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「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー
バザーの事情
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サマー子爵邸のある村に、秋祭りの日々がやって来た。
最初に行われるのが収穫祭である。
農家の人たちが中心になって、今年の恵みを神に感謝するお祭りだ。
ご自慢の作物、家畜、料理を一堂に集めて、ミス・コンテストならず産業品評会をおこなったり、青年団が速さと力比べの競技会をしたりする。
ここで今回問題になるのが、教会の婦人会のバザーである。
今年は母様が、牧師様の奥さん、サラ・めんどー・ブリックの押しの強さにとうとう負けて、役員長を引き受けてしまった。
うちの村の人数は、75人と少ない。
その半数程が女性であるとはいえ、中には子供や老人もいる。
主に役員活動のできる人など限られている。
だから母様も役員は毎年していた。
けれど役員長は、お医者様のドクター・クランクの奥様であり、村の女性陣のまとめ役でもある、パット・クランクがいつも引き受けてくれていた。
今回、そのミズ・パットの実家にご不幸があったとかで、彼女が長期間この村を不在にすることになった。
取りまとめ役不在の中、婦人会の中でいろいろすったもんだがあった挙句…母様にお鉢がまわってきたらしい。
エミリーも10歳になったので、子供会からの移行組として、自動的に婦人会の一員に入れられていたようだ。
母様の「なんでもいいから作品をかき集めて出すのよ! 婦人会のテントだけスカスカの閑古鳥になるなんて、ミズ・パットに申し訳が立たないわ。」の号令一括、エミリーもサマー子爵家の活動要員として、頻繁に作業に駆り出されることとなった。
つまり、物凄く忙しくなったのだ。
「皇太子さまが、おじい様の屋敷から大学の学生寮に移られて、お弁当を作らないでよくなったわ。るるるん。」などと喜んでいられたのは、遠い昔。
ここでもう一つの問題がある。
我が姉ブリジットとキャサリンだ。
ブリーとキャスは、母様と同じく裁縫が苦手だ。
それは自慢ではないが勿論エミリーにも遺伝している。
しかし、子爵家の4人が揃って裁縫関連の手芸品コーナーから撤退した場合、バランスを考えるとどうだろうということになった。
バザーの中で手芸品コーナーの占める位置は大きい。
今までただの役員であった時には許されたものも許されまい。
誰かが手芸チームに入るべきだ。
じゃあ、誰が? ということになる。
大抵の社会的力関係では、力の強いものから力の弱いものに面倒ごとを振ると決まっている。
上司から平社員、兄弟で言えば、長子から末子と。
皆の目がエミリーのほうに向いているのはわかっていたが、母様が躊躇していた。
「でもいくらなんでもエムは10歳だからねぇ。やっぱりここは、ブリーかキャスが…。」と言いかけたところを、二人が共同して遮った。
「母様、なつみさんがいるじゃない。エムには経験のあるいいお友達がいるんだから、アドバイスしてもらえるわよ。」
そうブリーが言えば、キャスも追従する。
「私も、そのなつみさんともう一人のお友達のおきぬさんに手伝ってもらって、この間のエプロンができたのよ。魔女のカンザスにも初めて褒めて貰えたわ。それに私、そうそうこっちに帰ってこれないし…。」
おのれ二人とも。
恩を仇で返しやがって。
つまり忙しくなった上に、苦手作業が加わったのである。
神はいないのか?
あっそうか、いたからこういうことになっているんだった。
◇◇◇
手芸品コーナーの今年の係長さんは、うちのお手伝い頭のタナー夫人だ。
「毎年、袋物を作ったりパッチワークの鍋敷きや鍋つかみを作ったりしてるんですけど、ここんとこマンネリになっているんですよね。家なんか、同じような物が毎年増えていって、もうこれ以上どこにしまっておくの?状態なんですよ。…エミリーさま、何かいいアイデアがありませんかね。なつみさんに聞いてもらえませんか?」
タナー夫人、あなたもかっ。
先日のお料理レクチャーからこっち、タナー夫人はなつみさんの事を、専業主婦のスーパーバイザーのように思っているふしがある。
掃除方法や収納方法も、いろいろ聞いてくることが多くなった。
またなつみさんも、いちいちそれに応えられる引き出しを持っているのだから始末が悪い。
まあそれをいちいち通訳?している私も、大概お人よしだが…。
そして、お人よしのエミリーは律儀にもなつみさんに聞くことにした。
誰もいない部屋に戻ってなつみさんを呼び出す。
「【アラバ グアイユ チキ チキュウ】」
ピーーンポーーン
『はぁーい。呼ばれて飛び出たなつみさんでーーす。』
…そのセリフ、気に入ってるんだね。
この間も言ってた。
エミリーはタナー夫人が言っていたことをなつみさんに相談してみた。
『バザー? 懐かし~、よくやったわ。子供たちの幼稚園のPTAに始まって、最後には地域のボランティア活動まで。ふむふむ、手芸品ね。そうね、タナー夫人が言っているように王道は袋物と台所用品よねぇ。でもインテリア品はどうなのかしら?』
「インテリア?」
『ええ。若いお母さんたちの中には、ハロウィンのかぼちゃやクリスマスツリーの飾りを作っている人も多かったわよ。これからの季節だと、そこそこ需要はあったみたい。例えば、ハロウィンの変身道具なんかだと買う人もいるんじゃない?』
あっ、それはあるかも!
私も学校のハロウィンパーティー用に欲しい!
いや、自分で作って事前準備ができるね。
それ、いってみよーー。
そんな、なつみさんのアイデアをタナー夫人に話したところ、
ハロウィンの変身道具や衣装に加えて、季節のインテリア品も多少用意することになった。
これには秋・冬ものだけでなく、春のイースターエッグも製作品に加わった。
なぜか係が全然違うサラ・めんどーが、イースターエッグにこだわりがあるらしく、自分だけで作って供出してくれることになったのだ。
なんとか形になりそうである。
いやいやの忙しさから、少し前向きな忙しさに変わって、気分が向上したエミリーは、苦手な裁縫と向き合うことになった。
その時自分の前世にも、深く向き合う事になったのだ。
最初に行われるのが収穫祭である。
農家の人たちが中心になって、今年の恵みを神に感謝するお祭りだ。
ご自慢の作物、家畜、料理を一堂に集めて、ミス・コンテストならず産業品評会をおこなったり、青年団が速さと力比べの競技会をしたりする。
ここで今回問題になるのが、教会の婦人会のバザーである。
今年は母様が、牧師様の奥さん、サラ・めんどー・ブリックの押しの強さにとうとう負けて、役員長を引き受けてしまった。
うちの村の人数は、75人と少ない。
その半数程が女性であるとはいえ、中には子供や老人もいる。
主に役員活動のできる人など限られている。
だから母様も役員は毎年していた。
けれど役員長は、お医者様のドクター・クランクの奥様であり、村の女性陣のまとめ役でもある、パット・クランクがいつも引き受けてくれていた。
今回、そのミズ・パットの実家にご不幸があったとかで、彼女が長期間この村を不在にすることになった。
取りまとめ役不在の中、婦人会の中でいろいろすったもんだがあった挙句…母様にお鉢がまわってきたらしい。
エミリーも10歳になったので、子供会からの移行組として、自動的に婦人会の一員に入れられていたようだ。
母様の「なんでもいいから作品をかき集めて出すのよ! 婦人会のテントだけスカスカの閑古鳥になるなんて、ミズ・パットに申し訳が立たないわ。」の号令一括、エミリーもサマー子爵家の活動要員として、頻繁に作業に駆り出されることとなった。
つまり、物凄く忙しくなったのだ。
「皇太子さまが、おじい様の屋敷から大学の学生寮に移られて、お弁当を作らないでよくなったわ。るるるん。」などと喜んでいられたのは、遠い昔。
ここでもう一つの問題がある。
我が姉ブリジットとキャサリンだ。
ブリーとキャスは、母様と同じく裁縫が苦手だ。
それは自慢ではないが勿論エミリーにも遺伝している。
しかし、子爵家の4人が揃って裁縫関連の手芸品コーナーから撤退した場合、バランスを考えるとどうだろうということになった。
バザーの中で手芸品コーナーの占める位置は大きい。
今までただの役員であった時には許されたものも許されまい。
誰かが手芸チームに入るべきだ。
じゃあ、誰が? ということになる。
大抵の社会的力関係では、力の強いものから力の弱いものに面倒ごとを振ると決まっている。
上司から平社員、兄弟で言えば、長子から末子と。
皆の目がエミリーのほうに向いているのはわかっていたが、母様が躊躇していた。
「でもいくらなんでもエムは10歳だからねぇ。やっぱりここは、ブリーかキャスが…。」と言いかけたところを、二人が共同して遮った。
「母様、なつみさんがいるじゃない。エムには経験のあるいいお友達がいるんだから、アドバイスしてもらえるわよ。」
そうブリーが言えば、キャスも追従する。
「私も、そのなつみさんともう一人のお友達のおきぬさんに手伝ってもらって、この間のエプロンができたのよ。魔女のカンザスにも初めて褒めて貰えたわ。それに私、そうそうこっちに帰ってこれないし…。」
おのれ二人とも。
恩を仇で返しやがって。
つまり忙しくなった上に、苦手作業が加わったのである。
神はいないのか?
あっそうか、いたからこういうことになっているんだった。
◇◇◇
手芸品コーナーの今年の係長さんは、うちのお手伝い頭のタナー夫人だ。
「毎年、袋物を作ったりパッチワークの鍋敷きや鍋つかみを作ったりしてるんですけど、ここんとこマンネリになっているんですよね。家なんか、同じような物が毎年増えていって、もうこれ以上どこにしまっておくの?状態なんですよ。…エミリーさま、何かいいアイデアがありませんかね。なつみさんに聞いてもらえませんか?」
タナー夫人、あなたもかっ。
先日のお料理レクチャーからこっち、タナー夫人はなつみさんの事を、専業主婦のスーパーバイザーのように思っているふしがある。
掃除方法や収納方法も、いろいろ聞いてくることが多くなった。
またなつみさんも、いちいちそれに応えられる引き出しを持っているのだから始末が悪い。
まあそれをいちいち通訳?している私も、大概お人よしだが…。
そして、お人よしのエミリーは律儀にもなつみさんに聞くことにした。
誰もいない部屋に戻ってなつみさんを呼び出す。
「【アラバ グアイユ チキ チキュウ】」
ピーーンポーーン
『はぁーい。呼ばれて飛び出たなつみさんでーーす。』
…そのセリフ、気に入ってるんだね。
この間も言ってた。
エミリーはタナー夫人が言っていたことをなつみさんに相談してみた。
『バザー? 懐かし~、よくやったわ。子供たちの幼稚園のPTAに始まって、最後には地域のボランティア活動まで。ふむふむ、手芸品ね。そうね、タナー夫人が言っているように王道は袋物と台所用品よねぇ。でもインテリア品はどうなのかしら?』
「インテリア?」
『ええ。若いお母さんたちの中には、ハロウィンのかぼちゃやクリスマスツリーの飾りを作っている人も多かったわよ。これからの季節だと、そこそこ需要はあったみたい。例えば、ハロウィンの変身道具なんかだと買う人もいるんじゃない?』
あっ、それはあるかも!
私も学校のハロウィンパーティー用に欲しい!
いや、自分で作って事前準備ができるね。
それ、いってみよーー。
そんな、なつみさんのアイデアをタナー夫人に話したところ、
ハロウィンの変身道具や衣装に加えて、季節のインテリア品も多少用意することになった。
これには秋・冬ものだけでなく、春のイースターエッグも製作品に加わった。
なぜか係が全然違うサラ・めんどーが、イースターエッグにこだわりがあるらしく、自分だけで作って供出してくれることになったのだ。
なんとか形になりそうである。
いやいやの忙しさから、少し前向きな忙しさに変わって、気分が向上したエミリーは、苦手な裁縫と向き合うことになった。
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