マルチ商法女と戦っていたら、もっととんでもないものと戦うことになってしまった件

青山済

文字の大きさ
5 / 62
第一章 マルチ商法女、攻撃作戦

第四話 インターネット特定班、行動開始

しおりを挟む
「ニューリのマネーフローゲームセミナー」



これがイベントの名前だった。ニューリは名字の読みを変えたものだろう。彼女はネットでこの名前を使っているようだ。

済が引っ掛かったのはイベント名の後半だった。

マネーフローゲーム。

済はこの名前に聞き覚えがあった。これは「大富豪パパと大貧民パパ」という自己啓発本の作者が考案したボードゲームである。この自己啓発本、ノンフィクションと言っておきながら実は大富豪パパが実在しないことが暴露されてしまっており、作者の成功を書いたものというよりはマネーフローゲームの販売やセミナーで作者が成功するための本であると言われていた。実際、この本がベストセラーになったことで作者はかなりの収入を得た上にセミナーも高額である一方、本を出版する前の業績はパッとしなかった。ゲームの内容はというと、雇われ人の立場を抜け出して経営者や投資家になってゴールを目指すというものであり、本の中でマルチ商法が肯定的に取り上げられていることも相まって、マルチ商法の勧誘に頻繁に使われていた。持ち込み禁止のボードゲーム会が非常に多く、ボードゲーム好きというよりはむしろ、悪徳商法マニアに有名なボードゲームだった。

吉井大介(済は彼を「ヨッさん」と呼んでいる)もこのことは知っており、イベントページやコメントを見せたところ、入里麻里奈がマルチ商法をやっているのはほぼ間違いない、ということで見解が一致した。
吉井は済の大学時代の同期で、同じく古のインターネット民である。宗教思想や悪徳商法への興味が強い済よりもさらにインターネット寄りで、掲示板での叩き合いや特定祭りも手慣れたものだった。二人とも、成績は良いがどこか狂っているところで波長が合い、一緒に特定作業をしたことも何度もあった。

一晩明け、すっきりした頭でメッセージを送る。今日は土曜日、時間はたっぷりある。

「それでさ、こいつがどこのマルチ商法をやってるか特定して突いてやろうと思うんだよ。ヨッさんも協力してくれ。」
「よっしゃ分かった。手分けして特定しよう。まずは作戦準備からだな。」

こうして東京・大阪二拠点での入里麻里奈特定作戦、プロジェクト・ニューリの蓋が切って落とされたのである。作戦準備ということで、まずはコンビニへ走ってエナジードリンクや酒、食事を買い込む。春の朝はまだまだ肌寒い。エアコンで室温を整え、デスクトップPCの前に陣取る。手の届く範囲にエネルギー源を準備したところで作戦開始である。

「よし、準備完了だな。まずは作業分担と行こうか。フレンドになってる俺がFacebookを辿るから、ヨッさんはGoogle検索や別SNSを頼む。」
「任しておけ。」

済はFacebookの投稿確認、吉井はGoogleでの検索を始める。Facebookの投稿については、マルチ商法の勉強会メモや名刺の整理をしている投稿が出てきたものの、めぼしい情報はなかった。平日昼間に中目黒カルマタワーの写真をアップロードしていたのが妙に気にかかり、一応メモしておく。一方吉井は「ニューリー」というHNから、早々とTwitterとInstagramのアカウントを特定していた。

「Facebookのほうは意外とガードが固いな。確定できる投稿が見当たらない。」
「それじゃこっちを手伝ってくれ。TwitterとInstagramを辿ろうぜ。」

済はInstagram、吉井はTwitterを辿ることにする。かなり念入りに調べてみたものの、高専関係のイベント写真や食事の写真ばかりで、それらしい投稿はなかった。

「こいつ意外と慎重だなー、なかなか尻尾を出さない。やってるのは間違いないと思ったんだけどな。もしかして、マネーフローゲームは真面目にやってるだけだったとか?」
「ヨッさん、まだ諦めるには早い。あのコメントからしてマルチをやってるのは確実だと俺は思う。それに、インターネットで活動したからには必ず痕跡が残るはずなんだ。選民思想野郎にコケにされたままじゃ、古のインターネット魂がすたるってもんよ。」
「何だそりゃ!笑」
「とにかくもう一度Facebookを辿るぞ!」

Skypeで画面を共有し、通話しながら投稿を辿っていく。すると、三ヶ月ほど遡ったところで怪しげなセミナーの投稿が増え始めた。二百人くらいで集合写真を撮っているが、素晴らしい仲間と高めあった、というような抽象的な説明だけで中身の説明はない。コメントで何のセミナーか質問されても

「気になるなら後でこっそり教えてあげますよ☆」

と、イラッとする末尾の☆スタイルを保ちながら答えていた。

さらに遡ったところ、十二月頃に見たこともないアミノ酸サプリメントの投稿が行われていた。

「ワタル、これはもしかして尻尾を掴んだか?」
「いやまだ分からん、付き合いで買っただけかもしれないからな。でもマルチの商品なのは確かだ。」

サプリメントのブランドを検索すると、ネイチャーバンテージというマルチ商法の商品であることが分かったが、単に付き合いで買っただけの可能性もあり、まだ断定はできなかった。

特定には慎重を喫し、そこからさらに遡ること二ヶ月分、二人の前に確定的な情報が現れたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...