サマー子爵家の結婚録    ~ほのぼの異世界パラレルワールド~

秋野 木星

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第二章 「のっぽのノッコ」に恋した長男アレックス

婚約式をするより結婚式?

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 お父さんがお正月におばあちゃんちに行くという連絡の電話のついでに、アルさんが提案したイギリスでの婚約式について伯父さんに話をしたらしい。

「兄貴がさ、イギリスまでなんて遠くて何度も行けないから、婚約式なんかしないで結婚式をしたらいいのにって言うんだ。」

「そうねぇ。おばあちゃんもいるし、お義兄さん夫婦も何回も長期間留守に出来ないわよね。初夏だとお盆休みも取れないし、仕事を休むのに婚約式と結婚式だったら、そりゃあ結婚式って言う方が職場にも言いやすいものねぇ。」

両親の言うことも最もだ。日本では婚約式なんてしない人がほとんどだし、ましてやそれに親戚が出席するなんてあまり聞いたことがない。

都会では結婚式に親戚も呼ばないことも多いそうだ。
大賀は田舎なので親戚が出席しない結婚式なんて考えられないが…。


それを聞いていたアレックスはしばらく考えていたが「日本の事情に合わせたほうがいいですね。ちょっとイギリスの家族と相談してみます。」と言ったかと思うと、パソコンを取り出して英語でメールを打ちだした。
アレックスのキーを打つ指は早くて迷いがない。両親もその作業を見ながらアルさんがキーを打つスピードに感心していた。


「これで明日の朝に返事をくれると思います。」

でも、なんて連絡したんだろう。

「アルさん、どういう風にご両親に伝えたの?」

「んー、いくつか提案したんだけど…。僕の第一希望は、イギリスの家族が日本に来てこっちで会食形式で婚約式をしたらどうかと思ったんだ。それで、お盆休みに向こうで結婚式をするというのはどうだろう? ノッコが夏休みになったらイギリスに行って、ドレスなんか選んでくれればいいよ。男の衣装は決まってるから僕は結婚式前にあっちへ帰ればいいでしょ。それだと、8月にはノッコも貴族の一員だから編入試験なしで嘆願書を出すだけで向こうの大学に編入できると思うよ。その書類も家族に持って来てもらえばいいしね。」

「ちょっとアルさん、なんか結婚式が早まってるんですけど…。」

アルさんは当然だとにっこり笑った。

「それはそうさ。僕は一刻も早くノッコと一緒になりたいんだ。片時も…。」

「わぁーーー!!」

もう何を言い出すやら、両親の前でっ!

ノッコが急に大声を出したので、お父さんもお母さんもびっくりしている。

「バカじゃんノッコ。2人とも英語は通じないんだから黙ってりゃバレないのに。」

「もう伸也。あんたもいるじゃない!」

伸也はニヤニヤ笑っている。
覚えときなさいよ。
あんたが結婚する時にはとことん揶揄からかってやるからっ。

私達のやり取りでアルさんが惚気のろけかなんかを言ったことが予想されたのだろう。
お母さんは「ふーーん。いい感じじゃないの。」と言うし、お父さんはそっぽをむいて照れている。

ノッコが真っ赤になって黙っているので、伸也がアルがイギリスに提案したことを翻訳していた。
最後のセリフも翻訳しようとしたので頭を叩いておいた。

お母さんは伸也が言ったことを聞いて、すぐに賛成してくれた。

「それはいいじゃない。あちらのご家族がそれでいいと言ってくださったら、私はアルの提案でいいと思うわ。ねぇ、お父さん。」

お父さんは、兄さんたちの希望には沿うな…とか言いながらもちょっと寂しそうだ。
ごめんね、お父さん。
一人娘なのにこんなことになっちゃって…。



◇◇◇



 アレックスは日本式のクリスマスの過ごし方にも驚いていたが、年末から大晦日にかけての日本の行事の数々にも、いちいち大きなリアクリョンで驚いていた。

神社のすす払いは見学に行くし、公民館のお飾り作り教室にも参加した。
正直、ノッコは日本人でありながらそのどちらも初体験だったので、恥ずかしく思った。

これは外国に行って日本文化について尋ねられた時に困りそうだ。

私も何か身に着けたほうがいいかもしれない。

そんなことをお母さんに言ったら…。

「着物の着付けとお茶とお花をやっときなさいよ。昔からの花嫁修業の基本じゃない。私は着付けは習ってないけど、あっちに行ったらパーティーで着物を着たら珍しくて喜ばれるんじゃない? 成人式の着物を持って行きなさい。訪問着は私のがあるからあげるわ。もう着ないし。」

と、言われた。

なるほど、準備や考えることがいろいろありそうだ。


我が家は毎年12月の30日にお餅つきをする。
「神様の飾り餅を一日飾りにするのはよくない。」とおばあちゃんから聞いていたからだ。

餅つきは小さい頃から手伝ってきたので、ノッコも餅の揉み方をアルに教えることが出来た。

「餅は、辛くあたるの。その方が綺麗な形になるのよ。」

アルさんが最初に揉んだ餅は不格好で皆で大笑いしたのだが、いくつも揉むうちに丸い綺麗な形を作ることが出来るようになってきた。
その時のアルさんのドヤ顔を見て、またみんなで大笑いをした。

「楽しいね、ノッコ。これはまたやりたいな。」

「またいつでもおいで。イギリスは遠いけれど、出来るだけ帰って来てくれると嬉しいな。」

お父さんが言ったことを聞いてノッコも愕然とした。

そうか…帰れなかったら、これが私にとって最後の餅つきになるんだ。


ノッコは結婚して外国に住むということの本当の意味をひしひしと感じていた。

何日か前まではこんな人生になるなんて考えてもみなかった。

ノッコの様子が変わったのが判ったのだろう。
アルさんがお父さんに約束してくれた。

「オトウサン、必ず帰って来ます。日本で結婚した夫婦より度々ここに来るようにしますから。安心してください。」

もう、アルさんったらそんなことできるわけないでしょ。
できないのは判っていたが、そう言ってくれる気持ちだけでも嬉しかった。


大掃除も年末の買い物も一緒にやって、大晦日の赤青歌合戦も一緒に観ていると、もうアルさんもうちの家族の一員みたいだ。

「コタツはいいよ。あったかいねぇ。」

お父さんと一緒にほろ酔い加減でお節料理をつついているアルさんは日本人のようだ。

そう言えばアルさんにも日本人だった時の生があるんだよね。

東京に帰ったら、そのことを教えてあげようかなぁ。

ノッコはそんなことを考えながら、通じない会話をしているのになぜか気持ちが通じているようなアルさんとお父さんを見ていた。
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