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第四章 皇太子滝宮の「伝統を継ぐもの」
偶然の出会い
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*ヒデ*
あそこにいるのは知っている人ではないだろうか?
秀次はイギリスの空港でバスに乗り遅れた女性を見た。
日本人のようだ。たぶん同じ飛行機だったんだろう。
自分たちはVIP専用の出口からそっと外に出されたのだが、それは飛行機を降りてから、だいぶ時間が経過していた。
思いがけずイギリスの外務省筋の人間がやって来て、リチャード王子の結婚式に出席する場合の手順書などを渡されてぐずぐずと話をしていたものだから、車に乗るのがすっかり遅くなってしまった。
赤い傘を開こうと四苦八苦している女の人は、どこか見覚えがある。
秀次は隣にいたお付きの守屋に尋ねてみた。
「あそこにいる赤い傘の女の人は私の知り合いじゃないのかな。」
「えっ、どの人ですって?」
「ほら、あそこの大きな荷物を側に置いてる足の綺麗な女の人だよ。」
「ああ…そうですねぇ。…もしかしたら片岡典子さんのお友達じゃあないでしょうか。」
守屋にそう言われて思い出した。確か2人いた友達の大人しいほうだ。
…ええっと、名前はなんか「友達」みたいな名前だったと思う。本人に印象はなかったが、友達が「友達」と言う名前とは面白いなと思ったことは覚えている。
フレンドは違う。友子でもない友美? 美! ミは合っている気がする…mi……ami…そうだ、亜美という名前だった。
「バスに乗り遅れたようだよ。たぶん行く場所は同じだ。乗せて行ってあげたらどうかな。」
「…しかし、宮様。」
「守屋、同胞の女性が外国の雨の中で困っているんだよ。それにここは日本とは違う。多少の融通は効くんじゃないかい? それに典子の友達なら身上調査は済んでいるんだろう?」
「そうですが…。しょうがないですね。ケネス、彼女を連れて来てくれないか?」
こちらのエージェントのケネスが、声をかけて亜美さんを連れて来てくれた。
亜美さんはおかしな人間が出てきたらこの傘でぶってやるとでもいうように、畳んだ折りたたみ傘を両手にしっかりと握りしめている。
秀次は笑いながら黒塗りのワゴン車のドアを開けて、亜美さんに顔を見せた。
「亜美さん、怪しいものじゃありません。典子のお友達の亜美さんですよね。滝宮秀次です。ご無沙汰しています。」
秀次の顔を見ると亜美さんはホッとしたようだった。
「滝宮様…。本当だったんですね。」
「典子のところへ行くんですか?」
「ええ、2人目ができるそうなのでお手伝いに来たんです。」
「私もこれから典子の家に行くんですよ。一緒に乗っていきましょう。このワゴンは大きいから荷物も載せられますよ。」
「はっ? …よろしいんですか?」
亜美さんは秀次ではなく、お付きの守屋に尋ねた。
守屋は「どうぞお入りください。宮様たってのご希望ですから…。」と苦笑している。
「さぁ、どうぞ。早く乗らないと隙間から雨が吹き込みますよ。」
無理に進めると、やっと彼女は乗っていくことにしたようだ。
「…それではお言葉に甘えて、失礼いたします。」
そう言って、秀次の通路向かいの席にちょこんと腰をかけた。
傘やハンドポーチを足元に置いて、急いでシートベルトを閉める。
ケネスが亜美さんの荷物を後ろに積み込むと、吹き降りの雨の中を車は走り出した。
「亜美さんでよろしかったでしょうか。すみません。上の名前を忘れてしまって…。」
「はい。亜美です。宗田亜美と申します。家は東京で、ノッコ、典子さんとは大学の時の同級生なんです。」
「ああ、そう言えば思い出しました。もう一人の方が地方のご出身で、貴方は東京が地元だから典子に神父さんを紹介して、そのご縁で典子がアレックスと出会ったとか言っていましたね。結果として貴方が仲人さんになったわけですよね。ご縁とは不思議なものだ。」
「本当に。…まさか典子さんがイギリスに住むことになるなんて、あの時は思ってもみませんでした。」
その時ふと、秀次は自分の今の現状も鑑みて、ポロリと独り言のように口に出してしまった。
「アルはどんなふうにノッコにアプローチをしたんだろう…。」
すると亜美さんは今までの遠慮がちな様子とは打って変わって、生き生きと話に乗ってきた。
「情熱的でしたよ! 出会ってすぐその日に、この人だと決めたそうですから。次の日にはもうノッコの家に尋ねていって、居ついちゃったそうです。」
「居つく?」
「ええ。ノッコのアパートの隣の部屋を借りて、住み着いたんですって。そしてお料理からなにからノッコに頼ったそうですよ。毎日ただいまーって言ってアルさんが帰って来るから、変だなぁと思いながらノッコはバイトのつもりで食事を作ってたって言ってました。」
「えっ、ということはノッコはアルのこと、最初は意識してなかったんですか?」
「そうなんですよー。あの子は鈍い所がありますからね。アルさんの気持ちに全然気づいてなかったみたいで…ふふっ、皇居で天皇陛下の前で付き合っている人と紹介されて、びっくりしたって言ってました。アルさんはあんなにわかりやすくノッコを見つめていたのにねぇ。」
「亜美さんは、随分詳しく知っているんですね。私は初めて聞きました。」
「あ…すみません。つい夢中になってしまって。」
「いえいえ、いいんですよ。男同士だと照れくさくて、なかなかそこまで詳しくは話しませんからね。話してくださって2人のことがよくわかりました。他にも知っていることがあったら教えてください。」
そうして私達はお互いが知っていることを話し合った。
サマー家の話はいくらでもある。
しかし典子の特殊能力とエミリーの前世のことは知らなかったみたいで、亜美さんは秀次の話にびっくりしていた。
しまった。
これは言ってもよかったんだろうか?
しかし「ああ、それで…。」と考え込んでいたので、何か思い当たることがあったのかもしれない。
亜美さんと話をしていたお陰で、長い道中があっという間だった。
一緒に行こうと誘って良かったな。
◇◇◇
*アミ*
イギリスに着いた途端に暴風雨というのもびっくりしたけれど、戦争映画に出て来そうなマッチョな外人男性に声を掛けられたのにも驚いた。
「滝宮様が呼んでいる。」と言われても…信じる日本人がいると思ったのだろうか?
一度お会いしただけなので、宮様はまず覚えていらっしゃらないと思う。
しかし最初に「ミズ亜美?」と声を掛けられたので、一応確かめてみなくてはならない。
半信半疑で窓から中が見えない黒塗りの怪しい車に近づくと、宮様が車の中から笑って顔を出された。
相変わらずの爽やかなイケメンね…。
五年前にお会いした時よりも、落ち着いて男っぷりがあがっていらっしゃる。
日本の誇る王子様だ。
しかしまさか同じ車に乗って移動することになるとは思ってもみなかった。
最初は何を話してよいのかわからなくて極限まで緊張していたが、ノッコとアレックスの話をしているとあっという間に時間が経った。
宮様の話を聞いていると、アルさんの家族と親しいことがよくわかる。
それはいいのだ、それは。
お互いに上流階級の付き合いがあるのだろう。
しかし、ノッコが私達に前世が見えるという力を隠していたのには驚いた。
水臭い。
けれどノッコの立場からすると、そうそう人に言えない話なのかなとは理解できる。
そんなことを聞いて、すぐに信じる人はいないだろう。
亜美も宮様から聞いたのではなかったら、笑い飛ばしていたかもしれない。
学生時代にノッコと一緒に図書館で勉強していた時だ。
ノッコは隣に座っている人をいやに気にしていた。
しばらくすると席を変えようと急に言い出したのには驚いた。その人は静かに座っていただけで、何もこちらには迷惑をかけていたわけではなかったからだ。
そういう事が何回かあった。
そして亜美が実家を出て、地方の教員採用試験を受けようとしていた時にもおかしなことを言った。
「その県じゃない所を受けたら?」と言われたのだ。それも大した理由もなくである。
滝宮様の話を聞いた今になって考えると、何か前世が見えていたのかもしれない。
あそこにいるのは知っている人ではないだろうか?
秀次はイギリスの空港でバスに乗り遅れた女性を見た。
日本人のようだ。たぶん同じ飛行機だったんだろう。
自分たちはVIP専用の出口からそっと外に出されたのだが、それは飛行機を降りてから、だいぶ時間が経過していた。
思いがけずイギリスの外務省筋の人間がやって来て、リチャード王子の結婚式に出席する場合の手順書などを渡されてぐずぐずと話をしていたものだから、車に乗るのがすっかり遅くなってしまった。
赤い傘を開こうと四苦八苦している女の人は、どこか見覚えがある。
秀次は隣にいたお付きの守屋に尋ねてみた。
「あそこにいる赤い傘の女の人は私の知り合いじゃないのかな。」
「えっ、どの人ですって?」
「ほら、あそこの大きな荷物を側に置いてる足の綺麗な女の人だよ。」
「ああ…そうですねぇ。…もしかしたら片岡典子さんのお友達じゃあないでしょうか。」
守屋にそう言われて思い出した。確か2人いた友達の大人しいほうだ。
…ええっと、名前はなんか「友達」みたいな名前だったと思う。本人に印象はなかったが、友達が「友達」と言う名前とは面白いなと思ったことは覚えている。
フレンドは違う。友子でもない友美? 美! ミは合っている気がする…mi……ami…そうだ、亜美という名前だった。
「バスに乗り遅れたようだよ。たぶん行く場所は同じだ。乗せて行ってあげたらどうかな。」
「…しかし、宮様。」
「守屋、同胞の女性が外国の雨の中で困っているんだよ。それにここは日本とは違う。多少の融通は効くんじゃないかい? それに典子の友達なら身上調査は済んでいるんだろう?」
「そうですが…。しょうがないですね。ケネス、彼女を連れて来てくれないか?」
こちらのエージェントのケネスが、声をかけて亜美さんを連れて来てくれた。
亜美さんはおかしな人間が出てきたらこの傘でぶってやるとでもいうように、畳んだ折りたたみ傘を両手にしっかりと握りしめている。
秀次は笑いながら黒塗りのワゴン車のドアを開けて、亜美さんに顔を見せた。
「亜美さん、怪しいものじゃありません。典子のお友達の亜美さんですよね。滝宮秀次です。ご無沙汰しています。」
秀次の顔を見ると亜美さんはホッとしたようだった。
「滝宮様…。本当だったんですね。」
「典子のところへ行くんですか?」
「ええ、2人目ができるそうなのでお手伝いに来たんです。」
「私もこれから典子の家に行くんですよ。一緒に乗っていきましょう。このワゴンは大きいから荷物も載せられますよ。」
「はっ? …よろしいんですか?」
亜美さんは秀次ではなく、お付きの守屋に尋ねた。
守屋は「どうぞお入りください。宮様たってのご希望ですから…。」と苦笑している。
「さぁ、どうぞ。早く乗らないと隙間から雨が吹き込みますよ。」
無理に進めると、やっと彼女は乗っていくことにしたようだ。
「…それではお言葉に甘えて、失礼いたします。」
そう言って、秀次の通路向かいの席にちょこんと腰をかけた。
傘やハンドポーチを足元に置いて、急いでシートベルトを閉める。
ケネスが亜美さんの荷物を後ろに積み込むと、吹き降りの雨の中を車は走り出した。
「亜美さんでよろしかったでしょうか。すみません。上の名前を忘れてしまって…。」
「はい。亜美です。宗田亜美と申します。家は東京で、ノッコ、典子さんとは大学の時の同級生なんです。」
「ああ、そう言えば思い出しました。もう一人の方が地方のご出身で、貴方は東京が地元だから典子に神父さんを紹介して、そのご縁で典子がアレックスと出会ったとか言っていましたね。結果として貴方が仲人さんになったわけですよね。ご縁とは不思議なものだ。」
「本当に。…まさか典子さんがイギリスに住むことになるなんて、あの時は思ってもみませんでした。」
その時ふと、秀次は自分の今の現状も鑑みて、ポロリと独り言のように口に出してしまった。
「アルはどんなふうにノッコにアプローチをしたんだろう…。」
すると亜美さんは今までの遠慮がちな様子とは打って変わって、生き生きと話に乗ってきた。
「情熱的でしたよ! 出会ってすぐその日に、この人だと決めたそうですから。次の日にはもうノッコの家に尋ねていって、居ついちゃったそうです。」
「居つく?」
「ええ。ノッコのアパートの隣の部屋を借りて、住み着いたんですって。そしてお料理からなにからノッコに頼ったそうですよ。毎日ただいまーって言ってアルさんが帰って来るから、変だなぁと思いながらノッコはバイトのつもりで食事を作ってたって言ってました。」
「えっ、ということはノッコはアルのこと、最初は意識してなかったんですか?」
「そうなんですよー。あの子は鈍い所がありますからね。アルさんの気持ちに全然気づいてなかったみたいで…ふふっ、皇居で天皇陛下の前で付き合っている人と紹介されて、びっくりしたって言ってました。アルさんはあんなにわかりやすくノッコを見つめていたのにねぇ。」
「亜美さんは、随分詳しく知っているんですね。私は初めて聞きました。」
「あ…すみません。つい夢中になってしまって。」
「いえいえ、いいんですよ。男同士だと照れくさくて、なかなかそこまで詳しくは話しませんからね。話してくださって2人のことがよくわかりました。他にも知っていることがあったら教えてください。」
そうして私達はお互いが知っていることを話し合った。
サマー家の話はいくらでもある。
しかし典子の特殊能力とエミリーの前世のことは知らなかったみたいで、亜美さんは秀次の話にびっくりしていた。
しまった。
これは言ってもよかったんだろうか?
しかし「ああ、それで…。」と考え込んでいたので、何か思い当たることがあったのかもしれない。
亜美さんと話をしていたお陰で、長い道中があっという間だった。
一緒に行こうと誘って良かったな。
◇◇◇
*アミ*
イギリスに着いた途端に暴風雨というのもびっくりしたけれど、戦争映画に出て来そうなマッチョな外人男性に声を掛けられたのにも驚いた。
「滝宮様が呼んでいる。」と言われても…信じる日本人がいると思ったのだろうか?
一度お会いしただけなので、宮様はまず覚えていらっしゃらないと思う。
しかし最初に「ミズ亜美?」と声を掛けられたので、一応確かめてみなくてはならない。
半信半疑で窓から中が見えない黒塗りの怪しい車に近づくと、宮様が車の中から笑って顔を出された。
相変わらずの爽やかなイケメンね…。
五年前にお会いした時よりも、落ち着いて男っぷりがあがっていらっしゃる。
日本の誇る王子様だ。
しかしまさか同じ車に乗って移動することになるとは思ってもみなかった。
最初は何を話してよいのかわからなくて極限まで緊張していたが、ノッコとアレックスの話をしているとあっという間に時間が経った。
宮様の話を聞いていると、アルさんの家族と親しいことがよくわかる。
それはいいのだ、それは。
お互いに上流階級の付き合いがあるのだろう。
しかし、ノッコが私達に前世が見えるという力を隠していたのには驚いた。
水臭い。
けれどノッコの立場からすると、そうそう人に言えない話なのかなとは理解できる。
そんなことを聞いて、すぐに信じる人はいないだろう。
亜美も宮様から聞いたのではなかったら、笑い飛ばしていたかもしれない。
学生時代にノッコと一緒に図書館で勉強していた時だ。
ノッコは隣に座っている人をいやに気にしていた。
しばらくすると席を変えようと急に言い出したのには驚いた。その人は静かに座っていただけで、何もこちらには迷惑をかけていたわけではなかったからだ。
そういう事が何回かあった。
そして亜美が実家を出て、地方の教員採用試験を受けようとしていた時にもおかしなことを言った。
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