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第二章 「のっぽのノッコ」に恋した長男アレックス
繋がりのその先に
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ノッコとアレックスは、おじい様とおばあ様をホテルに送り届けてからアパートに帰った。
時差があるので、お2人にはゆっくり休んでもらってから、夕食をご一緒することになった。
アレックスは今回のおじい様達の来日に合わせて新車を購入したのだが、特別注文で作ってもらった。
おばあ様の車いすも乗せることのできる、障がい者に優しい設計のバンである。
空港の駐車場で、車の外に出ていた座席がおばあ様を乗せてゆっくりと車の中に格納されていくのを皆で感心して見ていると、「まぁ、スパイ映画みたいだわっ。」と座席に座っているおばあ様自身が一番喜んだ。
この新車は私達がイギリスに行った後は実家に置いておいて、また日本に来た時に使う予定だ。
私達がいないときは伸也が乗り回すと言っていた。
「ノッコ、おばあ様に会ってから何か考えてるだろう。」
他人の前世がどのように見えてしまうのかをノッコが打ち明けてから、アレックスはノッコの様子に敏感になった。
「うん。車でおばあ様の横に座った時にね、見えたのよおばあ様と私たちの前世が。」
「え、僕たち?」
「そうなの。前世では私たちとおばあ様は親子だったの。…以前話したアレックスの前世の話を覚えてる? ほら、アルがヨーロッパのどこかの国の騎士だった話。あの時の、村娘の私と騎士のアレックスの間に出来た子どもがおばあ様だったみたい。今のおばあ様本人というわけじゃなくて、多分何百年も前のことだろうからおばあ様の前世の人と言ったらいいかしら。」
この話にはさすがのアレックスも面食らっていた。
自分たちの子供が、自分より年寄りだと言われても急には飲み込めない話だ。
「でも、以前親しい間柄だったと言われれば、思いつくことがあるな。去年さ、僕がイタリアに行った時におばあ様が教えてくれたんだけど、僕が生まれて最初に抱っこした途端になにか魂の繋がりを感じたと言っていたんだ。でもその時は、初孫だったし嫡男だったからそんな言い方をしたのかなと思ってた。けど…ノッコの話を聞くとそれだけじゃなかったみたいだね。」
本当に…魂とは不思議なものだ。
これから出会う人の中にも、魂の繋がりがある人がいるのかもしれないね。
◇◇◇
おばあ様たちと一緒に夕食を食べた後におじい様からアレックスに、そしてアレックスからノッコへと渡されたのがストランド伯爵家へ代々伝わる婚約指輪だった。
かつてはおばあ様の手を飾り、お母さまから私へと伝わって来たものだ。
アルさんが恭しくノッコの左手の薬指にその指輪をはめてくれる。
はめてもらった瞬間、ぐっと胸に詰まるものがあった。
赤い宝石が静かにノッコの指に馴染んでいく。
幸福感とこれからの生活への不安がごちゃ混ぜになって、左手の手の上に漂っていた。
「アレックスが15歳になった時に現代風のデザインにして宝石をはめ直してもらったのよ。これを私達の手から貴方へ渡すことが出来てこんなに嬉しいことはありませんよ。なかなか彼女を作ろうとしないので、私の目の黒いうちにこんな喜びを味合わせてもらえるなんて、思ってもみなかったわ。」
「おばあ様…。」
「あら、本当の事でしょ。イギリスでは早い子は15、6で結婚するんだから。貴方は遅いほうなのよアレックス。」
「わかってますよ。ノッコを見つけたんだから、もう勘弁してくださいよ…。」
おばあ様の前だと、大人だと思っていたアルさんが子どもみたいだ。
「エバンジェリン、もうそれくらいにしといてやりなさい。それよりこれからの事だよ。ノッコ、これはストランド伯爵家の代々の歴史が記してある本だ。結婚式までに一通り目を通しておいてくれると助かる。こっちはサマー子爵家のもの。えーっとそれから、婚約式をイギリスでしないからノッコに親族を紹介できないだろ、だから写真と名前と其々の領地の位置を記したものを持って来た。これも結婚式までに覚えておいて欲しい。特にこの一番上のばぁさんは必ず覚えといてくれ、要注意人物だ。ドナシェラ大叔母さんは煩いからな。詳しいことはアレックスに聞いてくれたらいい。それで、簡単でいいからノッコの家の親戚についても資料をくれんか。儂らがイギリスに持ち帰りたいと思う。」
「あっ、それならアレックスに聞いて用意してあります。こちらの和紙の封筒に入っているのは、日本で結婚前に交わす釣書というものです。こちらは筆で書いてますから、アレックスに英文タイプで打ち直してもらいました。親族の写真は、こちらに入っています。それから記念になると思ったので、日本の婚約式の時に使う結納のセットをイギリスの方に送っておきました。来客の方に見えるように飾って頂けると嬉しいです。」
「ほう、そんなものがあるのかね。ユイノウと言ったか?」
「はい。送る前に本家の座敷の床の間で撮った写真がこちらです。」
おじい様とおばあ様は「結納」の習わしに興味津々だ。二人で顔をくっつけて写真を覗き込んでいる。
「まぁ、綺麗ねぇ。かぐや姫の絵に出て来る宝物みたい。」
「かぐや姫を知っておられるのですか?」
「ええ。以前日本の大使さんに絵本をもらったの。今回の旅行でそんな絵本が買える所に連れて行ってくれるかしら? お友達で欲しいと言っていた人がいるのよ。」
おばあ様の一言で、イギリスのお土産に持って行くもののイメージが湧いた。
日本にしかない日本の職人さんの工芸品だね。
あっ、これは商売になるかも。
店を一軒都合できないかなぁ。
後でアレックスに聞いてみよう。
この思い付きは私たち家族の今後を大きく変えることになる。
のっぽのノッコ、商売という長い旅路への船出である。
時差があるので、お2人にはゆっくり休んでもらってから、夕食をご一緒することになった。
アレックスは今回のおじい様達の来日に合わせて新車を購入したのだが、特別注文で作ってもらった。
おばあ様の車いすも乗せることのできる、障がい者に優しい設計のバンである。
空港の駐車場で、車の外に出ていた座席がおばあ様を乗せてゆっくりと車の中に格納されていくのを皆で感心して見ていると、「まぁ、スパイ映画みたいだわっ。」と座席に座っているおばあ様自身が一番喜んだ。
この新車は私達がイギリスに行った後は実家に置いておいて、また日本に来た時に使う予定だ。
私達がいないときは伸也が乗り回すと言っていた。
「ノッコ、おばあ様に会ってから何か考えてるだろう。」
他人の前世がどのように見えてしまうのかをノッコが打ち明けてから、アレックスはノッコの様子に敏感になった。
「うん。車でおばあ様の横に座った時にね、見えたのよおばあ様と私たちの前世が。」
「え、僕たち?」
「そうなの。前世では私たちとおばあ様は親子だったの。…以前話したアレックスの前世の話を覚えてる? ほら、アルがヨーロッパのどこかの国の騎士だった話。あの時の、村娘の私と騎士のアレックスの間に出来た子どもがおばあ様だったみたい。今のおばあ様本人というわけじゃなくて、多分何百年も前のことだろうからおばあ様の前世の人と言ったらいいかしら。」
この話にはさすがのアレックスも面食らっていた。
自分たちの子供が、自分より年寄りだと言われても急には飲み込めない話だ。
「でも、以前親しい間柄だったと言われれば、思いつくことがあるな。去年さ、僕がイタリアに行った時におばあ様が教えてくれたんだけど、僕が生まれて最初に抱っこした途端になにか魂の繋がりを感じたと言っていたんだ。でもその時は、初孫だったし嫡男だったからそんな言い方をしたのかなと思ってた。けど…ノッコの話を聞くとそれだけじゃなかったみたいだね。」
本当に…魂とは不思議なものだ。
これから出会う人の中にも、魂の繋がりがある人がいるのかもしれないね。
◇◇◇
おばあ様たちと一緒に夕食を食べた後におじい様からアレックスに、そしてアレックスからノッコへと渡されたのがストランド伯爵家へ代々伝わる婚約指輪だった。
かつてはおばあ様の手を飾り、お母さまから私へと伝わって来たものだ。
アルさんが恭しくノッコの左手の薬指にその指輪をはめてくれる。
はめてもらった瞬間、ぐっと胸に詰まるものがあった。
赤い宝石が静かにノッコの指に馴染んでいく。
幸福感とこれからの生活への不安がごちゃ混ぜになって、左手の手の上に漂っていた。
「アレックスが15歳になった時に現代風のデザインにして宝石をはめ直してもらったのよ。これを私達の手から貴方へ渡すことが出来てこんなに嬉しいことはありませんよ。なかなか彼女を作ろうとしないので、私の目の黒いうちにこんな喜びを味合わせてもらえるなんて、思ってもみなかったわ。」
「おばあ様…。」
「あら、本当の事でしょ。イギリスでは早い子は15、6で結婚するんだから。貴方は遅いほうなのよアレックス。」
「わかってますよ。ノッコを見つけたんだから、もう勘弁してくださいよ…。」
おばあ様の前だと、大人だと思っていたアルさんが子どもみたいだ。
「エバンジェリン、もうそれくらいにしといてやりなさい。それよりこれからの事だよ。ノッコ、これはストランド伯爵家の代々の歴史が記してある本だ。結婚式までに一通り目を通しておいてくれると助かる。こっちはサマー子爵家のもの。えーっとそれから、婚約式をイギリスでしないからノッコに親族を紹介できないだろ、だから写真と名前と其々の領地の位置を記したものを持って来た。これも結婚式までに覚えておいて欲しい。特にこの一番上のばぁさんは必ず覚えといてくれ、要注意人物だ。ドナシェラ大叔母さんは煩いからな。詳しいことはアレックスに聞いてくれたらいい。それで、簡単でいいからノッコの家の親戚についても資料をくれんか。儂らがイギリスに持ち帰りたいと思う。」
「あっ、それならアレックスに聞いて用意してあります。こちらの和紙の封筒に入っているのは、日本で結婚前に交わす釣書というものです。こちらは筆で書いてますから、アレックスに英文タイプで打ち直してもらいました。親族の写真は、こちらに入っています。それから記念になると思ったので、日本の婚約式の時に使う結納のセットをイギリスの方に送っておきました。来客の方に見えるように飾って頂けると嬉しいです。」
「ほう、そんなものがあるのかね。ユイノウと言ったか?」
「はい。送る前に本家の座敷の床の間で撮った写真がこちらです。」
おじい様とおばあ様は「結納」の習わしに興味津々だ。二人で顔をくっつけて写真を覗き込んでいる。
「まぁ、綺麗ねぇ。かぐや姫の絵に出て来る宝物みたい。」
「かぐや姫を知っておられるのですか?」
「ええ。以前日本の大使さんに絵本をもらったの。今回の旅行でそんな絵本が買える所に連れて行ってくれるかしら? お友達で欲しいと言っていた人がいるのよ。」
おばあ様の一言で、イギリスのお土産に持って行くもののイメージが湧いた。
日本にしかない日本の職人さんの工芸品だね。
あっ、これは商売になるかも。
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