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とある悪役令嬢の弟攻略手記
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鏡に映る可憐な令嬢を見つめながら〝わたくし〟は嘆いた。
ーー遡る事、3時間前。
私、ヘンルーダ・ヴェティヴェールは、階段から足を踏み外して気を失った。
そして、目を覚ました時。
私は気付いてしまったのだ。
ボヤけ眼に映る顔触れ。
キラキラと輝く美形揃い。
その美形揃いに私は「名前」を呼ばれた。
「ルー」
と。
ハッキリしていく意識の中、鮮明に映っていく美形揃いの方々。
そして蘇る、私の記憶。
(前世と呼ぶべきでしょうか?)
「か、がみを…鏡を見せてください」
なんとか絞り出して出た言葉に、逸早く対応してくれたのは、紅い瞳の少年だった。
「姉様」
心配そうに言いながら少年は私に手鏡を見せてくれた。
(儚げな、だけども、意志を曲げなさそうな強気な紅い瞳、灰色の長い髪、唇の色は桜色)
ーー私はこの顔に見覚えがあった。
〝Chrysantheme(クリゾンテム)〟
生前の私がやり込んだ乙女ゲームのタイトル。
この作品の登場人物は全員、花や草木の名前が使用されている。
作品タイトルも、勿論、花の名前である。
意味は〝変わらぬ愛〟
大まかな内容は…
庶民上がりのヒロイン令嬢〝モーヴ〟
彼女の〝純情な愛情と優しさ〟で、闇を抱えた攻略対象者達を癒して結ばれる、そんな在り来りな内容である。
私はそのゲームにハマっていたのです。
「……」
ゆっくりと自分の顔を撫でる。
そして落胆した。
私が転生したのは、所謂〝悪役令嬢〟であり、最推しの実姉だったからーー
(よりにもよって、1番大好きなキャラクターの姉に転生してしまうなんて)
「ルー、大丈夫かい?」
私の額に手を充てながら、青年が顔を伺って来た。
ゲームでちょっと見た事がある。
攻略対象者では無いけど、彼は私の実兄
「ブラシュ兄様…」
「良かった、私が誰か解るんだね」
こくり、と私は頷いた。
すると兄は安心した様に微笑んだ。
「ね、姉様…僕の事は…」
兄の横に立っていた少年が不安そうに呟く。
「シティス…」
「良かった」
ホッと胸を撫で下ろす姿に、愛おしさが込み上がってくると私は瞳を細めた。
「暫く安静にしてた方が良い」
「そうね…ほら、貴方達、一旦部屋を出ましょう」
寄り添いながら、造形美の男女が兄と弟を見て言った。
(この2人が私の両親か)
優しそうな両親、美形の兄と弟
こんな家族に囲まれて、何故私は〝悪役令嬢〟
になんてなってしまったのだろう
ヘンルーダ
意味は〝悔根、軽蔑〟
「また後で様子を見に来るからね」
兄の優しい声に小さく頷く。
私の反応を見ると、家族は部屋を出て行った。
「ヘンルーダ・ヴェティヴェール」
私の名前。
ゆっくりとベッドから上半身を起こすと、手鏡を覗いた。
(あぁ、何たる不幸、何たる因果)
鏡に映る可憐な令嬢。
「私の恋は報われない」
何故なら、私の好きな人はーーー
実弟のシティスなのだから。
ーーと、なるのがセオリーなのでしょうが。
生憎、前世を思い出した私は違うのです。
そう易々と理想を具現化した人を諦め切れる程、人間性も出来ていません。
不幸中の幸い、私はこれから起こり得る結末を知っている。
最推しルートは完璧に熟知済みなのです。
(何せやり込みましたから)
「…どうせ私は悪役、悪の華を咲かせて見せましょう、ヘンルーダ」
鏡の自分に決意表明。
弟攻略、開始
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