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魔封師の詩
魔封師の詩ー1ー
しおりを挟む『サックラー村まで5km』
被っていたフードを少しあげ、立て札を読んだ旅人は、ため息をついた。
「参ったな、道を間違えたか、、、」
引き返すべきかと今来た道を振り返ったり、そして空を見上げる。
西に傾いた陽は前方の森に差し掛かっている。
今来た道を戻っても、街に着くには陽はとっぷりと暮れた頃だろう。
そう判断した旅人は、このまま森を抜けることにした。
夜は魔族の時間。
そうでなくても、薄暗い森は昼間といえど、魔族達と遭遇する危険があるため、旅人の足も自ずと早くなる。
腰には、短剣を帯いているが、魔族に遭遇したら、心許ない。
森に差し掛かると、魔よけの香水を体に纏う。これで魔力の弱い魔物は近づかない。後は強いヤツに出会わないことを祈るだけだ。
深い木々もまばらになり始め、そろそろ村道に出るかという頃、突然、ザワリと森の空気が動いた。
旅人は気配を感じようと足を止めた時
「キャー」
若い女の声が聞こえてきた。
「チッ」
旅人は声のした方へ駆け出す。
道のない森の中を駆けているとは思えないほど身軽な動きだ。
女の助けを呼ぶ声は近く、直ぐに姿を見つける。
年若い娘をカラスに似た魔物が取り囲んでいた。
しかし、魔物は取り囲んでいるだけで、攻撃をする気配はない。
しかし、その事を魔物を見て取り乱している娘が、気づくわけもなく、恐怖でガタガタと震えていた。
ようやく、駆けつけた旅人に気づき
「助けて」
娘が叫び声に、ビクッとしたのは魔物の方で、バサバサと羽音をたてて少し距離を取る。
それでも、娘から離れるつもりはないようだった。
「騒がないで」
旅人は静かに語りかける。
彼らは、こちらから危害を加えなければ襲ってこない安全な魔物なのだ。
「騒がなければ襲ってこないから」
旅人が娘に近づくと、一定の距離を取りながらも、魔物たちは2人を取囲む。
そんな魔物の様子を見てから、旅人は冷ややかな視線を娘に向ける。
「君、彼らに何かした?」
「え?」
助けに来てくれたと思った人が、何故か非難しているような口調で聞いてくるので、娘は一瞬、体を縮こませる。
「彼らは、こちらが何もしなけらば、襲ってこないよ?」
「イチゴを摘みにきただけ」
娘は震えながらも、小さな声で答えてくる。
「ああ、イチゴですか」
旅人は娘が抱えているカゴの中を覗き込み、イチゴをより分けていくと、中から1個のイチゴを取り出す。
他のイチゴより赤く大きなイチゴだ。
「彼らは、仲間を取り戻しに来たんだね」
「、、、いつの間に、、、」
娘は、摘んだ覚えのないソレを見ている。
旅人は、魔物の群れにソレを差し出す。
「さぁ、お行き。もう、人に近づいてはダメだよ」
旅人の手の中にあったソレは、黒い靄に包まれたかと思うと、カラスに似た魔物へと変化し、翼を広げると仲間と共に飛び去って行く。
「何事もなくて、よかった」
旅人の声から、ようやく緊張がとけ、娘もほっ息を吐く。
「怪我とかは、しなかった?」
「は、はい。ありがとうございます」
娘は、助けてくれた旅人の未だ若さの名残のある端正な顔だちと、先ほどとは打って変わった優しげな声に思わず頬をそめる。
そんなことには無頓着な様子で旅人は声をかける。
「陽もだいぶ陰ってしまったね。急いで森を出ようか」
「今日はサックラーにお泊まりですか?ウチ、宿屋なんです」
「それは良かった。探す手間が省ける」
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