24才の人間で男です」
私の緊張とは裏腹にその人──累さんはのほほんと笑って名前を教えてくれる。
私がお風呂に入っている間に着替えたのか、細身のジーンズにグレーのサマーニット姿だ。髪ももう濡れていない。

「……驚かない、んですか?」
「君が突然プールに現れて姿が大きくなった時は驚いたけど、俺、不思議な現象にはちょっと馴染みが有るんだよね」
どんな馴染みだ。
馴染みが有るからって笑って流せる事象なのか。
私が転生してる間に突如幼女が現れるくらいのことは一般的になったのか。
それともやっぱりお金持ちって器が大きいの?

「まあ君みたいなパターンを見たのは初めてだけど」
「パターン……」
「たぶん君、そんなに邪悪な存在じゃないみたいだし、大丈夫かな。って」
「確かにちょっと精気を吸うくらいの種族ですけど……」
「へぇ! 精気を吸うんだ! じゃあ、もしかしてさっきは俺の精気を吸ったの?」
少し色素の薄い瞳をキラキラと輝かせて、累さんが前のめりに質問してくる。
黙っていたら冷たい印象を与えそうなほど整った貌をしているのに、今はまるでカブトムシを見つけた少年のように無邪気だ。
……あ、私、珍しい虫枠的な扱い?

「はい。本当は淫らな気が一番お腹に溜まるはずなんですけど、累さんの人工呼吸でお腹いっぱいになりました。……あの時、何かえっちなこと考えてました?」
もしそうなら公園で見つけた食事相手より危ない。

窺うように上目づかいで自分を見る私に、やっぱり累さんはおっとりと笑う。
「君のことは可愛いと思うけど、さすがに溺れた小さな女の子に欲情するほど人でなしではないかな」
ですよねー。恩人に失礼な疑いを持ってしまって申し訳ない。

……でも、そうなると私は累さんの純粋な『気』を一度吸っただけでここまで成長したことになる。
累さんは精気を吸う魔族にとって極上の食材なのだろうか?
それとも、私と累さんの気はとんでもなく相性が良い?

(人工呼吸だけでもあんなに美味しかったのに、累さんがえっちな気分になったらどうなるんだろう)

無意識に、喉がごくりと鳴った。

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